春臣:明日の僕も、幸せです。
「9800円になります」
「1万円でお願いします」
「え、春臣っ?」
一万円を出した所で、財布を出していた春名さんが顔を上げました。
「これは、プレゼントさせてください」
「なんでっ!?」
「お詫びになるとは思っていませんが、それでも、このくらいはさせてほしいんです」
「そんな──だって」
あたしが悪かったのに、と言いかける春名さん。
いいえ、と言葉を制すると、でも、と首を振ります。
サラサラと春名さんの髪が揺れるのが、とても可愛くて、やっぱり好きだなと思います。
それなのに先日、僕の不甲斐なさのせいで春名さんを傷つけてしまいました。
一緒に映画に行く約束を守れず、ケガをさせ、──春名さんを泣かせてしまったんです。
「お願いします、これは僕から春名さんに贈らせてください」
「そんなの悪いよ、じゃああたしも春臣に浴衣を買う!」
「ありがとうございます。でも僕はもう浴衣を持っているし、春名さんに浴衣を贈るのは僕のためでもあるんです」
「春臣のため……?」
「はい」
これは、嘘ではありません。
春名さんのために何かできるのはとてもうれしいです。
それに何より、春名さんの浴衣姿を見るのが初めてで、楽しみなんです。
「ですから、これを着て、明日一緒に花火大会に行ってくださいね」
可愛らしい金魚の柄で、紺色の浴衣。
僕のも紺色なので、同じ色になります。
二人で一緒に浴衣を来て、露店を見て歩いたり花火を見る事を想像しただけで、思わず顔が緩んでしまいました。
「……本当にいいの?」
「もちろんです」
「春臣、ありがとう」
笑顔で頷き、春名さんが出していたお金をしまって貰います。
それから店員さんに1万円を渡して会計を済ませました。
持ちやすいように包装して、店員さんが春名さんに笑顔で手渡してくれます。
「優しい彼氏ですね」
「えっ、あっ、あ、は、はいっ!」
嬉しそうに浴衣を受け取る春名さんに店員さんが声をかけました。
途端に真っ赤になって頷く春名さん。
「彼氏さん、彼女さんのこと大好きなんですね」
「はい、とても大切で、大好きです」
春名さんは、僕の大切な彼女です。
そして僕は、春名さんの彼氏です。
……それが改めてとてもうれしくて、またこうして一緒にいられることを幸せに思います。
明日は春名さんの浴衣姿を見ることができるのですから、明日の僕はもっと幸せだと感じているかもしれませんね。
天気予報では晴れだと言っていたので、心配は無いでしょう。
店員さんにお礼を言って、二人で売り場を後にしました。




