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似たもの同士なればこそ

「やめろ、馬鹿ッ、お前なんて……ッ!」

 どれだけ足掻いても同じこと。あの人と同じ種の『狼』であるのだ、力のつき方や元々のステータスというものが全く持って別物だ。

 余裕綽々とベッドに組み伏せられ、巴椰は自身の両肩を押さえつけている手の圧に思わず苦しげに声を漏らした。

「こんのサディスト……絶対に許さないからな、お前」

「これだけ好きと言わせておいて返事も適当に返すお前が悪い。どの道フラれるのであれば散々に穢してやろうと思ったのさ」

「だったらもっと思い切った痛めつけ方しろよ。ふざけんな馬鹿狼」

 優しく甘噛みを繰り返すキスを何度も。逃げられないように獅子が小動物を押さえつけるように伏せられてはいるが、それ以外は酷く優しすぎた。まるで玩具で遊んでいるかのように。

 意味深な笑みを浮かべては具体的な答えはキスではぐらかし、ブレットは巴椰と額を合わせた。

「好きだよ。お前の想う今以上に、意味を持った好意なんだ」

「まどろっこしい言い方……やめろ、俺は女の子が好きなんだ。ばんっきゅっばーんな、うん、シェリーさんみたいなヒトが」

「だったら抵抗疲労が振り切るまで続けてやる。こんなにリップサービスして言ってやってるんだから、なびけ」

 「嫌だ」と言う答えは望まれなく、言う寸前に口を塞がれる。選択肢は用意されていて一つしかない、出来レースも良いところの狼の独壇場だった。

 完全に大嫌いならこのまま脚で蹴り飛ばせばすむ話なのだ。しかし未練たらしいというか、割り切れないというか、トラウマで感傷に浸るヒロインぶった自分がいるとか、くだらない理由の数々にどうしても脚は動かなかった。

 多少潤んだ瞳でブレットを睨み、巴椰は不可解さを交えて尋ねた。

「--シェリーさん撃ったとき、あのヒトも反撃して撃ち返しただろ。明らかにあのヒトのは当たりそうにもなかったのに、あんた何で当たったの。あのヒト腕無くてバランス悪かったのに、自分から当たりにいって」

「お前が悲鳴なんかをあれに聞かせたから手元が狂った。それに、撃たれたものくらい何ともない」

 自分があの時、あの真っ赤な部屋で真っ赤なヒトを見て悲鳴をあげたから。だから、今目の前にいるヒトは『うっかり』わき腹をかすめてしまった。そんな馬鹿げた話あるわけもないのに、あくまでそう言い張る。痛みなんてと強がって、今でも傷を他人に見せてくれないのだ。

 抵抗が緩んだことで彼は離れ、巴椰の腹部に座したままじぃっと表情なく彼を眺めていた。

「撃たれたのよりも、お前に嫌われてしまう方が痛い。信用しないなら一方的に吐いて洗脳でもしてやろうか」

「やめて、やめろ。本っ当お前って一番『psychoう』」こちらも『うっかり』返し、巴椰はおどけたように鼻で笑った。「あんたに洗脳されるほど弱くないよ。俺は、あんたにそういった愛情は--」

「いいや。お前は、きっと俺を好くだろう」

 嫌味なまでに、どこから沸いたのか解らない異様な自信。虚勢とも思えず、眼を見て彼はそう吐くのだった。最初から諦める気など無いように。

 何ともむず痒くもぞもぞと踵やふくらはぎをベッドに擦り付け、巴椰はただ甘ったるい吐息を零した。

「……何で好きなんだよ。俺なんて格好良くもないし頭もそこまで良くないし、運動神経もそこそこだし感性は鈍いらしいし。どこも良いとこない」

「そうやって自らを卑下するのも愛らしい」キスの間に言葉を囁き、ブレットは眼を細めて「可愛い子」とまた甘言を囁いた。

「自分でもどうかしていると思うが、何故だか頭を離れない。誰かと仲良くしているのも--シェリーと口付けているのを見た途端、頭の芯が凍りついた」

 あの凍てつく声は余裕を無くしたものだったらしい。この男に限ってそんな、と疑ってみるも、常に余裕を振りまいて飄々としているコレが笑顔を消し去っていたことを考えると、強ち嘘でもないらしい。

 一方的に愛を募らせ、ブレットは耳を舐めるかのように口を寄せた。

「望むのなら何度でも言ってやるが、元よりお前の意見は望まない。好いた物はこの手中に収める性格なんでな」

「、だからって俺をもの扱いすんな。好きにはなれない」

「--だったら、恥辱に顔を赤らめないでくれ。煽っているようにしか見えない」

 悦びの昻ぶりに震える様は悲しげにすら見えていた。言葉に偽りはないと伝えたいのだろうが、信憑性には大分欠けていた。

 両腕を伸ばしてブレットの髪の中に手を入れ、何とも怠そうに巴椰はわしゃわしゃと彼の髪を乱してやった。

「何で友達で居てくれないんだよ……何で、こんな、好きになんか……ッ!」

「……それがお前の魅力だよ。愛している、嘘偽り無く心から」

「それが嫌なんだよ。あんただってどうせ、俺のことぐちゃぐちゃにするんだろ--?」

「……それが向こうで話した内容か。ネコからそれなりには聞いた」

 駄々をこねる子供のようなものなのだろう。きっと、トラウマという都合のいい言葉を利用して逃げようとしているだけに過ぎないのだろう。誰一人として、まともに向き合ったことなんて無かったのに--今更向き合えるかなんて、誰が。

 静かに覆い被さって閉じたまぶたに舌を這わせ、「甘いな」と彼は呟いた。

 力無いままに、深くキスをした。尖った牙歯がわざと唇を傷つけ、そのうちに赤いラインが口端を流れ出した。その真っ赤な鮮血は自分のもの、あのドレスよりも眩しく、一層際立って純白のシーツに垂れていた。

 血が流れ出したことで思考が霞み、横目に見えたそのコントラストがまたケモノの心を悦ばせていた。身体は熱を持ち、触れる手も擦れる吐息も奇妙に心地よくくすぐったかった。

「、待て、ちょっと待て馬鹿狼」

 シャツのボタンが二つほど弾けたところで、不意に巴椰はその手を掴んだ。

 素直に手を止め、何も表情を出さずにブレットははだけた肌を閉じてやった。

「……しないからな。大体好きだとも言ってない」

「これだけキスをさせてか。金をくすねる悪女の手口だな」

「くすねるわけあるか阿呆」慣れた風に返してやり、巴椰はもふもふとその獣耳を愛おしそうに撫でた。

「--キスだけな。万が一、億が一にもお前に抱かれる時があるなら、その時はとことん穢されてやるから」

 軽く、驚愕してその眼が見開かれた。紅を塗ったかのように唇はヒトの血で赤く、艶やかに濡れていた。

「……あァ、理解した。なら我慢してやるよ。不服だが、約束するのなら」

「珍しく素直だな。頭でも打ったか、気色悪い」

「失礼だな。約束とは破られる為にあるということを教えてやろうと思ったのさ」

「成る程、守る気は端から無いんだな。シェリーさんに告げ口するぞグズ犬」

 冗談と本気が悪い具合で混ざった言葉に、企むような笑い声がどちらからともなく漏れ出した。好意があるのは百も承知、その頭の中に渦巻く計略はその好意の裏返しだった。

 ケモノの部分を何度も指先でほぐすように撫でながら、また巴椰は血を流して口付けを交わした。

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