両親との話し合いが家族での団欒になっているのだが
サージェス視点です。
両親と今日のこと、それからこれからのことについての話し合いのはずが、父の執務室には両親のほかにグレイスもいた。
「遅いですわ、お兄様」
「……グレイス、何故ここにいる?」
「え、今日はリーリエ様とお見合いだったのでしょう? リーリエ様とはお友達ですもの。当然でしょう?」
しれっとグレイスが言う。
「当然なものか」
きっぱりと否定する。
しかし両親がグレイスについた。
「まあいいじゃないか、サージェス」
「そうよ。グレイスからもリーリエさんの話を聞きたいわ」
内心で顔をしかめる。
両親の相手だけでも厄介なのに、そこにグレイスまで加われば輪をかけて厄介になる。
だが両親が許可を出した以上、私が反対しても無駄だ。
グレイスが私に向かって笑ってみせる。
「それでお兄様、リーリエ様とのお見合いはうまくいきましたの?」
「概ね良好だったと思う」
「本当ですか?」
グレイスの声が心なしか弾んでいる。
両親はグレイスの反応に少し驚いたようだ。
「グレイスはリーリエ嬢のことをそれほど気に入っているのか?」
「リーリエ様は素敵な方ですわ」
グレイスが自慢するように言う。
「確かに素敵なお嬢さんだったな」
「そうね。控えめな笑顔が可愛らしかったわ」
両親の印象は悪くないようだ。
「お兄様にもお似合いの方だと思います」
グレイスが言い切る。
「グレイスはそこまで言うのか」
「はい。リーリエ様は爵位目当てではありませんし、誠実なお人柄ですもの」
「それでは推すのには足りないわね。探せばいくらでもいるわ」
母はリーリエ嬢が気に入らないということではないのだと思う。
ただグレイスがどこまで推すかみようとしているのだろう。
この件を試金石にしているのだ。
「それは、お友達自慢をしてよい、ということでしょうか?」
それは母の予想していたこととは違うことだっただろう。
身内だからこそわかるくらいに驚いた様子を見せた母はすぐに唇に笑みを刻んだ。
「まあ? やってごらんなさい」
「はい」
グレイスは嬉々とした様子でリーリエ嬢の美点を上げていく。
話をしっかりと聞く誠実さ。
相手を立てる聡明さ。
いろいろな話題についていける知識の豊富さと頭の回転の速さ。
一歩引いて全体を見る慎ましさ。
高位貴族に劣らない所作の美しさ。
相手を警戒させない雰囲気の柔らかさ。
等々。
その一つ一つにリーリエ嬢らしいと妙に納得している自分がいた。
そのほとんどを知り得なかったにも関わらずだ。
所作の美しさはフワル侯爵夫人の指導とリーリエ嬢の努力の賜物だろう。
そこからもリーリエ嬢が努力家なのは伝わってくる。
だから無意識に頷きながら聞いていた。
だが次のグレイスの言葉に驚かされる。
「何よりお兄様との関係が良好ですわ」
どこからその判断が出てきたのだろう?
グレイスの前でリーリエ嬢と一緒にいたのは一度きりだ。
その前に会ったのも一度だけ。
手紙のやりとりなど当然していない。
グレイスとともに会った時もきちんとした距離を取っていたはずだ。
それともリーリエ嬢がグレイスに何か言ったのだろうか?
そんな考えも思い浮かんだがすぐに否定する。
リーリエ嬢は不用意に私のことを口にしないだろう。
どこからどう漏れるかわからないのだから。
そのような愚かなことをするはずがない。
だからこそ疑問だ。
それを問いただすべきか迷う。
その隙を突くように、
「まあ関係は良好、だろうな」
ぼそりと父が言った。
「何かあったのですか?」
グレイスの声はどことなく弾んでいる。
何かいい報告が聞けるとでも思ったのだろう。
私は訝しげに父を見る。
きちんと良識のある距離を取っていたはずだ。
それなのにどこでその判断をしたのだろう?
父が口許に笑みを刻む。
「ユフィニー嬢と微笑み合っていただろう?」
馬車に乗る時のことだ、とすぐにわかった。
どうやら見られていたようだ。
目敏い。
「ただの挨拶ですよ」
澄ました顔で告げる。
実際、挨拶なのだ。
そこに深い意味などない。
リーリエ嬢も同じだろう。
そこはリーリエ嬢のためにも深読みしてほしくはない。
グレイスが嬉しそうに微笑う。
ここで念押しすると余計に深読みされそうだ。
「随分と打ち解けたのねぇ」
「……ただの挨拶です」
少しでも打ち解けたのだったら嬉しいが、本当にただの挨拶だ。
「そう」
母の声は笑みを含んでいた。
信じていないようだ。
あれくらいは普通のことだろうに。
「お兄様は余程親しくないとそんなことはなさらないではありませんか」
「……そんなことはないぞ」
挨拶程度で微笑を交わすことはある。
それがたとえ家同士が不穏な関係の者であったとしても、だ。
だからそんなことはない。
「そうですか」
何故か微笑とともに言われる。
ここは退いてあげます、と言われたような気がする。
追及すると薮蛇になりそうだ。
私は口を閉じた。
グレイスの視線が母に戻る。
「リーリエ様はわたくしのお友達の間でも評価が高いのですわ」
「それは有用な情報ね」
今までの中で一番母の反応がいい。
どういうことだろう?
思わず目を瞬いてしまった。
母に呆れたような視線を向けられる。
「サージェス、覚えておきなさい。同性から評価の高い者というのは信頼できるわ」
自分の経験と照らし合わせてみる。
……一理あるかもしれない。
だから頷いた。
母は少しだけ唇の端を持ち上げて頷いた。
昔、私がまだいろいろなことを勉強していた頃によく見た表情だ。
満足のいく結果を出した時や返答をした時に見られたものだ。
まだこんな顔をされるとは。
私もまだまだということか。
いよいよ婚約者を持つのにそれではいけない。
ますます励まなければならないな。
それに私もしっかりしないと。
リーリエ嬢の隣に立つのに不足だと、グレイスに言われかねない。
「だからリーリエ様はお兄様の婚約者に相応しいと思いますわ」
グレイスが締め括る。
それから真っ直ぐに母を見つめて静かに問う。
「お母様もリーリエ様を認めてくださいますか?」
思わず母をじっと見てしまう。
「もともと反対はしてないわ」
「そうですか」
グレイスがほっとしたように微笑った。
母の言葉に私もほっとした。
ひとまずこれでグレイスは満足しただろうか?
それならば私は両親に確かめなければならないことがある。
読んでいただき、ありがとうございました。
すいません、続きます。




