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みなと食堂へようこそ  作者: 庭野はな
営業編 第7章.ドラゴンと同胞(仮)
44/44

44.前科者

 お互いこの世界に来て出会った同胞、初めての同郷の人間だった。

 ゴンさんと差し向かって座り、改めて入れた熱い緑茶で喉を湿らせながら、最初は私が自分の今までの経緯を語った。

 吉祥寺に生まれ育ったこと、家族や亡くなった祖父母のこと、群馬の山に松茸を探しに入り下山したらこの世界だったこと。

 運良く親切な人達の世話になり、故郷であるこの土地で店を持つことが出来たこと。

 もちろん出会った神様や、お世話になった人達の詳細は伏せつつ、時折ゴンさんの質問への応答も交え、ひとしきり話した。


 そしてその後、ゴンさんが自身のことを教えてくれた。

 私より三つ年上のゴンさんがこの世界に出現したのは、私がこの世界に来た時から元の世界でもこの世界でも同じ二年後で、池袋の路地裏だった。

 実際には出現というより『目が覚めたら、そこは異世界だった』という状況だったらしい。


 池袋の夜営業のお店に勤めていたゴンさんは、タチの悪い先輩グループに自分達の客に手を出したと因縁をつけられて呼び出され、路地裏で集団に襲われ意識を失ったのだそう。

 そして目覚めて最初に目にしたのは、元の世界となんら変わらないこの世界の空だったという。


「最初全然気付かなくってさ、でも雰囲気が違うんだよ。歩いてる奴の服はなんかダサイというか昔っぽいし、繁華街なのに小汚ねえぼろい雑居ビルじゃない、この店みたいな時代がかった妙に立派なビルが並んでるかんじで。

 奴らが嫌がらせでわざわざ遠くの知らない街に俺を捨てたのかと思ったんだ。

 財布抜かれてたけどポケットに小銭が残ってたからさ。とりあえず腹を膨らませてから考えようと、近くにあった蕎麦屋に入ったんだ。そんで蕎麦食った後で金を払おうと渡したら、偽金だって騒がれてさ。全然話にならなくて面倒になって、ソバ代はきっちり置いて店を出たんだ。そしたら通報されちゃってさ。

 追ってきた奴が見たことない制服だったから、おせっかいな警備員かなんかだと思うじゃん。つい手が出てそのまま逮捕だよ」


 なにやらバイオレンスな体験だけど、私だってこの世界に来たときは一晩お世話になった身。

 別世界にいることに気付いた混乱ぶりには共感できる。


「でさー、俺は誠意を持って話しをしても全然通じなくて余計に警察を怒らせちゃって。通貨偽造だから作った奴のことを話せとか言われても造幣局ですとしか言いようがないだろ? 果てには俺の名前にケチつけるんだよ、ふざけるなちゃんと名乗れってね。他国の神に祝福を受けた名を名乗るには証明書みたいなもんが必要なんだと。最初、意味分からなくて、日本が狂っちまったのかと思ったよ」


「そんな風に言われるって、本名はどういう……」


 私が恐る恐る尋ねると、ゴンさんは先ほどまでの饒舌が嘘のように照れたようにボソリと言った。


「パウロ・権太・山田・リマ。死んだ父ちゃんがブラジル人なんだ。でも俺は母ちゃん似だからまだ日本人顔だろ。あの頃は日サロで焼いてたし、濃い顔だけどクラスに一人いる顔だって言われてたよ。ハーフ詐欺だってね。山田権太と名乗れば良かったんだろうけど、ムカついてたんで冗談で権兵衛だって名乗ったらあっさり受け入れられちゃってさ。親や友達からもゴンとしか呼ばれなかったし。父ちゃんはクソみてぇな奴だったことしか覚えてないから、そっちの名はまあいいかって。

