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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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侯爵夫人の条件

リーリエ視点です。

ノークス様とのお茶会もその頻度は少しずつ減っていっている。

夫人教育のためにフワル家を訪れても不在なことが増えてきた。


最近は事業のほうで少し忙しいんだ、と会った時にノークス様はおっしゃっていた。

夫人も不審に思ってはいなさそうなので、それは全くの嘘でもないのだろう。


だけれどそれが全てでもない。

恐らく、わたしと一緒にいるのが嫌、なのだ。

婚約者がわたしであるのが嫌なのか、ただ単に疎ましく思われたのかは、わからないけれど。

夫人教育は続行されているためわたしとの婚約も続行、ということなのだろう。


家としての判断なのだろうか?

それともまだノークス様の胸の内だけのことなのだろうか?


いや、そもそもノークス様に好きな人がいる、ということなだけだ。

家族にも誰にも話してなどいないだろう。


まあそれも当然か。

そんなことを進んで話すはずがない。

下手したら別れさせられることにもなる。

そんなことは望みもしないのだろう。

それならばできるだけ隠そうとするはずだ。


ただ、人の噂になるのは時間の問題のような気もする。

その時ノークス様は、フワル家はどうするのだろう?

そもそもフワル家は本当にノークス様の恋人のことを把握していないのだろうか?

把握して黙認している可能性だってある。


付き合っているだけなら問題ないとしているのか、子爵家くらいなら黙らせることができると思っているのか。

あるいは着々と婚約解消に向かって動いているのか。


疑い出せばキリがない。

情報がない中で可能性だけを追及しても、可能性のある事柄が増えるだけで意味がない。

わかっている事実のみを頭に入れておくべきだ。

そこに余計な憶測は挟むべきではない。

余計な憶測は……


憶測という言葉で不意に思い起こされてしまった。

きっとノークス様はわたしのことなど邪魔に思っているはずだ。

それでもお茶会の時は邪険にされることはなかった。

冷たくされることもうっとうしそうにされることもない。


表面上は今までと同じ。

わたしの頑張りを褒めてくれるし、普段のことも訊いてくれる。

最近の流行りの話も話題に乗せてくれていた。


ただ、心ここにあらずという様子も増えた。

わたしを前にしているのに、別の誰かを思い描いて話しているような時もある。




知らなければ。

気づかなければ。

きっと気のせいとして流せた。


それができないのがこんなにも苦しい。

知らないふり、気づいてないふりはできても、知る前には戻ることはできないのだ。

きっとそうできたら幸せでーー




「まったくあの子にも困ったものね」


フワル侯爵夫人の言葉で我に返る。

今はフワル侯爵夫人とお茶をしているところだった。

ノークス様の代わりに、とフワル侯爵夫人がお茶に誘ってくださったのだ。


「いくら仕事が忙しいからと言って婚約者とのお茶会をキャンセルするなんて」


わたしは穏やかに見えるように微笑んだ。


「仕方ありません。お仕事は大切ですから」


フワル侯爵夫人は口許に笑みを浮かべた。


「そう。それがわかっているなら大丈夫ね」


……これも、わたしがどう反応するかの試験だったのだろうか?

とりあえず及第点はもらえたようでほっとする。


「ただただ息子にべったりしているだけの嫁などこの家には不要だもの」


冷たく響いたその言葉は本音だろう。

わたしはわかっていると示すために唇に笑みを刻んだ。

フワル侯爵夫人は満足そうに目を細めた。

そして声を戻して言った。


「でも、もう少し婚約者と会う時間を作りなさい、とは言っておくわ」

「ありがとうございます。ですが、ノークス様のお身体のほうが心配です。無理にわたしに会う時間を作るよりもゆっくり休んでいただきたいです」


仕事が忙しいと言う婚約者に対して告げるに相応しいであろう言葉を口にする。


本音を言えば、ノークス様に疎まれたくない。

煩わしい、不快だという目で見られた時、わたしは普通に対応できるだろうか?

……自信はない。


取り乱したりすればますます疎まれる結果になるだろう。

その結果は、早晩切り捨てられることになるか、結婚しても顧みられなくなるか、だろう。


家に、家族や領民に迷惑をかけたくはない。

それだけは避けなければならない。

だからこそノークス様に疎まれるわけにはいかないのだ。

同時に目の前にいるフワル侯爵夫人の不興を買うわけにもいかない。


フワル侯爵夫人の唇に笑みが乗る。

それは侯爵夫人として、わたしが及第点の答えをしたからだろうか。

それとも母親として、わたしが息子(ノークス様)を気遣う言葉を言ったからだろうか。


わからない。

その微笑みからは読み取ることができない。

さすがは侯爵夫人だ。

息子の婚約者にもその胸の内を悟らせることはない。


信用がないということではない、と思う。

侯爵夫人というのはそういうものなのだ。

フワル侯爵夫人はいつだってその有り(よう)でわたしに侯爵夫人としてはかくあるべしと教えてくれている。

わたしもフワル侯爵夫人のようにならなくてはならない。

侯爵夫人となるならばーー。


侯爵夫人……

その言葉が引っかかった。

ぼんやりと思う。


ノークス様は、わたしと結婚なさる気があるのだろうか?

それとも婚約解消の算段をつけているのだろうか?


いずれにせよ、ノークス様の、フワル侯爵家の意向に従うしかない。

わたしやユフィニー家が決められることではないのだ。


「そう。ノークスには貴女がそう言っていたと伝えておくわね」


きっと喜ぶわ、とはフワル侯爵夫人は言わなかった。


恋を失って冷静になれば見えてくるものもある。


フワル侯爵夫人にとって、ノークス様の婚姻相手は絶対にわたしだ、ということではないのだ。

フワル家に利益をもたらし、ノークス様の足を引っ張らない女性なら誰でもいいのだろう。

そこにはもしかしたらノークス様の気持ちですら関係ないのかもしれない。


それが高位貴族夫人のあり方なのだろう。

情より家の利を取ることが。

それを、わたしも求められているのだろう。

だからわたしは穏やかに微笑んで頷いた。


「はい」


読んでいただき、ありがとうございました。

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