第15話:白金獣魔師は宿に泊まる
◇
装備店を出た時には、外はもう真っ暗だった。
なかなか温暖で季節に例えると春くらいの感じだったのだが、さすがに夜になると冷え込むみたいだ。
たまたまさっきお金が手に入らなかったら野宿していたかと思うと、ゾッとする。
「ユートは泊まる宿ってもう決めてますか?」
「さっき地図見た時に何軒か見てるけど、どこにするかまではな。ギルドの近くのどこかにしようと思ってるよ」
「良かったです! 実は私、宿が見つからなかったらどうしようかと……」
「ええ……?」
レーナは見たところ一人で旅してるみたいだし、これまで困ったことはなかったんだろうか。
「今までどうやって生活してたんだ?」
「なんとかなってました! たまたま親切な人が教えてくれたり、たまたま冒険者の後について行ったら見つけたり、たまたま見つけやすいところにあったりです」
「そうなのか」
意外と人生ってのはなるようになるもんなんだな。
今日だってたまたま俺と出会ってなんとかなったわけだ。
村の中心——冒険者ギルドの近くまで戻ると、何軒かの宿が連なっていた。
合計で5軒ほどあるので、一番安い宿に入ってみた。
しかし——
「すみません、もう全部屋埋まってまして……」
「どうにかならないのか……?」
「連泊されている冒険者さんで埋まっておりまして……」
どうやら、もうこの時間には全ての部屋が埋まってしまっているらしかった。
でも、他の宿は空いているかもしれない。
微かな期待を抱いて他の宿も周ったのだが——
「すみません」
「ごめんなさい」
「申し訳ありませんが」
三連続で断られてしまったのだった。
もうダメかと思った矢先。
「空いてますよー!」
5軒目でなんと空室に巡り合えたのだった。
もしかすると、運の良いレーナを連れているからなのかもしれない。
「ありがたい。じゃあ、二部屋頼む」
「すみません、空きは一室しかありません……」
「え?」
ぬか喜びだった。
やっと見つけたと思った宿はたった一部屋しか空いていなかった。
いくらなんでもここでレーナを放っていくのはダメだ。
色々と助けてもらった恩もあるし、何より女の子だしな。
仕方ないので、この部屋は譲って俺は離れた別の宿を探すとしようか……。
「ユート、どうしたんですか?」
「空きが一室しかないらしいんだ。でも心配しなくても、ここはレーナが——」
「それの何が問題なんですか?」
「え? いや、ほら同じ宿に泊まれないとなると、また探さなきゃいけないだろ?」
「なんで同じ宿に泊まれないんですか……?」
未だに事情が掴めないレーナ。さっきまでこんな理解力低かったっけ?
「いやだから、部屋が一つしか空いてないんだぞ?」
「……そうですね?」
「まさかレーナ同じ部屋に泊まるつもりなのか!?」
「そうですよ? 何を驚いてるんですか……?」
「そりゃまずいだろ。ほら、色々とさ……。俺が変なことを考えてるとかじゃなくて、世間一般的に」
「冒険者が同じ宿に泊まるのはありふれたことですよ? 宿泊費も割れば安くなりますし。そうですよね?」
レーナはフロントの受付嬢に確認した。
「ええ、仰るとおりよくあることですよ。同じパーティの男女が分かれて泊まるのはあまり聞きませんね。お二人ですし……」
「え!? そんな感じなのか……?」
「誤解が解けて良かったです!」
どうやら、異世界の常識というものは日本のそれとは少し違うらしい。
よく考えれば当たり前のことだが、俺にとってはカルチャーショックを隠せなかった。
「えっと……じゃあ、一部屋頼む。二人で」
「はい、かしこまりましたー!」
こうして、俺はレーナとともに一夜を過ごすことになった。
——というところで終わりではない。
「滞在期間はどうされますか?」
「滞在期間?」
「ええ。冒険者の方は連泊されることも多いのでお伺いしたのですが……。ギルド近くの宿は人気ですし、連泊にされておくのがおすすめです」
「もしかして、一回解約すると部屋が取り難かったりするのか?」
「ええ、今日はたまたま夜に出ていかれる冒険者さんがいらっしゃったので、本当にたまたま偶然空いてたんですよ! こんなこと滅多にないのでラッキーですよ!」
「そ、そうなのか……」
「一週間分前払いしていただければ、優先して更新もできますよ!」
「なるほど……。レーナ、どうする?」
はっきり言って、行くアテがあるわけではない。
宿泊料は一日当たり銀貨3枚。これを割り勘だ。
高い金額ではなさそうなので一人で泊まるなら確実に連泊を選ぶのだが……。
「しばらくこの村にいると思いますし、ユートが私と一緒で嫌じゃないなら連泊で……ダメですか?」
「ダメなわけないだろ。よし、じゃあ一週間で頼む」
ということで最低でも七夜ともにすることになったのである。





