なんでしょう、この雰囲気…。
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今回は他者視点がメインです。
ひとまず家に戻った私達はリビングにあるテーブルにつきましたが、未だに消えないピリピリとした雰囲気に耐え切れなかった私は今キッチンにお茶を淹れに来た次第です。
はぁ…、憂鬱です。
というか何故あんなにお互い牽制し合っているというか、落ち着かない雰囲気なんでしょうか…。
~マーリンside~
今私の前には、嘗て魔法を教えていた馬鹿弟子が座っている。
全く、何故こんな事になったのやら…。
「フフフ、早く帰ってこないかなぁ…。」
「かの『戦魔女』が随分と御執心じゃないか。」
「うるさいわね。
それより、どこで拾ったのよあの子リスちゃん。」
やはりそこを突いてきたか。
まぁ、こいつには教えてもいいだろう。
「二ヶ月前、エルヘナ王国で勇者が召喚されたのは知っているな?」
「ええ、異世界から魔物の統率者『魔王』を倒す勇者を呼び出すってアレでしょう。
それくらいは耳に入っているわ。それがどうかしたの?」
「あの子は二ヶ月前、この森に突然現れた。
……私に悟られることなくだ。
気配が悟れないだけであれば、その周囲の獣達の反応で分かる。
だが、あの子は獣達にも反応されずに現れた。
まるで、突然この世界に現れたようにな。」
ガタッ!
馬鹿弟子は突然立ち上がった。
まあ、無理もない話だ。
「先生に悟られることなくですって!?この『黄昏の森林』に!?
しかもその話が本当なら…、あの子は異世界から来たってことになるじゃない!」
「…声が大きいぞ馬鹿弟子、座れ。
私が防音の結界を張ったからいいものの。」
「っ、悪かったわね。でも、それはおかしな話よ。
気紛れで召喚魔法の術式見たけど、あの魔法の対象は一人のはずよ。
現に発動は成功して、一人の勇者が召喚されたわ。」
「だが世界を超えての魔法だ。何が起ころうと不思議はないさ。
だ彼女がこの世界に来たのは、ある意味必然だと私は思っている。」
「何でよ。あの子リスちゃん、パッと見た感じは唯の人間だったわよ?
すごく可愛かったけど。」
「あの子は人外、と言うより超常のモノにみ条件に愛される体質のようだ。」
「……どういうこと?」
今の言葉で馬鹿弟子はあの子の異常性に気がついたようだ。
「この家のすぐ隣ではあの子が一から作った小さな畑がある。
あの子が育てた野菜が時々無くなっていると言ってきたから、畑を監視してみたんだ。
…あの時は自分の目を疑ったよ。」
正直、今でも見間違いだったのではないかとさえ思う。
それほどの衝撃だった。
「な、何よ?」
「……何体もの下位精霊が彼女が育てた野菜をもぎ取ってわけて食べていた。それもとても美味しそうに。」
「…………………は?」
馬鹿弟子は驚きのあまり目を点にしている。
これが自然な反応だろうな。
私とて簡単には信じられなかったほどだ。
「え?ちょっと、嘘でしょ?
精霊が?畑から野菜を採って食べる?美味しそうに?」
「残念ながら事実だ。
精霊はあの子が育てた野菜のみ食べている。
この森にある他の野菜には目もくれずにだ。」
「………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!??????」
「五月蝿いぞ馬鹿弟子。」
「いやいやいや、これで驚くなっていう方が無理でしょう!?
