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ならば世界を喰らうまで(旧作品名:新世界の創世者は、魔王ではなく?)  作者: ニャンコ
第四章 新大陸

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第十二話 共生と支配と         其の三『守る立場』

カルチャーショックです。

多くを持ち、豊かさが正義。

自然の中に溶け込み、調和の中で生きる。

価値観が違う。違い過ぎる( ̄∇ ̄)

 森を裂くように、乾いた破裂音が響いた。


 ――パン、と一発。


 遅れて、鳥たちが一斉に飛び立つ。


 静寂が戻るには、少し時間がかかった。


 木々の合間。

煙の尾を引く銃口を下ろし、

    ヒョードルが肩で息をする。

「……どうだ」


 視線の先には、倒れた鹿が二頭。


 本来なら、一頭で足りる距離。

だが、二発。

そして、そのうちの一発は、余分だった。


 同行していた若者たちは、目を見開く。


「すげえ……」

「早い……」


 感嘆。

だが、

その奥に、言葉にならない戸惑いが混じる。


    ヒョードルは気にしない。

「確実に仕留める。それだけだ」


 歩み寄り、鹿の首元に足をかける。

血はまだ温かい。


 その時だった。


 少し離れた木陰。

そこに、すでに数人の先住民が立っていた。


 いつから見ていたのかは分からない。


 誰も口を開かない。

ただ、視線だけが、静かに注がれている。


 責めるでもなく、

褒めるでもなく、

      ――測るような目。


 ヒョードルは、わずかに眉をひそめた。


「何だ」


 誰も答えない。


 やがて、一人の老人がゆっくりと歩み寄る。


 鹿を一頭、見て、

もう一頭に視線を移し、


 それから、ヒョードルを見る。


 ほんの一瞬、目が合う。


 老人は何も言わず、ただ、小さく頷いた。


 その意味は、分からない。

 だが、背後で、誰かが息を呑む。

 音にならない、わずかな変化。

 風が止まったような、感覚。


    ヒョードルは舌打ちを一つ。

「……文句があるなら言え」


 返る言葉は、ない。


 代わりに、

別の場所から、斧の音が聞こえてきた。


 コツ、コツ、と。


 一定のリズム。

急ぐでもなく、止まるでもなく。


 森は、いつも通りに動いている。

だが――

 何かが、僅かに噛み合っていない。

 その違和だけが、静かに残った。



 水の音がする。


 細く流れる沢のほとり。

平たい石の上に、

    砕かれた実が広げられている。


 どんぐりだった。


 殻は外され、

中身は細かく砕かれ、

布に包まれ、水にさらされている。


 白く濁った水が、ゆっくりと流れていく。


 傍らでは、

子供たちが同じように手を動かしていた。


 無駄口は少ない。

だが、時折、笑い声が混じる。


 その中心に、一人の女がいた。


 手際よく、均等に、迷いなく。

流れを見て、手を入れ、引き上げる。


 作業は静かだが、

止まることはない。


 少し離れた場所で、

    ヒョードルがそれを見ていた。

「……何をしている」


 問いは、独り言のように落ちる。


 答えたのは、後ろから来たクラだった。


「食いもんや」


「それがか?」

    ヒョードルは鼻で笑う。

「そんなもの、狩りで補えばいい」


    クラは肩をすくめた。

「ほな、冬はどうすんねん」


 ヒョードルは、言葉を切る。

 視線が、沢へと戻る。

 水は、止まらない。


 濁りは流され、

残るのは、ゆっくりと白くなっていく実。


「獲ればいい」

    短く、そう言った。


    クラは笑わない。

「獲れへん時もあるやろ」

    淡々とした声。


「風が強い日もあれば、

      雪で閉ざされる日もある」

「獣かて、アホやない。逃げるわ」


 ヒョードルは眉をひそめる。


「だから備えるんや」

    クラは顎で示す。


 沢の上流。

さらに多くの実が、並べられている。

 乾かされ、

袋に詰められ、

積まれていく。

 地味な作業。

目立たない。

 だが――確実に、“残る”。


 その時、

子供の一人が、

  袋を持ち上げようとして、よろけた。


 すぐに、傍の女が手を添える。

 何も言わない。ただ、支える。


 ヒョードルの視線が、そこに止まる。


 銃ではない。

力でもない。

 だが、確かに“保っている”もの。


「……非効率だ」

    吐き捨てるように言う。


    クラは、小さく息を吐いた。

「せやな」

    あっさりと認める。

「せやけどな」

    一歩、前に出る。

「それで、冬を越してきたんや」


 風が、木々を揺らす。

 遠くで、また斧の音が響く。

 一定のリズム。

 狩りの音とは違う、

途切れない営みの音。


 ヒョードルは、何も言わない。


 ただ、

流れ続ける水と、

白く変わっていく実を、

     しばらく見ていた。



 火は、静かに揺れていた。


 円を描くように、人が座る。

狩りを終え、作業を終え、日が落ちる。


 肉は分けられ、

実は積まれ、それぞれの手に渡っていく。


 誰かが多くを取ることはない。

誰かが足りないままでもない。


 その均衡の中で、

ヒョードルだけが、僅かに外れていた。


「少なすぎる」

    低く、吐き出す。


 視線は、分けられた肉へ。


「今日の獲物なら、もっと増やせた」


 誰もすぐには答えない。

  火の音だけが、パチ、と鳴る。


    やがて、ナギが口を開いた。

「足りている」

    短い一言。


    ヒョードルは即座に返す。

「“足りてる”では弱い」

「増やせるものは増やすべきだ」

