春臣:以前そういった経験がありました。
「春臣、昔はヤンキーさんだったの!?」
「違いますよ?」
「ええっ?」
今は八階のレストラン街で、二人で休憩をしています。
春名さんはアイスティーを、僕はアイスコーヒーを飲みながら、先程の電車の中での出来事を話していました。
最初は怖くてどうしようかと思ったけど、春臣が落ち着いてたから怖くなくなった、と言われたので、昔何度かそういう経験があると話した所で今の会話に繋がります。
「僕は目つきが余り良くないので、何度か歩いていて声をかけられた事があります」
「大丈夫だったの?」
「はい。ケンカになってしまった事もありますが大事には至りませんでした」
「春臣ケガしたの!?」
「いえ、ケガと言うほどのものではありません」
大抵は、何を睨んでいるのだと言われたり、殴られたくなければ金を出せと言った類のものだったので丁重にお断りしました。
ですが、それでは済まない事もあったので、結果として防衛せざるを得なくなったのです。
中には少し危険な物を振り回す人もいたので、少し揉み合うようなこともありましたが、幸い結果的にケガと言うほどのケガをする事はありませんでした。
「春臣が怒ったの、初めて見た」
「それは──」
電車の中で会った彼が、春名さんを侮辱したからです。
春名さんを怖がらせ、不快な思いをさせました。
さらに、泣かせてしまう所だった事を思い出すと、また腹が立ちそうになります。
──ですが、そういったトラブルを回避できなかったことは、僕にも責任があります。
誰もケガなく済んだのは不幸中の幸いです。
今回のことを反省材料とし、今後は春名さんに不快な思いをさせることがないよう、しっかりと気を付けていきたいと思います。
「春臣、別に目つき悪くないと思うけどな」
「ありがとうございます」
「だって──」
じっと僕を見つめ、何かを言いかけて春名さんが口を尖らせました。
「何でしょう?」
「……何でもないっ!」
ふいっ、と顔をそむけると、残っていたアイスティーを飲む春名さん。
「そろそろ二十分になっちゃうから行こっ!」
「そうですね、店員さんには二十分ほどで戻ると伝えましたから」
僕も、残っていたアイスコーヒーを飲み干します。
「どの浴衣にするか、決まりましたか?」
「うん! 金魚の柄のにする」
だって、の続きが気になりますが、約束の時間を過ぎてしまうのは良くありません。
金魚の柄の浴衣は、藍色の物でした。
朱色の帯がとても良く映えていて、春名さんに似合うと思います。