悪い、女の子にクソとか言っちゃ駄目だな。船乗ってるとヤローばっかりだから言葉使いがひどくなっちゃってさ。」


 漁師らしく真っ黒なゴンさんの顔は、よく動く目と笑った時の白い歯の印象が強くて気が付かなかったが、よく見れば確かに彫りが深めでまつげが長くて濃い。


「確かにハーフって言われてもあんまり分からないかも」


「だろ。前の世界じゃあれだけ外国人が住んでいて、俺みたいな日本人顔のハーフでも散々いじめられて差別も受けたけど、外国人がめったにいないこの世界では普通の日本人と同じようにまともに扱ってもらえるんだ。実際、俺の父ちゃんが外国人だって言ってもそれがどうしたのかって。他所の港で知り合った中にもっと派手な外人顔のハーフの奴がいたけど、生き辛いことはねぇかって聞いたらキョトンとしてやがった」


 帝国の属国として他国との国交が限定的で、外国人だけでなく日本人の海外への渡航は厳しく制限されている。普段街中でも日本人以外を見かけることはほとんどないし、いても帝国人ばかり。

 港には海外航路の船が訪れ、外国人の船員さんが船を下りても、基本港湾内の宿泊施設への滞在が義務づけられてる。そして厳重な管理のもとで限定的に街中への外出が認められているのだと、昼間に多い港湾の職員さんから聞いたことがある。

 そういった海外航路の船員さんに、職員さん達がうちの店を紹介してくれる事も少なくない。

 もちろんそういった船員さん達が使うのは共通語である帝国語なので、カタコトな私よりずっと流暢な初ちゃんが対応してくれて助かっている。

 そういった訪日外国人ではなく、日本にすむ異国人と日本人の間に生まれた子達の存在など思い至ったことはなかった。

 ゴンさんの話を聞いていて、この世界に来てから元の世界にいた時以上に自分の見て考えている世界が狭いなと改めて感じてしまった。


「俺、中学ん時から荒れてて碌な人間じゃなかったからさ。俺が消えて母ちゃんだけは悲しむかもしれないけど、今は再婚して新しい家庭で幸せにやってるからな。俺がいなくても大丈夫なんだ。だからこの世界で新しい名前で新しい人生をやり直せるならそれでいいかって。ただしいきなり前科者だけどな」


「前科ってもしかして食い逃げの件でついてしまったんですか」


「食い逃げに、公務執行妨害、あと貨幣偽造のなんちゃら。初犯だし背後関係に何も見つからなかったから、懲役二年執行猶予三年だってさ。だけど流民は執行猶与の代わりに強制労働だなんてふざけんなだよな」

「強制労働って、あの世界史で習った戦時中にあったような?」

「ああいうのとはちょっち違うよ。流民は定住してないから管理が難しいけど、刑務所入れる余裕もない。だから民間に任せてるんだと。民間の会社もひどい人手不足の中で安い給料で労働力が得られて嬉しいんだと。ただ、色々法律で待遇とか決められてそれなりに面倒らしいけどね。

国と企業がウィンウィンの関係ってやつ?

強制労働させられる方はたまったもんじゃないけど。ぜってー刑務所にいる方が楽じゃね?って思うもん。

裁判所で説明されたけど、よく分かってないまま漁船と農場と工場のどれか好きなのを選べって言われて決めさせられた。死んだ母方のじいちゃんが漁師で、子どもの時の夏休みなんか船に乗せてもらったことがあったから船を選んだんだ。

そしたらマグロ漁船ならぬ竜漁船でぶったまげた。生のドラゴン見たときはマジで小便どころかうんこ漏らしたくらい怖かったよ。

おっさん達はさらっと『竜の野郎』って呼んでるけど、見た目はガチでゲームとかで出てくるいかついドラゴンだって。

船に乗ると他に比べて命の危険がある仕事だから、他に比べると給料はかなりいいんだと。もちろん普通の船員に比べると低賃金だけど。全額貰えるのは年季明けで、それまでは毎月小遣いが支給されてる。まあ、それもほとんど海の上にいるから使う機会もないけどね」


「さらっと話してますけど、ゴンさんは今まですごく大変だったんですね」


「俺も最初は『俺って不幸な奴』って腐りまくってたんだけどね。訳が分からないまま犯罪者になって、外洋の漁船なんて慣れねぇもんに乗せられて。

うちの社長の会社、強制労働の受け入れやってる更正福祉事業者ってのになってるんだ。拘置所の外にバス横付けにして俺と似たような奴らを乗っけたら港へ直行してさ。何も説明がないまま船に乗せられて、それでいきなり化け物を狩る手伝いさせられるんだ。規則だからって鍵付きの広間に詰め込まれてさ、一人になれるのは便所だけ。