    言葉は鋭い。迷いがない。


    ナギは、火を見たまま動かない。

「増やした分、どうする」


    ヒョードル

「蓄える。備える。戦える」


    ナギ

「戦う相手は?」


     一拍。


    ヒョードルの目が細くなる。

「いずれ来る」


 断言だった。


 ナギは、そこで初めて視線を上げる。


「“いずれ”のために、今を変えるのか」


    ヒョードルは苛立ちを隠さない。

「変えなければ、潰される」


     沈黙。


 火が揺れる。


    その間に、クラが口を挟んだ。

「潰されへんように、やっとるんやろ」


    ヒョードル

「それでは足りないと言っている!」


    ヒョードルの声が強くなる。

「力があれば、選べる」

「力がなければ、選ばされる!」


 空気が張り詰める。

     子供たちが、息を潜める。


 ナギは、ゆっくりと立ち上がる。

一歩、火の向こうへ。


「選ぶ、か」

    呟くように言う。

「誰が?」


    ヒョードルは答える。

「俺たちがだ」


    ナギは首を横に振る。

「違う」


 静かだが、断定だった。


「ここは、“俺たち”だけの場所じゃない」


 周囲を見渡す。


 老人、女、子供。

すべてがそこにいる。


「全部で、ここだ」


    ヒョードルは歯を食いしばる。

「だから弱い」


    ナギの目が、わずかに細くなる。

「強さの話じゃない」


    ヒョードル

「では何だ!」


    ナギ

「在り方だ」


 言葉が、落ちる。    重く。


    ヒョードルは一歩踏み出す。

「在り方で、守れるのか」


    ナギも一歩、出る。

「守ってきた」

    即答。


 その瞬間、空気がぶつかる。

    どちらも退かない。

 火が、大きく揺れた。


 その時だった。


「……やめろ」

    低い声が割り込む。

 源次だった。


 円の外側にいたはずの男が、

    いつの間にか、間に立っている。


 二人の間。 火を背に。

    視線だけで、押しとどめる。


    ヒョードルが言う。

「決めろ」


 ナギは何も言わない。


 ただ、源次を見る。


 周囲の視線も、集まる。


 問われている。


 初めて。


 源次は、答えず、


 ただ――

      火を見た。

         揺れている。


 消えはしない。だが、形は定まらない。


 その揺らぎの中で、


 “選ばなければならない”ことだけが、


 はっきりと、浮かび上がっていた。



 火は、なお揺れている。


 源次は、しばし黙したまま、

       その揺らぎを見ていた。


 誰も口を開かない。


 ヒョードルの苛立ちも、

 ナギの静けさも、

  すべてがその場に留まっている。


 逃げ場はない。

 決めねばならない。

だが――


(決めすぎれば、壊れる)

    源次は、ゆっくりと顔を上げた。

「……火器は、使う」


 最初に出た言葉は、それだった。


 ヒョードルの目が、わずかに光る。


 だが次の言葉で、その光は止まる。


「ただし、場所と時を限る」

    静かに続ける。

「群れを絶やすほどは撃たない」

「一度の狩りで、取り過ぎない」


 ヒョードルが口を開きかける。


    だが、源次は続けた。

「足りぬ分は、採る」

    視線を沢の方へ向ける。

「積み、残し、越す」

    言葉は簡潔だが、重い。

「火器は“刃”だ」

「常に振るうものではない」


 そこで一度、言葉を切る。


 ナギとヒョードル、両方を見る。


「ここでは、そうする」


 断定ではない。

    だが、逃げでもない。


 “定め”ではなく、“置いた”言葉。


 ヒョードルは、

   歯を鳴らすように息を吐いた。


「……甘い」

    小さく言う。


 だが、それ以上は踏み込まない。


 ナギは、わずかに頷いた。

    肯定でも否定でもない。

       受け入れる、という動き。


 火の周りに、少しだけ空気が戻る。

 張り詰めていたものが、ほどける。


 完全ではない。

 だが、崩れてはいない。


 その時だった。

   風が、ひときわ強く吹いた。

 火が揺れ、煙が流れる。


      源次の背後。


 そこに――

      人影が立っていた。


 気配は、なかった。

      ただ、そこに“いる”。


    紅蓮

「選んだな」

    低い声。


 振り返るまでもない。

    源次は、わずかに目を伏せる。


    源次

「……これで、良いのか」


      一瞬の沈黙。


 紅蓮は、答えない。

 ただ、火を見る。揺れている。

 消えはしない。


    紅蓮

「守るとは、選ぶことだ」


 それだけ言って、風が、また吹く。

 気配が消える。



 その言葉が、胸に落ちた瞬間――


     脳裏に、閃く。


 血の気の引いた顔。

 震える声。


「――腹を、切れ」


    父の声だった。


 静かで、逃げ場のない声。


    あの時と同じだ。


(守るために、捨てた)


残ったのは、

     揺れながらも、そこにある火。

 そして――

 誰もが、

  その火を囲んでいるという事実だった。


 夜は、深まっていく。


 遠くで、

かすかに、


 煙が、立ち上っていた。


    信康

(……同じには、しない)

   






       つづく


どちらが正しい、と言い切れない。

尊重しようと思うが、出来るのか?

選ばなければ、いつか滅びてしまう。

難しい選択です。

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