7 幼年期の終わり
握手会を終わらせ、「では一曲! 」と『ミキ』こと義樹が壇上に駆け上がる。
階段を使わず、よじ登る姿。下着が見えるのを必死で撮影するファン。軽く事故を装って蹴る義樹。
「勝手なことを」「ヨシキらしいよね」
最高に盛り上がるステージの上で、肉声で歌いだす義樹。
その声は伸びやかで会場の端々まで届く。
そこに優雅に歩み寄った『ミユキ』こと美幸のコーラスが加わり、
飛び込んできた美玖のダンスで会場は最高に盛り上がりだす。
「「「……光陰戦隊しーじーま~」」」
最高に盛り上がった観客の中でも、その後半に違和感を感じたものは少なからずいた。
「……」「……」
椅子に座り込み、涙を流す美幸と義樹に美玖はかける言葉が無い。
「大成功だったじゃん。口パク疑惑解消! よくやったぜ!! 」
チャラい口調で入ってくる副社長を見て、三人は一斉に泣き出した。
「だいちさああああああああああああああああん!!!!!!!! 」
「ちょ? 俺は女房一筋なんだがっ?! 」抱きつく3人、戸惑う副社長。
とりあえず、その発言がでる時点で中学生(其の内二名男性)を
そういう目で見ているといわざるを得ない。猛省すべきである。
「声が……」「俺も……」
美幸と義樹の様子を見て、顔を真っ青にする副社長。彼にしては珍しい。
「まさか、このタイミングで声変わりか? 」「なんか風邪かなって思ってたんですが」
かすれた声で美幸が泣く。あんなに女の声なんて嫌だといっていたのに。
「俺、厭々やってたのに。なんでだろ」「俺は楽しかったかなぁ」
もう唄えない。そのことに二人は涙を流した。
あんなに何度も匿名掲示板で叩かれるたびにDQN感想返しをしていた美幸とは思えない。
「俺、俺……もう護衛のバイト出来ないッス」「俺も……ッス」
「なんで悔しいんだろ」「ううう」
「そりゃ、そうだろう」扉が開き、ツカツカと歩み寄る美貌の女性。
「美玖。美幸、義樹。この世でもっとも辛いことは、自らの意味を見出せないことだ」
そういって、社長は腰を落とし、しゃがみこんで泣いている三人を抱きしめた。
「本当は皆知っているのだ。ただ、忘れてしまうだけだ」
そういって彼女は三人を更に強く抱いた。
「これがッ! Hカップ! 至高! 至福! 」
ドサクサに紛れて遂に本懐を遂げた莫迦の首は片手で締め上げたが。
「忘れるとどうなるんですか? 」
美玖が呟いた。夢のために犠牲になる幸せなら、夢を捨てると言った少女の言葉に社長は笑った。
「本当に愛している事や人、その名も忘れて、何億年とさ迷う気持ちだろうな。
生を貪るが、胸に開いた虚無を拭えず、死ぬことも適わぬ。そんな気分だ」
彼女の微笑みはまるでそういった体験をしたかのような老成したものだった。
見た目の年齢に絶対合わない。そういえば美玖自身も彼女の年齢を知らない。
はたち前後にしか見えないからだ。恐ろしくて聞いた事もない。
「お前は自分を偽者と言ったが。
君がいることで、絶望から救われる人もいるのではないか?
それは、ニセモノでも、ホンモノなんじゃないか? 」
頷く美玖。それは、美幸の心にも響いた。
「俺、ニセモノばかり書いてるけど? 」「お前の『好き』はニセモノか? 」
首を振る美幸。「でも、もうかけないし、書かないと思います」
「では、今からお前は、好きを作るためにホンモノを書け。
声が出ないなら筆を取れ。腕が動かなければ歯に挟んでも書け」
「私は」
「美玖。お前は歌はダメだが踊りは巧い。
そもそも歌や音楽、踊りと言うのは言葉で尽くせないものを表すのが本質だ」
頷く義樹に社長は微笑んだ。「お前の輝きを見せてくれ」
「仕方ない、また無職だなぁ」「ふふ。事務所を〆るしかないな」
ボリボリと頭をかいてみせる副社長だがまったく困ったように見えない。社長もだ。
美玖は多分、移籍。4年やそこらでAV行き。義樹と美幸はその手の変態に売られるだろう。
自分たちの未来に脅える三人に社長夫妻はニッコリと笑った。
「安心しろ。守ってやる」
「少なくとも、打ち合わせと思ったらAV撮影現場とか、変態の家ってことはないから安心しろ」
「魔王と呼ばれた私の底力を見せてやろう」
そういって優しく微笑む社長の表情はその慈悲深そうな様子とうわはら。
ゲームに出てくる『本物の魔王』を思わせる恐ろしいものだった。