それで判決で決められた年季が明けるまで働くなんて、最初は絶望しかなかったよ。

けど社長が目ぇ光らせてるから仕事以外で理不尽なことされたり待遇は悪くなかったよ。仕事中は死にたいほどキツイけど。毎晩明日の仕事ん時海に飛び込んで泳いで逃げようか、もしそれで溺れ死んじまってもいいかなんて考えてばっかだった。

そしたらある時社長に活入れられたんだ。『お前はいつも半端なことしかしてなかったんだろう。一度は命かけて仕事してみろ、そうすれば目の前のものが変わるぞ』って。

んで、いきなり銛持たされて舳先に立たされたんだ。銛に魔力込めて竜に投げろってね。あのオッサン、マジで容赦ないから。

最初は立つのも無理で投げるどころじゃねぇし。舳先にしがみついて動けなくなると海に蹴落とされるんだ。で、波にもまれ溺れかけた所で救命胴衣みたいな魔道具が船に引き上げてくれて。また海に落とされてって繰り返しさ」


「なんてスパルタな。確かに仕事には厳しそうな社長さんでしたけど」


「何度死んだかってくらい、ほんと酷い目にあったよ。後は死んだ竜にロープかけて船団で最寄りの基地まで運ぶんだけど。竜の上に立たされて、途中分けわかんない鳥や鮫っぽい謎の生物が寄って襲ってくるのを追っ払う仕事をさせられるんだ。もう夢中で魔法銃をぶっぱなすかんじ?ゲームと違ってリアルまじやべーよ。

でも、余計な事を考えないで目の前の事だけがむしゃらにやってたら、出来る事が増えていって、それがやり甲斐に繋がっていくんだ。ドラゴンにも最初は腰を抜かしてたけど、今はちゃんと銛を当てられるようになったしな。

そんな俺を社長が見ていて、去年の終わりの年季が明ける時に声をかけてくれたんだ。このまま残って正式に社員にならないかって。

前科ついたことが将来マイナスになることもあるかもしれないけど、俺は今はそれでよかったと思ってるよ。そうじゃなきゃ、前と似たような夜の仕事で食いつないでコソコソ生きてたと思う。

ハハ、女の顔色伺ってどうやってボトル入れさせようかってことばっか考えてた俺が、ドラゴンハンターって命張る仕事につくことになるなんてな。時々怖くなって、これが夢オチじゃないことを祈ってるよ」


「今、幸せなんですね」


「これを幸せって言うのかは分からないけど、必死になって生きてるって実感はあるよ。生まれて初めて充実してるし、早く一人前になりたいって目標もある。英里ちゃんは?」


「私もこの世界で生きる為に必死に模索しています。色んな人達と出会って、支えられて夢だったお店まで持って。でもまだ道の途中でこれからどうやって進んでいこうか悩んでるところでしょうか」


「英里ちゃんは、元の世界に帰りたいんじゃないか」


 ゴンさんが大きな黒い瞳で私を見据えた。

 私は唇を噛みしめ逡巡した末におずおずと頷く。


「やっぱりそうか。で、元の世界に帰る方法は知ってるの」


 その言葉に、つい俯いてしまった。

 私の知ってる事をゴンさんに話すか、それはノーだ。

 彼は魔力を持っているようなので条件に当てはまらないし、それ以前にこの世界に生きることを決めてる様子。

 だけどここまで彼が話してくれているのに、嘘はつきたくなかった。

 何を言うべきか困っていると、ゴンさんはその沈黙をどう受け取ったのか、あわてて私を気遣うように声をかけた。


「いや、悪かった。帰りたいと思ってる奴に帰る方法を知ってるかなんて馬鹿なこと聞いちまった。こういうとこが俺、無神経で駄目なんだ。ごめんね」


「いえ、その、ゴンさんが謝るようなことは何も」


「いやいや、なんか自分語りして調子に乗ってたわ。スマン」


 テーブルに両手をつき頭を下げるゴンさんに、私はあわてて顔をあげて欲しいと懇願した。

 するとちらりと私を見上げ、目が合うとニカっと白い歯をむき出して破顔し、私も釣られて口元をゆるめる。


「俺より年下の女の子が一人で知らない世界に来て、ここまで頑張ってる英里ちゃんはすごいさ。その頑張りはこの世界の神様がしっかり見て、きっと祝福してくれるはずさ。全然真面目な信者じゃなかったけど、クリスチャンの俺でも受け入れてくれたくらい日本の神様は懐が深いからな」


