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第10話 雀達のお仕事



 最初に異変に気付いたのは、2年5組の教室がある階層に居た生徒達だった。




「ちゅんちゅんちゅん」




「んあ? 雀?」



「学校内に入ってきたのか? ――――うわっ、なんだあの数――――」



「うぎゃぁあ――――」



 教室に残っていた生徒達は次々と雀たちの餌食……ではなく、雀たちによる記憶改竄と治療が行われていった。

 2年5組がある階層が終えれば、上下の階に分かれ、次に部活を行う部屋、体育館、職員室へと移動を開始する。




「くそっ!? なんだこの雀の大群、県大会3位の実力を持つこの俺の足に追いついてくるだと!? うわぁああああ!!」



 運動部では自らの肉体を生かしながら、必死に抵抗する者や逃げるものも居た。

 だが、次々と回り込まれたり、追いつかれ、雀達の舌が生徒の額に突き刺さる。






「ボールを相手にしゅぅぅぅうううとぉぉぉぉおお!!」


「超エクセレントッ!」


「駄目だ! 避けられたぞ!」


 天羽が所属するサッカー部でも雀の襲撃が行われていた。


「天羽! 右に回り込めっ――ぐわぁああああ!!」


 先輩部員がボールを力いっぱい蹴り、雀を退治しようとしている中、


「ひ、ひぃぃ!!」


 天羽は一人、一目散に逃げ出した。


「(僕はこんなところで死んでいい人間じゃない! そうだ。いつだって成功し続ける学校のプリンスなん――――)」


 しかし、誰も逃がすつもりはない雀は、特に下種と判断した人間には徹底的に一斉に襲い掛かる。



「どぅわぁああああ!! 止めてぇぇ! 助けてママァーー! ママァアアアアア!! うぎゃぁああああああああああ!!?」



 天羽は雀に囲まれ、普通であれば1羽の雀に記憶改竄用の信号を流す舌で済むところ、複数の雀から集中攻撃を受けた。

 その為、1羽では改竄中に起きない激痛が天羽の脳天に直撃する。


「あひぃぃぃぃ……、あひぃぃぃぃ……」


 結果、天羽は白目をむき、下半身から糞尿を垂らしながら気絶をしてしまった。





「ムェェエエエンイヤァアア(面)!」


「ドゥォォオオオオゥゥゥゥゥゥ(胴!)!!!!」



 室内で行われる剣道が行われていた部室では、狭いスペースという雀には不利な場所であった。

 その中でも剣道部が使う部屋では、竹刀を持つ部員達が必死に抵抗をしたものの、



「キョトゥウェエエエエエ(小手!)ぎゃぁああああ!!」



 小さく機動力が高い雀に当たることは無く、防具の面の隙間から舌が入り込み突き刺さる。


「(ば、馬鹿な……拙者が扱う破天荒一天流はてんこういってんりゅうが敗れる……など――――)」


 県大会で優勝経験がある剣道部も、この日すぐに忘れる絶望を味わった部活の一つであった。









「うわぁ!? な、なんどぅわぁあああ!?」



「雀? 可愛いな――ぎゃぁああ!」



「ひぃぃぃ! た、助けてくれぇぇええ!」



 文化部は悲惨であった。


 武器もなく、身体能力も運動部より高くはない生徒達は、なすすべもなく、問答無用で記憶改竄、治療作業が行われた。




「このヤロー! 雀の丸焼きにしてやるわ!」


 料理部にて包丁を振り回し抵抗をした女子生徒も居たが、抵抗空しく調理台へ雀の大群に押さえつけられ、『逆にお前を料理してやろうか?』という目で見られながら雀達の舌を突き刺されてしまう。




