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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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ここからが話本番だ

サージェス視点です。

「私からも訊きたいのですが、ユフィニー子爵夫妻とはどのような話をしたのでしょうか?」


両親がすっと真面目な顔になる。

そしてさっと人払いする。

部屋にいた使用人が全て部屋の外へと出ていく。

グレイスが真剣な顔になった。


「何かあったのですか?」


グレイスが両親と私の顔を見回して訊いてくる。


「ああ、思ったよりもユフィニー家は宝の山かもしれない」

「それはどういうことですの?」


それには答えずに母がグレイスに訊く。


「グレイスはリーリエさんからユフィニー領で作られているお茶の話は聞いたことがあるかしら?」

「お茶、ですか? いいえ、聞いたことがありませんわ」


だとすると、やはり大したものではないと思っている可能性が高い。


「今日ユフィニー家で領地で作っているというお茶をいただいたのよ」

「まあ。ユフィニー領ではお茶も作っているのですか? 聞いたことはありませんが」


グレイスも知らなかったようだ。

ということはリーリエ嬢はグレイスにも話していない。

グレイスに話すほどのものではないと判断したのだろう。

それくらいの認識なのだろう。


「ほぼ自領での消費と、あとは付き合いのある家と少量取引があるだけのようだ」


その辺りはユフィニー子爵夫妻から聞き出したようだ。


「お父様たちが興味を持ったということはそれなりの品質であった、ということですね?」

「さすがに最上級とは言えなかったが」


それには心の中で頷く。


「品質にもそうね、バラつきはあったわ」


やはりそうだったようだ。


それにしても何杯飲んできたのだろう?

そう言及するからには二杯、三杯の話ではないはずだ。


ユフィニー家に迷惑をかけていないといいが。

……トワイト家の印象が悪くなっていないといい。

…………それが理由で断られるのは勘弁してもらいたい。


そんな疑念の視線を両親に向けるがさらりと流された。


「でも味は悪くなかった」

「そうね。素朴だけどそれがいい味を出していたわね」


手放しで褒めているわけではない。

だが認めていた。


私も自分の意見を言っておく。


「私はかなり好きな味でした。普段飲むお茶をあれにしたいですね」

「あら、お兄様、そこまで気に入られましたの?」

「ああ。飲んでいるとほっと気が休まるものだった」

「それは飲んでみたいですね」


グレイスも興味を示した。


「リーリエ様にお願いしたら飲ませていただけるかしら?」

「あまり無理は言うな」


一応釘を刺しておく。

グレイスが言えばリーリエ嬢は断りにくいだろう。


「話の種の一つですわ」


そんな澄ました顔で言ったところで騙せはしない。

「グレイスが言えば、たとえ嫌だとしても持ってくるしかないだろう」

「無理強いは致しません」


グレイスに無理強いするつもりはなくとも結果的にそうなってしまうこともある。

高位貴族の権力とはそれくらい強大なものなのだ。

その自覚は必要だ。

勿論グレイスもそのことはわかっているのだろうが。


「あら、ユフィニー家にも悪い話ではありませんよ」

「そうだろうか?」

「いい宣伝になるではありませんか」

「それを望んでいればな」


そもそも望んでいればフワル家に申し出ているだろう。

フワル家に話していないのであればそういうことだろう。


グレイスがきょとんとした顔になる。


「望んでいませんの?」

「望んでいないというよりはそこまでの価値があると思ってはいないようだ」

「まあ」


ますますグレイスの興味を引いたようだ。

グレイスは私と両親を順繰りに見た。


「どういったお茶ですの? やはり秘密裏に生産されているとかですか?」


いや、と父が軽く首を振る。


「主な生産者は夫を亡くした未亡人や貧しい家の子供らしい」


そこまで聞き出したらしい。

かなり本気だ。


「慈善事業の一環ですの?」

「半々といったところか」

「半分は違うのですか?」

「あのユフィニー領の領民だぞ?」


工夫しないはずがない、ということだろう。

確かにユフィニー領の領民なら工夫していそうだ。


「ああ、そうですね。失礼しました」


グレイスもすぐに思い至ったようだ。

父が頷き、更に続ける。


「恐らくだが慈善事業の一環で始めて、そこから品質を向上させていったのではないかと思う」


納得できる説だった。

どこまでも突き詰めていきそうなのがユフィニー領の領民だ。


だが疑問がある。

慈善事業としてなら尚更商売になるように手配するのではないか。

それなのに市場にほとんど出回っていないのは何故だ?