「ゴンさんは、その、神様に会ったことがあるんですか?」


「あるよ。初めて船に乗せられた時に最初に寄ったのがある島の住吉大社でさ。そこで加護をもらうんだけど、俺だけ宮司さんに別室呼び出し受けたんだよ。そこで住吉神さんに会ったんだ。その時に色々話してさ、元の世界に帰る方法を聞いたら無理だってすっぱり言われて。それも元の世界への未練を捨てられた理由の一つかな。あ、悪い、無理って言ったのは住吉神さんだし、俺がってことだから。またなんか話が戻っちまった。ごめんな」


 自分の髪をがりがりとかきながら苦笑いを浮かべるゴンさんは何か聞きたいことがないかと言った。

 それならと、先ほどからずっと気になってたことを尋ねてみた。


「もしよければ教えて欲しいのですが、ゴンさんが魔力を自認した時ってどうでしたか?」


「ああ、なんか拘置所にいる間に流民更正教育ってのを受けさせられてさ、この歳で机に向かって授業受けるんだぜ。その時に魔力や魔法の存在を知ってびっくりよ。皆どこのど田舎から出てきたんだって笑うし。そこで魔力の測定を受けて、魔力を使う為の内循法を習ったよ。俺はそれでようやくこの世界が知らない世界だなって実感出来たよ。あれ、英里ちゃんもそういうの習ったんだろ?確かさっき俺とは違う流民用の何かプログラムを受けたんだろ」


 私は魔力がなく魔法は使えないことを伝えると、ゴンさんは一瞬息を飲み、そして身を乗り出して私の手を握った。そして痛いほどにぎゅうぎゅう握りしめた。


「英里ちゃん、辛いことが多いだろうけど逞しく生きるんだよ!」


「は、はい。ありがとうございます」


 ゴンさんの壮絶な話を聞いて私が励ますべきなんだろうけど、逆に激励されてしまった。

 戸惑う私の手を握ったまま、ゴンさんは更に涙ぐみながら励ましの言葉を重ねる。

 この人、他にも何か魔力関係で何か大変なことがあったんだろうか。



 いつまでも握られた手をどうしようと困っていると、その時店内に一陣の黒い風が舞い込んだ。

 というか、黒いマントを翻した少女が箒に乗って、開いた窓から飛び込んできた。


「下郎、英里さんからその手をお離しなさいっ! とうっ」


「すげぇ、リアル魔女っ子だ。魔法のある世界だから、そりゃ魔女っ子くらいいるよな」


「いえ、これはどっちかというとコスプレなんですが」


 店内の天井が高いお陰で華麗な一回転を決め床に立つと、シフォンレースをたっぷりと使いふんわりしたスカートの裾をちょいちょいと直し、咳払いを一つして仁王立ちしたルリちゃんが、ゴンさんにピンク色のマジカルステッキのようなものを突きつける。


「私の大大親友、英里さんにたかる虫けらめ、馴れ馴れしく触ると私が許さないのです」


「ルリちゃん、お客様の前だよ」


「英里さん、大丈夫ですか! この黒い獣に汚されてませんか。今すぐ魔法で浄化を……」


「ルリちゃん、今はお客様とお話をしているのだけど。私の声は聞こえてるかな」


「ひひぃっ、英里さん、笑顔なのに怖いですわっ」


「お客様に今、失礼なこと言ったよね?」


「ひぐうっ、ご、ごめんなさいですわ。つい英里さんの危機だと思って……失礼しましたわ」


「私が危険?おかしいわね、どうして危機だと思ったのかな」


「けけけけけ、警備用に庭へ仕込んだ警備魔法で見えて。あの、もちろんプライベートエリアは一切映らないようになってるのでご安心くださいませ」


「そう、わかったわ。その話は後でゆっくりしましょうね。ゴンさん、ごめんなさい。せっかく貸し切りでゆっくりしていただこうと思ったのに想像しくなってしまって」


 私はゴンさんに向き直ると深く頭を下げた。


「いやいやいや、全然構わないって。もともと俺は貸し切りじゃなくてよかったし、本当なら皆でわいわいとやる方が好きなタイプだしね。それに魔法使いがいるのは知ってたし魔法具を使うことはあるけど、実際に魔法使いを見たのは初めてだから、ラッキーだよ。しかもマジもんの可愛い魔女っ子でさ。」


