第五話 クーラとこあ
くしゃくしゃになっているメモ帳とパンフレットを片手に、クーラは宇宙博物館の建物に入る。
入場料を払い、次に来たのは集合写真の前で、事故として処理されたロケットが大気圏外でボロボロに崩れた件の、その乗組員達の物だった。集合写真の中には、ドクターグレーの姿も。
遅れて少女も入場してきて、クーラの横に立つ。
「君、こあちゃんね!」
「大声出さないでください周りに迷惑です」
「ごめん」
二人黙って見物。
クーラの周りとちょろちょろこあがついてまわって、痺れを切らしてぷりぷり怒る。
「ちょっと、どうして私の周りのうろちょろするの!」
「うるさい周りに迷惑です」
と言って周りに見えないように銃をつきつける。
「むー……」
もやもやしながらも宇宙博物館を出る。こあは近くの公園にクーラを誘い、ベンチに二人座った。
「ではクーラさんが気になってたであろう、ついて行ってた理由を明かすとしましょう」
「何よ」
ナイフを丁寧に手入れしつつ、濁った瞳を更に濁らせる。手入れが終わってしまうと、ようやく口を開き始めた。
「お兄さんに頼まれたんです。何で嫌いなあたしに頼んだかは謎ですが、クーラさんを守って欲しいって」
「ふーん。ま、私にかかれば自分で身を守れるけど」
こあは首を横に振る。眉を潜めて、嘲笑うような表情で口元を押さえる。
「貴方アホですからね。お兄さんが心配になるのも分かります」
「もー!」
その嘲笑いは、幸せそうな笑みへと変わっていく。
「あ、それとお兄さんから誠さんの件聞きました。その、残念に思います」
「どうしてそれを?」
「どうしてって、昨日貴方担いでたでしょう。どこに置いてきたのですか?」
「あのグレーとかいう奴が、焦った表情で取り返しに来たかな。んでこのメモ帳とパンフレット落としたから、一件一件まわってる」
こあが太ももに手を置き、首を少しだけクーラの方へ向ける。特に返事はせず、ただクーラを見る。
「顔に何かついてる?」
「いえ、その、あたしも。やっぱり何でもないです。事情は分かりました。ふと用事思い出したので、買い物付き合ってくれませんか?」
「分かった。どこ行くのかしら」
小型のバッグからメモ帳を取り出して、パラパラめくる。今日の日付の所に、食べ物やら工具やら色々書き込まれていた。
字も丁寧で、ボールペンで書かれているようだった。メモ帳自体も使い古されてるのか、かなりくしゃくしゃになっている。
「まずは商店街にある駄菓子屋へ。よく行くのです」
二人は横に並んで公園を出た。
この時代にしては珍しく活気のある商店街。するすると人ごみをすり抜けると、老夫婦が経営してる駄菓子屋へと着く。
今日はお婆さんだけがいて、こあを暖かく迎えてくれた。クーラも丁寧に挨拶を交わす。真っ先にこあは棒つきの飴を取って、クーラに差し出す。
「これ、買ってください。クーラさん」
「え? いいよ。意外と可愛い所あるのね!」
こあは顔を赤くしてクーラからお金を貰う。支払うと、今度はお勧めのお菓子を教えて、銃をつきつけながらも幾らか買わせた。
お婆さんがお茶をすする。
「こあちゃん、お姉さんの事好きなのねぇ。ほっほっほ、よい事じゃ」
こあは口を尖らせてそっぽを向く。
「別にこんなアホな人好きじゃないです。お兄さんの方が数倍マシです」
クーラとお婆さんは、顔を合わせて苦笑いした。
両手に多くの駄菓子を入れた袋を持つクーラと、その彼女に買ってもらったお菓子を若干嬉しそうに舐めるこあ。
時は既に夕暮れ。こあぐらいの少年少女も後ろに荷物を担いで下校に勤しんでいた。
「そういえば、こあちゃんってどこに住んでるのかしら?」
「えっと、色々です」
頭上にハテナマークを浮かべるクーラ。よく分からなかったけど、深く追求しない事に決めた。
交差点で立ち止まり、こあとクーラ二人、別れる事になった。
「じゃ、また明日ね。こあちゃん」
こあはそのまま俯きながら、クーラが着ている服の袖を掴む。
「どしたの」
「まだ一緒に、いたいです……」
この時、予想外の発言に思わず心臓を一瞬大きく動かしてしまう。
こあ自身は顔を赤くしてクーラにしがみつく。
通行人がちらちら視線を送るが、それでもこあはクーラに密着する。
クーラの体温も高くなっていく。こあの肩を寄せて、そのまま帰路へと着いた。




