#18 4人目、そして…
女子受刑者エリアを出て、待機していたレンズマンやローチトラップたちと合流する。
いよいよ、4人目のメンバーと顔合わせだ。
向かうのは、ヘルゲート刑務所の最深部。
「先に言っておきますが…」
先導するロックが、俺たちに振り向く。
「ここから先は、ヘルゲートの中でも最凶のヴィランが収監されているエリア。今までの危険度とは比べ物になりません。くれぐれも、お気をつけて」
これまでとは明らかにちがう、厳重な鉄の扉。
“SUPER MAXIMUM SECURITY”の文字が、危険なヴィランが中にいることを物語っている。
看守たちも、強化アクリルのシールドを装備し出した。
《BEEEEP!!》
今までよりも重々しいブザー音が鳴り響き、扉が開く。
「…」
赤い照明に照らされた通路を進む。
異様な雰囲気を、3人のヴィランも感じ取っているようだ。
…いや、レンズマンだけは、相変わらず表情が読めないな。
《HAHAHAHAHAHAHAHA…》
どこからか響いてくる狂気的な笑い声は、道化師【ラフメイカー】のものだろう。
「…ひぃっ」
怯えるローチトラップが、頭を抱える。
「…誰かに見られてる気がするんだけど」
そうつぶやいたルナが、周囲を見渡すと…
独房から、大きく目を見開き、しかし無表情で、じっとこちらを見ている囚人がいる。
スキンヘッドに、傷だらけの体。
「…ポーカーフェイスか」
【ポーカーフェイス】。“あらゆる感情を感じない”という能力のヴィランで、彼が抱くのはただ“殺意”のみ。
被害者への情けや容赦が一切なく、“痛み”を感じることもない。
無表情でただひたすら殺戮を繰り返す、サイコ殺人鬼だ。
「目を合わせない方がいい。行くぞ」
足早に通り過ぎた先の独房は…なんだか、妙に寒いな。
だが、中を覗いて納得した。
氷点下でしか生きられない冷凍人間【プロフェッサー・ポラリス】の独房だ。
「あっちの独房は、扉の隙間から植物の根っこが這い出してるわよ」
「多分、【ボタニカ】の独房だろう」
「植物を操る、エコテロリストの女ヴィランね」
ルナが辺りを見回す。
「ここに収監されてるのは、ジャスティス・ギルドの宿敵級の超大物ヴィランばっかりじゃない。今まで微妙な人選が続いてたから不安だったけど、これは期待できるわね…いや、大物ヴィランを仲間にするとなると、それはそれで不安だけど…」
「問題ない。解放したヴィランたちを命令に従わせる方法は、もう考えてある」
「えっ?」
「当然だろ。俺が目先の復讐だけにとらわれて、なんの対策もしないでヴィランを解放すると思うか?」
そう。ヒーローというものは、いつでも抜かりなくあるべきだ。
◇◇◇◇◇
「…カイト社長、つきました。この独房です」
ここか。
この独房の中に、4人目のメンバーがいる。
「お前たち!」
ロックが部下の看守たちに、声高に命令する。
「囚人は拘束されていて動けないはずだが、万が一妙なマネをしたら撃て。もっとも、彼女に弾丸が命中するとは思えないがな」
シールドを持った看守たちが隊列を組む。
「…よし、扉を開けろ!」
《BEEP》
「…4人目のメンバーは、このヴィランなの!?」
ルナが驚く。
「言った通り、“大物”だっただろ?」
「…レッドライトニングと全く同じスーパーパワーを持つ高速移動能力者、【ファストレーン】じゃない!大物中の大物よ!」
独房の中にはいたのは、ストレッチャーに全身を拘束された女ヴィランだ。
ファストレーン…本名マックス・レーン。
元メテオシティ・ハイスクールの生徒。
陸上部に所属する優秀な選手で、世界大会出場の可能性もあった。
だが、過酷な練習によるケガが原因で選手生命を絶たれてから…彼女の転落が始まった。
彼女は不良の道へと走り、ある日、特殊な薬品─つまり、危険なドラッグ─を服用し…偶然、身体に化学変化が起こった。
地上最速のヒーロー、レッドライトニングと同じ、超高速移動能力を手に入れたのだ。