「あら、男のくせになかなか見る目があるようですわね、ってあ痛いっ。英里さん、脇腹の肉をつまむと痛いのですわ」


「ゴンさん、この後何かご予定ありますか?」


「いや、明日からまた当分缶詰生活だから、今夜は街をブラブラしようかなと思ってたけどね。いつも通り一人ではしご酒だけど」


「じゃあよかったら、三鷹にお勧めのお店があるのでご一緒しません? って、私の師匠のお店ですけど。ちょうど後で行く予定だったのでご紹介しようかと思って」


「三鷹って、昨日のおにぎり作った奴が働いてる店だよね。お茶漬けが食えるって言ってた店。行く行く! 是非連れていってくれ」


「いけませんわ! 英里さんたら店外デートだなんて」



 それからゴンさんは一度戻って用事を片付けてくるからと、残った料理を包んだ袋を下げて店を出た。

 そして私は片付けを済ませ、ルリちゃんに改めて警備魔法について、そして店への入り方についてじっくり話した。

 毎度の事ながら、純粋に私の事を想っての暴走なので叱りにくいけれど、お客様に迷惑をかけたり失礼なことをしてしまうのは困る。

 話が終わり、瞳を潤ませ深く肩を落とすルリちゃんをそのまま帰すのも憚られ、ゴンさんに出したデザートの余りを提供した。


「それであの色黒のお客さんは何者ですの? 英里さんがあそこまで肩入れするなんて珍しいですわよね」


 レモンと蜂蜜ハーブリキュールで作ったシロップをベースに寒天を溶かした液の中に、季節の様々なフルーツを閉じ込めて固め、ケーキのように切り分け上に更に蜂蜜多めのシロップと和えたフルーツを乗せたそれは、そろそろ茜色に染まりはじめた窓辺の陽光を浴びてキラキラと宝石のように輝く。

 ゴンさんはものの数秒、三口で食べてしまったけれど、ルリちゃんは大事そうに少しづつ口に入れては幸せそうにうっとりしている。


「昨日偶然知り合ったのだけど、同郷の人だったんだ。私の作る料理を懐かしって喜んでくれたのよ」


「そういえば英里さんは流民の出だと以前からおっしゃってますけど、故郷と呼べる場所があるんですの? それはどこなんですの」


 私は好奇心に目を輝かすルリちゃんを見つめ静かに言った。


「私の故郷はね、この吉祥寺よ。昔も今も。ルリちゃんと一緒ね」


「そう、ですの? 一緒は嬉しいのですけど………」


 今まで私は本当の故郷、元の世界については一部の人にしか教えていない。

 そしてそれ以外の人には詳しくは語らないようにしてきた。嘘をつくのはさすがに心苦しい為『流民だから』という言葉で濁してきた。

 ルリちゃんも今まで同じ事を問うた人達と同じように、私の口ぶりからあまり追求してはいけないことだと察してくれたようで、納得はいかない顔をしながらも、口にゼリーを頬張りそれ以上の言葉を飲み込んでくれた。


 私を親友と呼んでいつも無邪気に私を慕い想ってくれ、私にとっては妹のような存在になっているルリちゃんには、いつか折をみてきちんと話したい。

 そう思いながらも、まだ今は曖昧に微笑むしか出来なかった。

直したつもりだったのが一部直しきってなかったので(ゴンさんの刑期など)修正と、少々加筆修正しました。(8/16AM)

前話と今話、2話分の内容を本来3話で書く予定だったのに、妙なバランスになってしまいました。読みにくくて申し訳ないです。

次話でこの章最後になります。

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