#17 3人目
【女子受刑者エリア】と書かれた扉の前。
「お前たちはここで待機しろ。レンズマンとローチトラップから目を離すなよ」
「「「了解しました!」」」
ロックがここまでついてきた看守たちに命令し、中には彼と、俺とルナの3人で入ることになった。
「なんで男性の看守は外で待つんですか?もしかして、男子禁制?」
「いや、そういうわけではありませんが…今から向かう囚人には、男性看守を会わせない方がいいんです」
ルナの質問に意味ありげに答え、扉を開けるロック。
中には、女性看守たちがすでに待機していた。
「では、行きましょう」
◇◇◇◇◇
名だたる女性ヴィランたちの独房を通り抜けて、俺たちがたどり着いた独房。
「…コピーキャット!起きなさい、お客様よ。あんたは仮釈放されるわ」
女性看守が、中の囚人に声をかける。
「…コピーキャット?やっと知ってるヴィランだわ」
ルナの目が輝いた。
「【コピーキャット】。本名、シャム・ファタール。スーパーパワーは、“変身能力”。一度触れた“同性”の姿を、そっくりそのままコピーできる。外見だけじゃなくて、体重、指紋、声紋、網膜、血液型から話し方のクセまで。
その能力を使って、スパイ行為を繰り返した“魔性の女ヴィラン”ね。ただし、スーパーパワーだけはコピーできないけど…」
ファイルを渡す必要もなかったな。
スラスラと話していったが、だんだんとルナの声のトーンが下がっている気がする。
「どうかしたか?」
「…いや、なんで私がこんなにコピーキャットに詳しいかを思い出したの。
だって彼女…ナイトクロウとのロマンスが噂されてたでしょ!?ナイトクロウ推しとしては絶対に避けて通れないヴィランだもん」
(個人的な感情で選出したなら怒るからね…!)
口には出していないが、彼女の目がそう物語っている。
…はぁ。
「ナイトクロウとコピーキャットとの間にはなにもないぞ。コピーキャットの方が一方的に、気を惹こうとちょっかいを出してただけだ」
それをメテオシティ・タイムズが『ナイトクロウとコピーキャット、禁断の恋!?~愛し合うヒーローとヴィランは、現代のロミオとジュリエットなのか~』みたいなタイトルのゴシップ記事を書くから、こういう誤解が生まれる。
実際のタイトルはもう忘れた。もしかすると、もっと恥ずかしかったかもしれない。
結局、その記事を読んでナイトクロウ─俺に受け入れられたと勘違いしたコピーキャットに、メテオシティ中を追いかけ回されたこともある。
ヴィランがヒーローを追うなんてめちゃくちゃだが、他にも彼女とは色々あったな。
が、ここでは言わない。
(いや教えてよ!)
そう目で訴えかけるルナを無視して、俺も独房に近づく。
≪MEOWWW…≫
ネコの鳴き声のようなあざとい声をあげ、ベッドから起き上がるコピーキャット。
刑務所内だというのに、ピンク色のストレートヘアは手入れが行き届いている。
大きく背伸びをすると、囚人服に包まれた豊満な体が強調された。
「…悔しいけどうらやましい」
ボソッとつぶやくんじゃない、ルナ。
「…あら?お客さんって、そちらのかわいいお坊ちゃん?」
コピーキャットがぺろりと舌を出す。
「あなた、クライ産業の社長さんね?ワタシになんの用?もしかして、ここから連れ出してお嫁さんにしてくれる、白馬の王子様とか?」
そう言うと、顔の横でネコのように手を丸め、首をかしげてウインクする。
「…やめなさい、みっともない。カイト社長ほどの人に、あんたの猫かぶりが通用すると思ってるの?」
その場の冷え切った空気を代弁するかのように、女性看守が口を開いた。
「…はぁ」
その途端、コピーキャットの顔から笑みが消え去る。
「まったく、猫かぶるのも楽じゃないってのに。それにしても看守さん、言いすぎじゃない?」
そう言うと、独房の中で女性看守に“変身”した。
身に付けていた囚人服も、看守の制服へと変化している。
「『みっともない。あんたの猫かぶりが通用すると思ってるの?』だって」
女性看守と全く同じ声、同じ話し方で、自分が言われた台詞を繰り返して皮肉った。
「…とにかく、お前は仮釈放される。だが好き勝手しゃべらせると危険だ。手錠だけでなく、口かせもつけてもらうぞ」
ロックにそう言われると、コピーキャットはどこかの幼女の姿に変身した。
身長も、一気に縮む。
「えぇ~、なんでそんなひどいことするの?いじめないで!」
「黙れ!猫かぶり女。お前は男性看守をたぶらかして、今までに6回の脱獄未遂を起こしてるだろうが」
「…」
ロックにも彼女の手は通用しないと分かって、コピーキャットは元の姿に戻った。
独房から出て、素直に手錠と、口かせをはめる。
「…」
正直、俺はなにも感じないが、特殊な趣味を持つマニアが見たら喜ぶ光景かもしれない。
「これで安全です。では、外まで戻りましょう」
◇◇◇◇◇
女子受刑者エリアを後にすべく、来た道を戻る俺たち。
だが、俺たちがコピーキャットを連れているのを見て、他の囚人たちが騒ぎ出した。
「おい、コピーキャット!」
「また男に媚び売って、自分だけここから抜け出そうってのかい!」
「このビ×チが!」
触れたものを錆びつかせる【ルスト】、女盗賊【ミセス・ロビンソン】、全身をダイヤに変えられる【カラット】…様々な女性ヴィランが、独房の中からコピーキャットに罵声を浴びせる。
ちらりとコピーキャットを見ると、罵声にウインクで返す余裕を見せていたが…
彼女の瞳がどこか悲しげなのを、俺は見逃さなかった。
コピーキャット。
その能力のせいで、彼女は幼いころから“本当の自分”を愛してもらうことがなかった。
誰もがコピーキャットに『変身してほしい』と頼むが、誰一人として、彼女自身を見てくれる人物はいなかったのだ。
男たちは、彼女の変身能力をいいように利用し続けた。
だが、いつしか彼女は能力を使って、逆に男たちを利用するようになった。
“魔性の女ヴィラン”として。
『だからワタシはあなたが好きなのよ、ナイトクロウ。ワタシを一人のヴィランとして認めて、対等に戦ってくれるあなたがね』
全て、コピーキャットとの戦いの中で、本人から聞いた話だ。
姿を偽り、嘘をつくスパイである彼女だが─その言葉は“本物”だった。
「私、コピーキャットはあんまり好きじゃないけど」
ルナが口を開く。
「あそこまでひどく言われなくてもいいのにね」
「…かもな」
「そういえば、一つ疑問に思ったんだけど」
「どうした?」
「女子受刑者エリアには、女性ヴィランが収監されてるんでしょ?さっきのローチトラップも女性なのに、どうして別エリアだったのかなって」
「あぁ。それは、囚人たちが暴動を起こしかけたからですよ。『ゴキブリと同じエリアはいやだ』とね」
ルナの疑問に答えたのは、ロックだ。
「だから、彼女を隔離せざるをえなかったんです」
「…さっきの罵声といい、闇が深いわね」
なるほどな。
「アンチ・ジャスティス・ギルド、ここまでのメンバーは全員、はみ出し者、嫌われ者って感じね。最後の1人がどうなのか気になるわ」
「もうすぐに会える。想像しているよりも…案外、“大物”ヴィランかもしれないぞ」
カメラ、ゴキブリ、ネコ…次のメンバーは?
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次回もお楽しみに!