春臣:もっと精進したいと思います。
「いえ、ありません」
「じゃあ、あたしが初めて?」
「はい」
そう答えると、春名さんが照れたような顔をしました。
一瞬笑顔になったかと思うと、今度は、はっとした顔になります。
そして何かを考え込む顔になりました。
推測ですが、多分──喜んでくれて、何かを思いついて、迷っている、という所でしょう。
「春臣のおうちって、どんなの?」
「道場があります」
「道場っ!?」
「はい。父が武術をしていて、母が華道をしています。それから弟が二人という家族構成です」
「日本庭園!?」
「そこまでではないのですが、庭はありますよ。秋には紅葉がとてもキレイなので是非見に来て下さい」
春には梅が咲いて風流なのですが、時期が過ぎてしまいました。
先日竹の剪定が終わり、涼しげなので、是非見てもらいたいです。
「……あたし、普通の子だよ?」
「どうしました?」
「行儀作法とか、あんまり知らない──」
「十分です」
実は一度、家族に春名さんの事を話した事があるんです。
先日ケガをさせてしまった時、帰り道が遅くなった理由を尋ねられたので、答えました。
詳しくは話さなかったのですが、お付き合いをしている人が居る事、自分の不注意でケガをさせてしまった事、帰り道を送らせて頂いた事などをかいつまんで説明したんです。
父からは、もっと気を配るように、何があっても対処できるようにと指導を受けました。
母からは、是非一度お会いしたいと言われました。
父に似てあまり目つきが良くない事と、体が大きい事もあり、いい印象を持ってもらえないのではないかと常々心配されていたので、春名さんの事を知り、安心してくれたようです。
「一度遊びに来ていただけたら嬉しいです」
「がっかりされないかな?」
「もちろんですよ」
間違いなく、喜んでもらえると思います。
そう付け加えると、ほんと? と首を傾げつつも、少し安心してもらえたみたいです。
今度遊びに行くと言って貰えたので、楽しみが一つ増えました。
男子たるもの常に女子を守れる器を持て、という父の言葉には僕も賛成です。
そのため、これからはさらに気を引き締め、しっかり精進したいと思います。
もう二度と、春名さんを泣かせる事の無いように。
もう二度と、春名さんと離れる事が無いように。
その為にももっと自分を鍛えなくてはいけません。
「それじゃ、そろそろでよっか」
「はい」
この位の時間なら電車も空いているし、丁度いいでしょう。
春名さんと二人でレジに向かいました。




