第四話 怪盗謎解かない少女
翌朝、気持ち良い晴天で空も泳げそうなほど澄み渡っている。
気持ちが曇天のように暗い雷太はクーラやシンセラティのなきがらと一端別れ、地図が示すままにふらふらと道を歩く。
「『力』が何か分からない。でも、俺は行かなければいけない気がする」
力無く呟きながら、着いたのは猩々緋家の豪邸、大きな門の前だった。
片眉を潜めながら、訳の分からないような表情でキラキラ光る豪邸を、ただ見つめる。
門番をしている黒のスーツ、真っ黒に鈍く光るサングラスをしている、明らかなボディーガードらしき人間が雷太を睨む。
「何か猩々緋様に御用でしょうか」
「地図のまま来たらここに着いたんだがよ、御用なのはそっちじゃないのか?」
ボディーガードはメモ帳をパラパラとめくり確認、首を横に振る。
「お客様リストには記載されてませんね。お引き取りください」
「ああ、そうか。俺おちょくられてたんだな。時間取らせて悪かった」
「いえいえ」
踵を返して帰ろうとした矢先、豪邸の大きな扉が豪快にも開かれ、ドタドタと走ってくる音が雷太には聞こえた。
「開けてー! 門番の人開けてー! うちが昨日呼んだの!」
慌てて門を開く。風音は雷太の右手を持って強引に敷地内へ引き込む。
「おちょくったんじゃないのかよ。もう、何もしたく無いんだ」
「そんな事ない! ほら、とりあえずうちの部屋に来て」
言われるがまま風音について行く。何度も階段をのぼり、長い廊下を渡ってようやく風音の部屋の前へ。
部屋の扉を開ける。ふかふかのベッドには、風音の弟である猩々緋太陽が炭酸飲料を飲みながらちらっと雷太の方を見た。
風音が太陽の元に歩み寄り、ぷんすか怒りながらどこからともなくフィッシュ&チップスを取り出し、食べながらもがもが怒る。
「ふがふが! ふがふがふがふがふが! ふがふが!」
訳すと「こら! ベッドの上で飲み物飲まないの! 分かった!」と言っている。
「おう、悪かった姉貴。それよりそこの奴は誰だ」
「俺は緑埜雷太。事情は知らねぇが連れてこられた身だ」
「理由は後で説明するね。それより太陽! 魔女の村に行くよ」
それを聞いて突然立ち上がり、目尻から炎をちまちま出しながら自分の姉をサングラスの下から見る。
「何をするつもりだ? とりあえず僕は反対するね」
「行くの!」
「いくら姉貴の頼みと言えどあそこはダメだ。分かってくれ」
「やだ!」
困り果てた太陽は携帯を取り出し、適当にいじりだす。
しばらくして、風音に携帯の画面を見せた。メールの主は風音達の父親からで、内容は魔女の村には行くな、と書いてある。
「おやじに止められても行くつもりか? 姉貴」
「行く!」
ベッドにふて寝して「勝手に行け」と呟き、漫画を読みだした。
すぐさま漫画を取り上げ赤いバンダナを取る。なぜか生えてる獣の耳を強引に鷲掴みして引っ張って部屋を出た。
「いだいいだい! 分かったから離してくれ!」
困惑しながらも、雷太は仕方なく風音の後ろを歩く事にした。
バスを乗り継ぎ、そこそこ遠い距離を移動して魔女の村へ着く。時間は昼頃をとっくに過ぎていた。
文明という文明の片割れも見受けられず、雑に木材と土で作られたような家の数々。大都市とはまるで違う人達の恰好が見受けられる。
頭を抱えて獣の耳を隠すように歩く太陽と、堂々とその前を歩く風音。目をキョロキョロさせて怪しい動揺を隠せない雷太。
魔女や魔道士の恰好をした通行人にチラチラ見られながらも、着いたのは村の一番奥、大寺院みたいな建物へ続く石で出来た長い階段の前だった。
「……僕も、ここに来るのは久しぶりだぜ。そう、無理矢理おやじに連れてこられて」
