私がしっかりしないと
サージェス視点です。
アルノーに手伝ってもらいながら着替える。
「サージェス様、楽しそうに穏やかに過ごしておられましたね」
アルノーがどことなく声を弾ませて言ってきた。
そんな自覚はなかった。
顎を撫でて首を傾げる。
「そうか?」
「はい。そのようにお見受けしました」
「そうか」
アルノーが言っているのならそう見えたのだろう。
実際、リーリエ嬢と話していて不快に思ったことは一度もない。
むしろリーリエ嬢の纏う雰囲気に穏やかな気持ちになり、一緒にいるのは居心地がいいのだ。
アルノーが嬉しそうな表情で告げる。
「きっと相性がよろしいのでしょうね」
「そうだろうか?」
「はい。そう思います」
「そうか」
無意識に微笑んでいたようだ。
アルノーの瞳が微笑む。
そうだったら嬉しいと思う気持ちは確かにあった。
それに相性がよければこの先うまくやっていけるだろう。
それはきっとリーリエ嬢を安心させることになるだろう。
ずっと気を遣わせていれば疲れさせてしまう。
そんなことは望んでいない。
リーリエ嬢とは対等な関係でいたいと思う。
この先一緒に生きていくならお互いに居心地のいい関係になるのが理想だ。
リーリエ嬢とならそのような関係が築けるのではないかと思う。
だからこそ懸念は払わなければならない。
家族内での意見を一致させておかなければ。
この後、父の執務室で両親と話し合うことになっている。
両親も今は着替えている最中のはずだ。
今のうちに頭の中を整理しておかなくては。
話し合うべきこと、話さなくていいことを頭の中で仕分けしていく。
恐らく両親も今頃同じことをしているのだろう。
馬車の中で両親は何も言わなかった。
私も子爵夫妻とどのような話をしたかは訊かなかった。
それは帰ってから話し合うことだからだ。
……両親は私からじっくりと話が聞きたいだけかもしれないが。
根掘り葉掘り聞き出そうとしそうで気が重い。
だが話し合いは必要かつ重要だ。
うまくリーリエ嬢とのやりとりをぼかしつつ、話し合うべきことに集中するしかない。
本当に今までお見合い相手に興味を持つことなどなかったのに、一体何故リーリエ嬢には興味津々なのだろう?
今までの候補者と何が違うというのだろうか。
訊いたとしてまともな答えが返ってくるだろうか?
…….難しい気がする。
だとしたら、リーリエ嬢のことを根掘り葉掘り聞き出そうとしてきたら流すしかない。
向こうが情報を出さないのにこちらだけ情報を出す必要はない。
それでもどうにかしてこちらの口を割らせようとしてくるだろう。
心していかなければ。
「サージェス様? どうなさいましたか? 難しいお顔をされていますが」
心配そうに訊かれて思考から現実に立ち返る。
「いや、両親に何を訊かれるかと少し考えていた」
「旦那様も奥様も張り切っておいででしたからね」
アルノーの目にもそう映っていたようだ。
「本当に何故あんなに興味津々なんだ……」
アルノーしかいないので思わずぼやきが口から漏れた。
「サージェス様が女性に興味を持ったのが嬉しいのでしょうね」
思わぬ返しに軽く目を見開いた。
「別に女性嫌いというわけではないのだが」
「そうはさすがに思われてはいないと思いますよ。ですが、浮いた話一つありませんでしたし……」
確かに浮いた話がなかったのは事実だ。
初恋も実らなかった。
そしてその初恋を引きずることもなかったのだが。
「まあ、それはそうなんだが」
そこを心配されるのはだが心外だ。
「だからサージェス様が興味を持たれたご令嬢に興味津々なんですよ」
思わず心の中で溜め息をつく。
父は私がリーリエ嬢の婚約解消のために動いていたことも知っている。
だから余計に興味を引いたのかもしれない。
母ももしかしたら父からそのことを聞いたのかもしれない。
……まさか、前に適度に答えつつはぐらかしたから余計に興味を引いた、ということはないよな?
そんな可能性も頭を過る。
「……そうか」
アルノーにはそう返すしかなかった。
アルノーもそれ以上は言ってこない。
そうとわかれば。
この後の両親との話し合いを思って気を引き締めた。
リーリエ嬢に過度な要求をしないように釘を刺しておかなければ。
余計なことを訊いたり話したりしないようにとも。
いや、それだけでは足りないか。しっかり見張ってないと。
リーリエ嬢に迷惑はかけられない。
読んでいただき、ありがとうございました。