慈善事業なら少しでも収益を出そうとするはずだ。


いや、と思い直す。

いやだからこそ市場に卸せるものではないと判断したのかもしれない。

まだ品質にばらつきがあるから。


その辺りは職人の領だから厳しそうだ。

品質が安定したら市場に出すつもりなのかもしれない。


あと考えられるのは量の問題か。

生産量が確保できないのかもしれない。


主な生産者が夫を亡くした未亡人や貧しい家の子供なら、もともとそれほどの広さの茶畑ではないのかもしれない。

それならば量を増やそうとしてもすぐには無理だ。


お茶は茶の木の葉から作られるのだ。

その木の種を植えたり挿し木にしても収穫できるまでには何年もかかるだろう。


流通させるならある程度の量と品質は必要だ。

まあ、量のほうは希少性を前面に押し出せば少なくとも何とかなる。

ただそれにはかなりの品質が必要なことも確かだった。


その辺りのことはユフィニー家はどのように考えているのだろう?

その辺り両親は何か聞いていないだろうか?


その辺りの言及はなく話は先に進んでいく。


「そのようなものだったのですね。ますます飲んでみたいですわ」


ますますグレイスの興味を引いたようだ。

本当にリーリエ嬢にねだりかねない。


「まあいずれ機会はあるだろう」


言外にそれまで待てと告げて父が言う。


「わかりました。その機会まで待つことにします」


私が言ってもこうあっさりは引き下がらなかっただろう。

グレイスが退くのであれば私は特に思うことはない。


それにしても。

どのように茶畑が、工房が広がっているのだろう?

実際に行って見てみないとはっきりしたことはわからないが。


とりあえず一度ユフィニー領に行ってみたいものだ。

婚約が正式に結ばれたら打診してみよう。


そんなことを考えている間にも話は進む。


「宝の山、というのはどういうことですの?他にも何か?」

「知らないだけで他にもありそうなのよ」


ユフィニー子爵夫妻に何か聞いたのだろうか?

私とリーリエ嬢のいないところでどのような話をしていたのだろう?

帰りの馬車の中て訊いておくべきだったか?


そうなるとこちらもいろいろ根掘り葉掘り訊かれたかもしれないが。

それでもそのほうがよかったかもしれない。

心の準備というものは大切だ。


「ユフィニー領というのは、それほど魅力的なところなのですね」

「ああ、ただユフィニー家はその宝の山に気づいてなさそうなんだ」

「まあ」


グレイスが口許に手を当てて驚いたような声を出した。

それから鋭い視線で父を見る。


「まさか搾取なさるおつもりではありませんわよね?」


思っている以上にグレイスはリーリエ嬢を気に入っている。

私も視線を鋭くした。


「そんなことをするつもりはない。だから二人で睨むな」

「本当ですね?」

「本当だ」


念の為、動向には注意を払っておこう。


「言質は取りましたからね、お父様」

「グレイス、お前はまったく。そこまで父親が信用できないのか?」

「ふふ、信じてはいますわ」


何とも含みのある言い方だ。

父の眉根が少し寄ったが何も言わなかった。

何か言って薮蛇になることを避けたのだろう。


ころころと母が微笑(わら)う。


「まあリーリエさんは人気者ね」


何故かグレイスが胸を張る。


「だってリーリエ様は素敵な方ですもの」

「そう」


母が満足そうに微笑(わら)った。


読んでいただき、ありがとうございました。

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