「スーパーパワーを手にしたマックスは、ファストレーンと名乗り、暴走・破壊行為を繰り返した。彼女と戦ったのはナイトクロウと…レッドライトニングだ」
「2人で協力して捕まえたの?ちゃんとヒーローチームっぽいことしてたのね」
「いや。実を言うと、少しちがう」
ヒーロー活動の名のもとに暴走しがちだったレッドライトニングは、彼女を徹底的に痛めつけ…その場で殺害しようとした。
俺はそれを制止し、法で裁くべきだと主張したのだ。
正義という大義名分を振りかざして人の命を奪うことは、相手が犯罪者であっても許されるべきではない。
しかし、今思えば、俺以外のジャスティス・ギルドのメンバーは、ヒーローとしてならば、どんな行為も許されると考えているような連中だった。
「ファストレーン、お前を仮釈放する」
ロックの言葉に、無言だった彼女はようやく口を開いた。
「…仮釈放?アタシを捕まえて以来、身動き一つとれなくして、ずっとこの部屋に閉じ込めてきたくせに?今更外に出て何になるっての?」
かなり挑発的な口調だな。
元からか、それとも、彼女の境遇がそうさせてしまったのか。
「アタシは行かないから」
「決めるのはお前じゃない。こちらのお方…カイト社長だ」
「金持ち社長の気まぐれなら、なおさらごめんだね」
ファストレーンが、冷ややかな視線を向けてくる。
「…アンタは想像したことないでしょうね。たった一度の過ちで、永遠に世間から排除されるアタシみたいな人間の気持ちは」
…本当に、そうだろうか?
「…お前にとっての過ちは、ヴィランになったことか。それとも、夢を絶たれて自暴自棄になったことか。どっちだ?」
「…なにそれ、意味わかんないんだけど」
「まぁいい。とにかく、拒否権はない。他の囚人たちと一緒に、クライ産業の施設まで連れていくぞ」
「…ちっ」
全身を拘束されている彼女に、抵抗は無理だ。
ストレッチャーに乗せられたまま、ファストレーンは独房の外へ連れ出される。
「これで、4人全員の引き渡しが完了しましたね。あとは屋上のヘリポートまで戻るだけです。行きましょう、カイト社長…」
◇◇◇◇◇
「こうやって一人ずつ仲間が増えていくのって、なんだかゲームのパーティーみたいね」
ヘリポートへと引き返す途中、ルナが何気なく口にした。
なるほど。
先頭には、俺とルナ、ロックの3人。
その後ろには、周りを看守たちに囲まれ、レンズマン、ローチトラップ、コピーキャット、ファストレーンが一列に並び歩く。
「まぁ、ずいぶん妙なパーティーだけどな」
「でも、ファストレーンは大きな戦力になるわね。彼女のスピードを活かせば、レッドライトニングは間違いなく倒せるでしょ?」
「どうだろうな」
さっきから否定ばかりで悪いな。
「同じ高速移動能力でも、スピードはレッドライトニングの方が速い。だからこそファストレーンは、一度敗北してるんだ。レッドライトニングが地上最速なら、彼女は“地上で2番目に速いスピードスター”だ」
「…他の3人のヴィランも同じこと言えるけど、これでどうやってジャスティス・ギルドに勝つわけ?」
だが、ルナがさらに詳しく聞こうとしてきたその時…
《BEEPBEEPBEEPBEEP!!》
突然鳴り響いた警報に、その場の空気が一変する。
「なんだ!?全員、警戒態勢!」
命令すると同時に、無線機で状況を確認するロック。
「看守室、応答せよ!なにが起きたんだ?…なんだって?」
…声のトーン、そして表情。
ただ事ではなさそうだ。
「…信じられん。プロフェッサーが看守室を乗っ取り…独房のヴィランを次々と解放している、だと!?」
「…“プリズンブレイク”だ」
ルナが呆然とつぶやく。
どうやら、ただ事どころか…最悪の事態が起こったようだ。
社長vs教授、第2ラウンド突入!?
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