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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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確認しておくべき重要なこと

リーリエ視点です。

サージェス様の穏やかな顔を見る。


きちんと確認しておかなければならない。

この婚約について、だ。


わたしのほうはいい。

お見合いをすると決めた時からこの婚約がまとまる覚悟はあるのだから。


だけれど、サージェス様はどうだろう?

わたしとの婚約は嫌ではないだろうか?

きちんと納得されているのだろうか?


サージェス様は家の利のためならあっさりと御自身を犠牲にしてしまいそうだ。

この優しい方を犠牲にするわけにはいかない。


呼びかけ方に一瞬迷った。

さすがに許可がないのにサージェス様とは呼べない。


「貴方はいいんですか? わたしが婚約者になることに不満はありませんか?」


サージェス様は納得しているのだろうか? 不満はないのだろうか?


それが不安だったのだけれど、その質問に驚いていた。

そんなふうに訊かれるとは思っていなかったようだ。


サージェス様は口許に微笑()みを浮かべた。


「私は貴女が婚約者なら嬉しいです」


それはグレイス様と仲良くさせていただいているからだろうか。

それとも多少なりとも人柄を知っているからだろうか。

それくらいしかサージェス様がわたしを望む理由が思い当たらない。


「そうですか。わかりました」


平坦な声が出て自分で驚いた。

これでは不本意だと言っているようだ。

決してそんなことはないのに。

慌てて言葉を付け足す。


「貴方が嫌でないならいいのです」


そう。サージェス様が嫌でなければいいのだ。

さすがにここまでお世話になって嫌なことをさせるのは気が引けるところだ。


わたしにはサージェス様は勿体ないと思うけれど、サージェス様がわたしでいいというのならわたしは受け入れるだけだ。

そう思ったのだけれど。


「ユフィニー嬢はどうですか? このお見合いは貴女の意志だと先程おっしゃっておられましたが、私が婚約者で嫌ではありませんか?」


思いがけないことを言われて思わず目を見開いてしまった。


わたしがサージェス様が嫌と言うことは決してない。

だからそんなふうに誤解してほしくはない。


だから慌てて告げる。


「わたしも嫌ではありません」


そう告げるとサージェス様はほっとした様子を見せた。


わたしが嫌がると思ったのだろうか?

きっとそうなのだろう。


どうして、と思いかけて思い当たった。

ノークス様ーーフワル侯爵令息との婚約解消で傷ついていると思っているからかもしれない。


もしかしたらまだ心が痛むかもしれないけれど、もう大丈夫だ。

いつまでも引きずったりはしない。

もう失った恋への涙は流し尽くしたのだ。


ふわりとサージェス様が微笑む。


「よかったです」


一瞬、もうわたしが引きずっていないことへと告げた言葉かと思った。


そんなはずはない。

わたしがもうフワル侯爵令息への想いについて折り合いをつけたことをサージェス様には話していないのだから。


ただ単純にわたしが嫌でないと知った言葉なのだ。

サージェス様は優しい方だからわたしが不本意なのではないかと心配してくださったのだろう。


誤解されたままにならなくてよかった。

そんなことでサージェス様を憂いさせたくはなかった。


それなのに、サージェス様はふわりと優しく微笑(わら)う。


「実は家の利のために自分の心を押し殺しているのでは、と心配だったのです」


まさかそんなふうに心配しているとは思っていなかった。

だから純粋に驚いてしまう。


それをそのまま出してしまって慌てる。

フワル家では咎められた。


サージェス様は不思議そうな顔をしている。

つまりサージェス様には別に咎めるようなことではないのだ。


思い返せばサージェス様もいろいろ顔に出ている。

今も不思議そうな顔でわたしを見ている。


本当にサージェス様にとっては気にするようなことではないのだ。

強張っていた身体から余分な力が抜ける。


もちろん公の場ではきちんとしなくては駄目なのはわかっている。

だけれど四六時中気を張っている必要はないのだ。


サージェス様はそれを許してくださる。

それだけで気が楽になる。


「どうしましたか?」


わたしは一人で百面相でもしていたのかもしれない。

どことなく心配そうだ。


そんなふうに見られるほど百面相をしていたなら恥ずかしい。

赤面していないといいのだけれど。


そんなことを思っていたら返すのが遅れた。

だからだろうか、答えやすいようにサージェス様はさらに言葉を重ねた。


「何か不安や不満があれば今のうちに教えてください」


素直に言ってしまっていいものか、少し悩む。


サージェス様は真剣な顔だ。

真剣に考えてくれているのだ。

それならわたしも誠実に向き合うべきだ。


それならば。

心を決める。

思いきって素直に言ってみることにした。

少なくともサージェス様なら即座に斬って捨てるようなことはなさらないだろう。


そうはわかっていても言葉にするのに少し、勇気がいる。

おずおずとしながら口を開く。


「感情を表に出してしまったので……不愉快にさせてしまったり、未熟だと思われたのではないかと、思いました」


そっとサージェス様を窺う。

どこかきょとんとした顔だ。

サージェス様にとっては予想外の言葉だったようだ。


つまりは本当に気にされなかったということだ。

それどころか。


「私の前でしたら素直に出してもらって構いませんよ」


そう言ってくださる。

寛容な方だ。


もちろん公の場では駄目だろう。

だけれどそれ以外では許してくれると言ってくれたのだ。


わたしを貶めようとしてではないだろう。

サージェス様の優しさだ。


「ありがとうございます」


サージェス様のような方に出会えたわたしは幸運だ。

甘えすぎずにいい関係が築けていけたらいい。


読んでいただき、ありがとうございました。

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