表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

伝える気持ち

 シュンとしてしまった殿下を見て、私はふと大事なことを言い忘れていたことを思い出した。


「私、殿下に言いたい話があるのですが」

「この流れで話?嫌な予感しか、しない」

「対したことではございません」

「婚約破棄だとか言うなよ」

「もう、言いません」

「もう……」


 私は殿下に近づくと殿下の袖口を掴んだ。


「二人きりで話したいのですが」

「何を企んでいる?」

「……」


 殿下は暫く私を見詰めると言った。


「解った。俺の寝室でも良いなら」

「はい」

「シュナ達はここで待ってろ」


 シュナ様は私に心配そうな顔をむけて言った。


「ルド兄様に襲われそうになったら叫んでね。助けに行くからね!」

「そんなことするわけないだろ!シュナ、ぶっ飛ばすぞ」


 殿下は私の腕を掴むと、私室の横にある寝室に私をエスコートした。

 殿下の寝室の奥にはでかいベッドと少しの家具のみでシンプルなつくりだ。

 殿下はドアを閉めると、ドアの前で私を見た。

 

「話とは?」

「あの……」


 私が言葉につまっても、殿下は急かしたりせずに私が話すのを待ってくれた。

 私は深呼吸を1つしてから口を開いた。


「お帰りなさいませ、ルド様。私はルド様が居ないことに、暫く気がつきませんでした」

「……ああ、だろうな」


 殿下は少し複雑そうな顔をした。


「でも、ルド様が居ないと知って何だかソワソワして早く帰ってきてくれないかと思っていたんです」

「そ、そうか」


 私は少し下をむいて続けた。


「ルド様が帰ってきて、ルド様の腕にシュナ様がしがみついているのを見て、婚約破棄しなくてはいけないのかと」

「待て待て待て、シュナは男だ」

「さっき知ったばかりですので」


 殿下は、また苦虫を噛み潰したような顔をした。

 私はもう一度下を見つめながら言った。


「ですので、ルド様が居ない時より……ルド様が帰って来てからの方が…………寂しかった……」

「……」


 私が、言いたかった言葉をすべて言い終わっても殿下は何も言ってくれなかった。

 怖いながらも殿下の顔を見上げると、殿下は耳まで真っ赤に染まり口元を左手でおおっていた。

 ああ、殿下が可愛い。

 私は思わず殿下の腰に腕をまわした。


「ゆ、ユリアス」

「寂しかったんです」


 殿下がヒュッと息をのんだのが解った。

 そして、息が出来なくなるかと思うぐらい強く抱き締め返された。


「可愛い事を言うなよ」


 ボソリと呟かれた言葉に何だか嬉しくなる。

 だが、苦しい。


「で、殿下」

「君は俺の婚約者だ。誰にも渡さない。君が好きだ。君も俺を好きになってくれ」


 物理的に苦しいのは私のはずなのに、殿下の方がずっと苦しそうにそう言った。

 私は殿下の背中をポンポンと叩いた。

 すると、殿下が私の顔を覗きこんだ。


「キスしても良いだろうか?」


 突然の言葉に私は息をのんだ。

 顔が熱くて火が出そうだ!

 殿下は私の返事も聞かずに顔を近づけてきた。

 ああ、触れてしまう。

 そう思った瞬間、ドアが開いた音がした。

 横の部屋から顔を出したのはシュナ様だった。


「ルド兄様、それはダメだよ」

「邪魔するな。そして、盗み聞きをするな」

「獣人は耳が良いんだよ。それより……寝室でチューして、その後何するつもりなの?何時からルド兄様は狼になったの?」


 殿下は暫く黙ると深いため息を吐いた。


「折角のチャンスが……」

「ルド兄様の婚約者さん!お名前教えて」


 ああ、そんなことすらまだだった。


「ノッガー伯爵家、長女のユリアスと申します」

「ユリアス姉様?」

「あ、はい」


 シュナ様はニコニコと笑い、寝室に入ってくると私を抱き締めたままの殿下の手をこじ開け、私に抱き付いた。


「シュナイダー!ユリアスは俺のだ!」

「うん知ってる!でも、獣人の男は(つがい)を奪い合う生き物だから」

「恩を仇で返すつもりか?」

「ルド兄様は大好きだけど、カリカリクッキーはもっと好き」


 私はクスクスと笑うとシュナ様のふわふわの頭を撫でて言った。


「明日、たくさん焼いて来ますね」

「本当!ユリアス姉様大好き!僕と番になろ!」


 シュナ様はそう言って私の胸に顔を埋めた。


「シュナイダー!ユリアスから離れろ!」

「ユリアス姉様フワフワで大好き」


 シュナ様は更に私にしがみついた。

 殿下が口元をヒクヒクさせながらシュナ様を引き剥がそう奮闘していたが、シュナ様は一向に離してくれる気配がなかった。


「殿下、シュナ様が私を気に入ってくださっているのは堅焼きクッキーが作れるからです。シュナ様、私が育てたパティシエを派遣いたしますので私に張り付いて居なくても大丈夫ですよ」


 私がそう言うとシュナ様は首をかしげた。


「作り方は秘密じゃないの?」

「はい。その話もふまえて、お茶にいたしましょう」


 私はシュナ様に笑いかけてから扉に向かった。

 シュナ様は、私から離れると先に殿下の寝室を後にした。

 私がその後を追おうとした瞬間、殿下は私の腕を掴むと抱き寄せ耳元で囁いた。


「俺は君以外を愛することはない。それだけは信じてくれ」


 私の耳を殿下の言葉と息がくすぐる。

 私は振り返す熱を感じながら、コクコクと頷いた。

 殿下は私の耳に軽く口を押し付けてから私から離れると先に寝室を出ていった。

 残された私は先程キスされた耳を手で追おうと踞った。

 殿下があんなことするなんて思っていなかった。

 私はなんだか嬉しいような苦しいような気持ちに苦笑いを浮かべたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