風音が真剣な表情で待ったのポーズを取る。応えるように暗闇の始まりになりそうな話は途切れてしまう。
「とりあえずのぼるよ。太陽も雷太君も準備はいい?」
黙って頷く弟と、何が始まるか全く理解してない赤の他人。苗字的には緑だが。
訳も分からず頷いて、石の階段をゆっくりのぼり、そこそこの時間を得て大寺院の庭に踏み入れる。
必死に落ち葉の掃除や洗濯物している魔法使い達が、ざわざわと辺りをざわつかせ、気になった大寺院の主である70代の魔女の恰好をした、少々痩せた魔女のお婆さんが大きな扉を開けて出てきた。
「あなた、猩々緋の所の。何の御用ですか」
冷たい口調で言われるも、負けずに風音は腰に手を当て、そして指を差して言い放つ。
「うちは怪盗謎解かない少女! 覚醒の魔法の書を奪いに来たよ!」
お婆さんは舌打ちをすると、辺りにいる魔女に攻撃するように指示。
主に念力みたいな魔法が多く、辺りの石や土やら色々な物が風音達の方に集中する。
「太陽、頼んだ!」
「おうよ!」
獣の耳から炎をメラメラと燃やし、右手にも炎を宿すと、左の頬へと手を振りかざしてから地べたに拳を落とす。
炎は飛んできた物体の数々に飛び移り、全てを爆裂させた。
それぞれ塵となり、恐れおののいた見習いの魔女達は逃げ出してしまう。
暮らしてきた大都市とはあまりにも違いすぎる光景に、雷太は怖がって足を震わせ、あぶら汗をかく。
「何してるの雷太君! 後ろから大きな岩が迫ってる!」
最終的に、ぼーっとしている雷太の手を半ば強引に引っ張って大寺院の方へ向かう。
大きな岩を操っているお婆さんはギリギリまで接近させたが、建物が壊れると判断して入り口を塞ぐようにゆっくりと置く。
「これで逃げれませんよ。仮に覚醒の魔法の書を奪ったとしても。その間に精鋭を集めて……ヒッヒッヒ!」
風音は焦らず辺りをゆっくり見渡して、お婆さんの横を通り過ぎる。
「ど、どこへ行くのです? まさか、魔法の書の位置が!」
焦って風音の手を引っ張って連れ戻そうとするも、振り返りもせず払いのけた。
数分して戻ってくる。その手には小さな魔法の書がある。
「雷太君、覚悟してね」
「な、なにが……だよ?」
パラパラと魔法の書をめくると、何やら色々書き込まれた魔法陣を雷太の方に見せる。途端に光だし、やがて魔法陣は色を失って見えなくなってしまう。
「目を瞑って。何が見える?」
言われるがまま視界を閉じる。静かな時が続き、再び目を開く。
「緑色の電気が色んな方向に走ってる」
「うん! じゃあ決まりだね。岩の方に手の平を向けて、頭の中で見た物をイメージしながら力を込めて!」
雷太の言った通り、緑色の電撃が岩に向かって放たれる。一瞬にして岩は砕け散ってしまった。
風音もビックリするほどのパワーだったらしく、思わず「おー」と声が漏れる。
「これが、力、なのか?」
自分で放った物に自分で驚いている。そんな中太陽が叫ぶ。
「姉貴とお前逃げるぞ! 色んな魔女が来てる!」
無意識のまま駆け出す雷太と、姉の手を持ち反対の手から大きな火炎放射を出して道を開ける太陽。
そのまま、魔女達を振り切って魔女の村を出た。
無我夢中で走り、気づいた頃にはすっかり暗く星空が瞬く。
太陽が右手からろうそくのように小さな炎で辺りを照らす。
「何で、風音さんはここまでして俺に能力を与えようと?」
「だって、こあちゃんのお兄さんでしょ? 明らかに希望から目を逸らしてると思ってね!」
「よく分からねえがよ、考えてくれてありがとう」
えへへ、と照れくさそうに後頭部をぼりぼり掻く。お腹を空かせた太陽は、木の根元に座り込み、その周りに風音と雷太も座る。
そのまま風音と太陽は深い眠りへとつく。
一方雷太は携帯を取り出し、妹であるこあにメールを送った。