精霊が畑からモノ取るなんて、常識外もいいところよ!」
まさにその通りだ。
人間から精霊に物が渡る場合、それは『貢ぐ』か『捧げる』かして契約をしようとしているということだ。
人間が契約に対価に物を捧げる、それが食べ物であれ宝玉であれ魔力であれ生贄であれ、精霊へと渡す以上その関係は基本人間よりも精霊が上位だ。
しかも精霊というのは皆総じて気難しく、プライドが高い。
それ故、然るべき場所で、然るべき順序を踏み、然るべき動作をし、然るべき儀式を完了させなければ精霊は捧げ物、貢ぎ物を受け取らず、契約は為されない。
それに精霊とは酷く気紛れだ。
正しく儀式を完了させたからといって、必ずしも契約を結べるとは限らない。
寧ろしてくれないことの方が多い。
高位の精霊になればなるほど成功率は低くなる。最高位の精霊となれば、叶うことはまず無いだろう。
だがそれでも契約をしたがる人間は後を絶たない。
何故なら、契約をすれば魔力無しでその精霊応じて力を行使できるからだ。
下位の精霊では大した力は行使できないが、行為の精霊となれば小規模とはいえ竜巻を起こすこともできる。
それを魔力無しでできるのだから、やはり魅力的と言わざるを得ないのだろう。
そんな精霊が下位とはいえ、何の変哲もない庶民が育てた収穫もしていない野菜を直接畑から採って食べるなど有り得ない話だ。
まあその時は野菜が無くなるのは世界間での違いということで誤魔化したが。
「それだけではない。」
「まだあるの!?」
「ああ。
彼女がいつも外へ出かけるとき、私はいつもあの子より強い存在が寄らないように護符を渡している、と言うことになっている。
だが、それは嘘だ。」
「嘘?なんでそんな嘘ついてんのよ。」
「護符の必要がないからだ。
あの子が出かけるとき、彼女の周りには中位精霊がウロウロしている。
そんな者の近くに寄ろうという獣などいないさ。」
「……だからあの時あの子の周りに精霊があんなにいたのね。」
どうやら彼女も見たようだ。
「一応聞くが、何体いた?」
「五体よ。」
「…増えている。
前は一体、多くても二体だったというのに。」
あの子の体質は異常だ。
人の及ばない超常の者を無条件に惹きつける。
他の魔法使い、いやそれだけではない。あらゆる権力者から見れば喉から手が出るほど欲しい存在だろう。
「あの子リスちゃんはそのこと知ってんの?」
「いや、あの子は精霊は見えていない。
契約をすれば見えるだろうが。」
「でしょうね。
普通の人間には精霊は見えないから。」
それが幸いしたな、彼女は今自分の異常性に気付いていない。
だが、このまま気付かないままというのも不味い。
自覚しなければ、あの子が不幸になるだろう。
いずれ、話さなければな。
それに、気になるのはそれだけではない。
今でこそ普通に寝ることができているが、この世界に来たばかりの頃は就寝時には毎日魘され、夜中に飛び起きていた。
魘されている時に寝言で微かに聞こえた声。
「お母…さ……やめ…て…!来な…で……!」
この子にとって、母とは恐怖の対象である可能性がある。
少なくとも、いい感情を抱いているということはないだろう。
それとなく母親について聞いてみたこともあるが、はぐらかされて詳しく聞くことはできなかった。
恐らく、思い出したくないのだろう。
それに異世界に来れて逆に良かったと思っている節がある。
その場所どころかその世界からさえも逃げ出したくなるほどの出来事、はっきり言って想像もつかん。
魔法で夢の内容を見ることもできるが、それはしないでおこう。
できれば、あの子が自分から打ち明けてくれるのを願うが…。
「でも腑に落ちないわね。」
「何がだね?」
馬鹿弟子がこちらに訝しげな視線を向けてくる。
「なんであの子リスちゃんをそこまで気にするの?
確かに希少な存在だけど、私が知ってる先生はもっと無関心だったと思うんだけど?」
なぜあの子を気にするのか、か…。
確かに以前の私ならば興味深いとは思ってもここまで大切には思わなかっただろう。
だが…。
「何が原因か、と言うならば、あの子の作る料理だろうな。」
「料理?王宮の料理でまあまあなんて言ってたアナタが?
…ふぅん、あの子リスちゃんの料理ってそんなに美味しいんだ。」
「まあ、食べてみれば分かる。」
そう、この気持ちは言葉にはできない、し難いものだ
実際に食べてみないと分からないだろう。
さて、そろそろあの子も茶を淹れて帰って来るだろう。
私はそう思い、周りに張った結界を解いた。
~マーリンsideout~
お茶はこれでいいですね。
どうせなら茶菓子も付けましょうか。
私はお茶と茶菓子を持ってリビングのテーブルに戻ることにしました。
戻ってみると、部屋の中のピリピリとした雰囲気が解消さていました。
私のいない相田に何があったんでしょうか。特に音とかもしませんでしたし。
……まあ、落ち着ける雰囲気になっているならいいですが。
「お二人共、お茶が入りましたよ。
茶菓子としてワーノの実のクッキーもお持ちしました。」
「そのクッキーって言うのはアナタが作ったの?」
「はい、粉末状にしたエメナ草と卵を混ぜたものを固めて窯で焼いたものです。
作り方は単純ですし長持ちするので、よく作り置きをしてあるんです。」
彼女は皿に盛られているクッキーのうちの一つを取り、口に運びました。
サクッ
「ふぅん…、見たことのない形ね。
ほんのりと甘いし…………甘い!?」
あ、忘れてました。
この世界では甘いものは貴重なんでしたね。、
「アナタ、どうやってこんな物作ったのよ!?」
「いえ、ですからエメナ草と卵をですね…。」
「嘘でしょ…、エメナ草なんてちょっと森の中に入れば幾らでもあるような草じゃない!