「皆。こんな時だからこそ勇気づけるために音楽を奏でよう」


「そうよ! きっと雀さん達も私たちの音楽を聴いて心を開いてくれるよね!」



 音楽系の部活の生徒が、混乱する中音楽を奏でることにより生徒達の恐怖を和らげよう。そして雀の凶行を止めようとしたが駄目だった。みんなやられた。





「はぁ、はぁ……流石にここまでは追ってこれないだろう」


 放送部の男子生徒は、とっさの判断で放送室へと逃げ込む。

 ここであれば鍵をかけることができ、雀では入ってこれないだろうと判断したからだ。


「急いでまだ学校に残っている全校生徒に向けて放送しなくては!」


 友人達が次々と雀に襲われ倒れていく様子の映像は、彼の頭に強く残る。これはきっと一生消えることが無い記憶だと彼は確信した。

 だから彼はこれ以上犠牲者を増やすわけにはいかない。と、全校生徒の安全を考えすぐに避難をさせる為に呼びかけようとした。

 だが、



ガチャッ。



「えっ?」


 嫌な音が聞こえた。



キキッ。キキキィ。



 振り向きたくはないが、振り向いてしまう。

 そして彼は見た。

 ドアノブが回り、ゆっくりと防音加工が施された重い扉が開いていく様子を。


「ば、バカな! 扉にはちゃんと鍵をかけたはず――――」


「「「ちゅんちゅんちゅん!!」」」


 小さな隙間が開けば雪崩れ込む雀達。

 雀達は鍵穴へ長い舌をつっこみ、ピッキングをして部屋へと侵入したのだ。


「うわぁああ!!!」


 彼は悲鳴を上げながらマイクのスイッチを入れた。





「<全校生徒の皆さん! 逃げて! 早く逃げてっ! 雀が、雀の大群がぁあああ!! く、来るなぁああ! いやだぁあああああ!! ぎやあああああ>」





 学校中に彼の悲鳴が響き渡る。

 それは外にも聞こえていたはずなのだが、琴音の結界により周辺の住民に彼のSOSは聞こえることがなかった。

 ただ、確実に放送が聞こえる校内で、まだ無事な生徒の恐怖を煽っただけであった事は言うまでもない。









「「「「「……」」」」」



 職員室では早々に教師達が全滅していた。

 守るべきはずの生徒達を助けにも行けず、戦いに敗れた教師達は冷たい床に倒れ、無念の内に雀達による記憶改竄と治療が終えられて気を失っていた。

 そして一仕事終えた雀達は教師達が使うノートパソコンの前に一台当たり一羽ずつ並んでいた。


「ちゅんちゅん!」


「「「「ちゅんちゅん!」」」」


 一羽の雀が合図をして、一斉に他の雀たちが外部記憶装置の接続口へと舌を突き刺し、パソコン内にあるデータを頭の中で閲覧し、記憶していく。

 彼らの目的は学校を休んでいたり、家に帰った生徒の情報だ。

 住所、入院している場所。様々な情報を抜き取って、先に外へと飛び出した雀たちに通信を送る。

 彼ら――――雀達は叶の敵になりうる可能性を持つ生徒を一人たりとも逃すつもりはなかった。









「……」


 病院で寝ていた叶のクラスメイト。本日運ばれてきた柄野えの 清香きよかは、眠っていた。



「ちゅんちゅん……」


 病室へこっそりと入ってきた一羽の雀。

 この病院に清香が入院している情報を受け取った琴音の式神である雀はベッドへと飛び乗り、清香の顔を覗き込む。

 ここ最近何度も入院している清香は、精密検査の為か病室は個室であったため、他の患者に見つかることはなかった。



「ちゅん!」


「……!」


 おとなしく寝ているからと言って容赦はしない。

 むしろ雀は一寸の狂いもなく額に舌を突き刺すことができて満足であった。



「ちゅぅぅん……」



 清香に対しては叶を苛めていたリーダーということもあり、念入りに記憶改竄をしている。

 気絶する前は叶の前でいい子な振りや、親しげに話さなくてはいけなかった彼女は、すでに精神がすり減り、体も抵抗しようと必死であったため、ボロボロだった。

 だけど雀はそんな事はお構いなしで改竄作業を進めている。



「ちゅんちゅん!」



 そして、作業を終えた雀は清香の頭を翼で叩いた後、窓を開けて飛び立っていった。




「……はっ!?」




 雀が過ぎ去り、清香はすぐに目を覚ました。



ガラッ。



 すると、病室が開き、一人の中年女性が入ってくる。



「あら清香。あんた起きていても大丈夫なの?」



 部屋に入ってきた女性は清香の母親であった。

 最近不良となってしまった娘にどう接していいかわからないが、大切な娘であることには違いない。

 彼女は心配になり声をかけた。

 だが、恐らく『うるせぇババア!』といった返事が返ってくるだろうと思いながら。



 しかし、



「あら? お母様? 心配して下さりありがとうございますわ。

 うふふ、でも大丈夫。わたくし、もう平気ですわ」



バサッ。



 この音は母が落とした鞄の音だった。



「き、清香!? その喋り方は何!? いったいどうしちゃったの!? 演技なの!? 変な演技をして、お母さんを困らせようとしているの? そうなのよね!?」



 清香の両肩をつかみ、必死の形相でそう問う清香の母。



「嫌ですわお母さま。わたくしがそんな酷いことをするはずがないではありませんか。


 それよりも聞いてくださいます? 最近わたくし、とっても素敵なお友達ができましたの。


 名前は室戸 叶さん。わたくしが惚れ惚れするくらい良い方なんですのよ?」



「せ、先生! せんせぇええええええ!!!」



「あらあら~」



 清香の母親は担当医に担当医に助けを求める為、全力で病室を飛び出して行った。









 やがて、学校中の記憶改竄を終えた琴音は、校門へ向けて歩いていた。

 その後ろには肩を落とし透明化した【おどろおどろ】が後に続く。



ズボボボボボボボボボボボボ。



 そして、琴音の両袖には仕事を終えた雀達が高速で入り込んでいた。

 いったいどこにそんな収納スペースがあるのか分からないほど大量に。



「ちゃんと付いてきてくださいね【おどろおどろ】さん?」



「はい……」


 【おどろおどろ】は既に抵抗する意思を失っている。

 自分は討伐されないと言われたが、何をされるかわからない。だから、少しでも琴音の機嫌を損なうようなことはしたくはなかった。



「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。

 それにしても、学校に通う人達に起きた謎の気絶事件を解決するはずの私が、全員気絶させることになるなんてねぇ。

 もし、皆の記憶が残っていれば【気絶学校怪奇事件】と噂されてしまうかもしれませんね」



 そんな不名誉なあだ名は付けられたくないだろうから、



パチン。



 校門を出たところで、琴音は指を鳴らす。

 すると、学校を囲っていた結界は解除され、気絶していた生徒達は目を覚ましたのであった。


琴音:「これが私のスマートな解決方法」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:あんたが気絶をさせるんかいっ!


琴音:「苛めの犯人を一人一人説得したり根性を叩き直すのが面倒でしたから、こっちの方が手っ取り早いでしょ?」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:短絡的すぎる……


琴音:「ちなみに体験入学する際にも、この方法を教師達に使いました。てへっ☆」

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