庭の案内
リーリエ視点です。
「うちの庭なんて本当に大したものではないんですよ」
二人で話すための口実だとわかっているけれど、つい言い訳のように言ってしまう。
トワイト侯爵家の庭で何度もお茶をしているので、あの華やかな庭に比べてしまうとユフィニー家の庭は小ぢんまりとしている。
この屋敷の庭は長年勤めてくれている庭師が一人で面倒を見てくれているのだ。
わたしはその素朴さが好きだけれど、トワイト侯爵家の庭を見慣れているサージェス様には地味に思われるかもしれない。
サージェス様は微笑んで口を開いた。
「いいえ、楽しみです」
それはお世辞だろうか、それとも本心だろうか。
どちらにせよ余計に緊張感が高まってしまった。
「気楽にしてください」
わたしの緊張に気づいたのだろう、サージェス様が微笑んでそう言ってくださるけれど、残念ながら気を緩めることはできない。
何とか微笑み返す。
ぎこちなくなっているだろうけれど。
緊張しながら庭へと案内する。
わたしたちの後を侍女とサージェス様の従者がついてくる。
気軽に会話できるようにか、庭に出た後は少し離れてついてきてくれている。
これなら小声で話せば彼らまで声は届かないだろう。
サージェス様は一体どんな話があるのだろう?
サージェス様が微笑んで口を開く。
「遅くなりましたが、そのドレス、柔らかい雰囲気の貴女によくお似合いです」
「……ありがとうございます」
そんなふうに言われると思わなかったので返事が遅れてしまった。
誤解して気を悪くされたかもとひやりとしたけれど、サージェス様は口許に柔らかな微笑みを浮かべた。
ほっとする。
それからはっとする。
わたしも返さなければ。
「貴方はいつも素敵です」
同じように褒めようとしてこぼれた言葉だった。
内心で慌てた。
もっと違う言い方ができたはずなのに。
サージェス様が珍しく驚きを表に出している。
ますます慌てる。
「本当のことです」
よく考えないで言葉を重ねてしまった。
サージェス様が微笑んでくださって落ち着いた。
「そう見えているなら嬉しいですね。ありがとうございます」
わたしが気にしないようにしてくれたのだろう。
本当に優しい方だ。
これ以上わたしが慌てなくていいようにだろう、サージェス様が改めて庭を眺める。
「私はこの素朴さが好ましく思います」
サージェス様は目を細めて庭を見ている。
まるで慈しんでいるようで。
「私は好きですね。心が柔らかくなる」
何て優しい表現だろう。
「そう言っていただけると嬉しいです」
お世辞でも嬉しい。
だから素直に微笑む。
「このような庭が毎日見られるユフィニー家の皆さんが羨ましいです」
そう言ってくださるのもサージェス様の気遣いだろう。
「わたしはトワイト家の華やかなお庭も好きですよ」
ユフィニー家の庭が一番好きだけれど、トワイト家の庭も好きなことに変わりはない。
サージェス様が微笑む。
「ありがとうございます。庭師も喜ぶでしょう。伝えておきますね」
「はい。うちの庭師にも後で伝えておきます」
こんな優しい表現で褒めてくれたと知ればきっと喜ぶだろう。
読んでいただき、ありがとうございました。