それを使ってこれを!?何よこれ超美味しいじゃないの!
何よ先生、アナタ二ヶ月もこんなの食べてたの!?食事なんて要らないんじゃなかったの!?」
「あくまで必要ないだけだ。食べたところで問題はないからな。
お茶の時は大抵これと一緒に飲んでいる。」
「うわなにそれすごく羨ましい…!
やっぱりこの子リスちゃん私にちょうだい!」
「断る。」
すごい反応ですね。
仕方のない事なんでしょうけど、日頃から甘いものを食べた私としては違和感を感じざるを得ません。
……ん?二ヶ月?
「あの…もしかして、私が異世界から来たって知ってます?」
「え?……あ。
ご、ごめんなさいね?先生から勝手に聞いちゃって…。」
「いえ、構いませんよ。
無闇に人に話していい話でないのは分かっていますが、マーリンさんの教え子の方であれば安心できるでしょうし。
あ、そうだ。ちょうどいい機会ですし、自己紹介しませんか?まだお互いの名前も知らないことですし。」
「そう言えばそうね。私としたことが、名前を聞いていなかったわ。
私は『モリガン・ル・フェイ』よ、アナタは?」
「優奈・佐藤と言います。優奈と呼んでください。
えっと…、フェイ、さん?」
「フフフ、モリガンで構わないわ。
よろしくね、ユーナ。」
そう言ってモリガンさんはこちらに手を差し出しました。
「はい、よろしくお願いします。
夕食も食べていかれますか?」
私それを両手で握り握手を交わし、私はモリガンさんを夕食に誘います。
「ええ、ご馳走してもらいましょうか。」
その後、モリガンさんもも含めた三人で夕食を食べました。
モリガンさんにはとても好評で、何杯もお代わりを頼んでいました。それだけ好評だと私も作った甲斐があるがあるというものです。
私はそのあとすぐに眠ってしまいましたが、マーリンさんとモリガンさんは何やら話しているようでした。
翌朝、目が覚めると既にモリガンさんは帰ってしまっていましたが、泊まってはいかれたそうです。
~モリガンside~
夕食の後、ユーナはすぐに寝てしまった。
今私は先生と二人でワインを飲んでいる。
これもあの子が作ったみたい、流石に味の方は先生に頼んで飲んでもらったみたいだけど。
「それで、あの子の料理の感想は?」
「そうね…。
言葉にはしにくいけど、強いて言うなら……『暖かい』かしら?」
「そうだな、あの子の料理を表現するならそうなるだろう。」
先生が言っていた意味は、あの子の料理を食べてすぐ分かった。
あの子の料理は、とても『暖かい』。
高級料理なんて腐る程食べてきた、あの子の料理より美味しい料理なんていくらでもあった。
でも、あの子よりも『暖かい』と感じたものはなかった。
美味しいというのとはまた違って、また食べたいと思う味だった。
「でも分からないわね、この心境。」
「安心しろ、私も通った道だ。
あの子の料理は決して豪華ではない、高級な素材を使っているわけでもない。
だが、誰よりも食べる者のことを考えている。
私達に対して、心から美味しいと感じてもらうために作っている。
あの子に聞いたが、こういうのを『家庭の味』と言うのだそうだ。」
「あぁ…、なるほどね。
納得がいったわ、先生があの子を大切に思う気持ちが。」
これは、大切にしたいと思うわけだわ。
ユーナが欲しい。
あの子の料理を食べて、その気持ちが強くなったわ。
「やらんぞ、ユーナはうちの子だ。
誰にも渡さん。」
「なによ、何も言ってないじゃない。」
「顔に出ていたさ、あの子が欲しいとな。」
「……やっぱりダメ?」
「くどい。」
あ~あ、やっぱりダメかぁ。
流石に先生とやるのはキツイから素直に引くけど…。
フフフ、諦めないからね、ユーナ?
~モリガンsideout~
ありがとうございました!