終末の小さな命
暇つぶしが出来たから雪の降る中でも退屈せずに過ごせるようになり、ほぼトレーラーハウスから外に出なくなってしまった。
たまの晴れ間に洗濯物を干したりとかするくらいのもので、夜に外を見てても歩いてるゾンビを見ることもなくなった。
多分だけど、積雪がすごすぎて歩けないとかじゃないかと思う。常に膝まで雪があるような状態だからあたし達自身もすぐ近くのコンビニへ行くだけで一苦労。
ほんっと、近くにコンビニがあってよかった。
実家みたいに周りに何もなかったら普通に餓死してたかもしれない。
ここを拠点にと決めたのは間違いじゃなかったなぁと。
このキャンピングカー専門店にはお世話になってばかり。
「カオリ、何してるの?」
「保存食が減ってきてるから作り足してるだけ。ジャムとか、干し肉とかね」
「ああ。なにか手伝おうか?」
「珍しい、どうしたの?」
「台所はカオリに任せっきりだから…」
「気にしなくていいのに。ユカリは違うことをしてくれてるでしょう?」
トレーラーハウスの周りくらいは…と雪かきしたり掃除とかもしっかりしてくれてるのだから。
「でも…」
「じゃあ洗い物お願いしていい?」
「任せて」
隣で食器を洗ってくれるユカリ。なんかいいよね、こういうの。
「新婚みたいじゃない?こういうのもいいでしょ」
「…かもね」
同じような事を考えてたからびっくりした。
「素直じゃないなぁ。もっとわからせないとだめか…」
怖いことを言う。未だにずーっとそちら方面では主導権を握られたままなのよね。
「…カオリはさ、私で本当に良かったの?」
突然ポツリとそんなセリフをつぶやくユカリ。
「今更何よ」
「なんていうか、私からの一方通行な気がして…」
「そんなことないよ。でも…私ってそういうのを伝えるのが下手だから不安にさせたのかもね」
「恋愛はまだ苦手?」
「まだ…というか、元々向かないんだと思うよ」
だからこそ元カレにも浮気されたんだろうし…。あたしなんかより可愛くて表情豊かで、相手を満たしてあげられる人なんて沢山いるんだろうから。
「ユカリはどうしてほしいの?」
「んーわかんない。だってほら、私ってカオリ一筋だったし」
恥ずかしいことをさらっというね?
実際、ユカリはモテるのに、誰かと付き合ったとかそういう浮いた話を聞いたことがない。
高校時代からそう。告白されたってのは何度も聞いたけど、必ず振ってたし。
気まずい雰囲気で会話もなくなり、どうしようかと悩んでいたらドサッとすごい音がした。
二人で顔を見合わせて頷き合い、窓から外を覗く。
「何かいる?」
「こっちは見えないね。ユカリの方は?」
「こっちも…。仕方ない、外に出るか」
「危なくない?」
「まだ昼間だよ?しかも今日は晴れてるし」
たしかに久しぶりの晴れ間だから、朝から溜まっていた洗濯物を干したりしたけど、万が一もある。
「カオリは待って…」
「ヤダ!」
「でもまだ傷が…」
「それでもヤダ!」
わがままを言ってるのはわかってる。でも一人にしたくないし、なりたくない。
依存してるのもわかってる。こんな状況だから…と言われたらそれまでなんだろうけど、あたしは本当にユカリの事を…。
「わかったよ。じゃあ持っていくのはこっちにする」
ユカリは手に持っていた斧を置くと、棒の方へと持ち替えた。
あれであたしが怪我したからなのは間違いない。
こちらとしてもあの痛みはもう経験したくないし…。
二人でそーっとトレーラーハウスのドアを開けて外へと出る。
雪かきをしてくれたし、晴れてるのもあってトレーラーハウスの周囲はぐるっと地面が見えている。
そこを歩いていく。
「なんだ…屋根から雪が落ちただけか」
「雪かきしてあったから音が大きかったのかな」
「多分ね」
一応確認しようと落ちてきたらしい雪のところへ行くと、点々となにかの足跡が…。
「これ…」
「猫だね」
しゃがみこんで足跡を確認したユカリはそう断言する。
よくわかるなぁ。
「え、待って。昼間に平気で歩いてるって事は普通の猫?」
「だと思うけど、確信は持てないね。だって動物に関してはゾンビになってるのも、無事なのもはっきりと確認はしてないでしょ?」
「確かに…」
見かけたのなんてスズメらしき鳥くらい。カラスは見てないし…。
犬猫すら見ていない。
「コンビニ行こうか」
「まだ備蓄はあるよ?」
「猫の餌、貰ってきて置いておこうかなって」
「ああ…」
出かける準備をして、雪をかき分けながらコンビニへ行き、猫用のカリカリとか喜びそうなものを色々と物色。
二人でもし仲良くなれたら〜なんて話しながら…。
お皿はとりあえずコンビニ弁当の器を再利用。
そうそう、ゴミもコンビニとかのゴミ箱に入れておくと無くなるんだよね。気がついたのは本当に偶然だった。
コンビニへ行ったときに、ゴミ箱が溢れてて…こういうものなんだと思ってたのに、次に行ったらきれいになくなってて。
試しにあたしたちもゴミを捨てさせてもらったら、ちゃんとなくなってた。
お陰で衛生面も問題がないのは本当にありがたい。現実に戻れて、コンビニへ行く機会があったら絶対に掃除をしてくれている人にお礼を言いたい。
何だこいつって顔されるかもだけど…。
トレーラーハウスの下、雪があまり来ないところへカリカリを入れたお皿をおいておく。
「食べに来てくれるといいね」
「だね」
それから二人で暇があると外を覗くようになった。
何日かして、餌が減ってるのを見つけたときは本当に嬉しかった。たとえ猫でもあたしたち以外に生きている子がいてくれるのが嬉しくて…。
その日からは毎日、雪の振る日でも必ず餌を追加するようにして、二日に一回くらいは減っているのを確認してる。
でも流石に今日は……。
「すごい吹雪だね」
「止む気配もないな…」
窓から外を見ても何も見えないくらい。こんな日には流石に猫も来ないだろうと諦めてたその時だった。
「カオリ、ちょっと静かに!」
シンクで水を出していたあたしを止めるユカリ。
「どうしたの?」
「シッ!」
口の前で人差し指を立てて真剣な表情のユカリ。どうしたんだろう?
突然床へ寝転がると耳をくっつけてる。
あ、まさか!
飛び起きたユカリは迷いもせず猛吹雪の外へと出ていく。
せめて何か羽織りなさいよ!
でも、何となくそうしなきゃいけない気がしてコンロでお湯を沸かしておく。
お風呂のシャワーでもいいけど、もっと温かいほうがいいでしょうし…。
一応そちらの用意もしておいた方がいいかな。
しばらくしてユカリはぐったりした猫を抱えて、雪まみれで戻ってきた。
「カオリ、お湯!」
「今沸かしてるから、ひとまずシャワーで温めてあげて。少しはお湯が溜まってると思うから。すぐに沸かしたお湯も持っていくよ」
「さすがカオリ!」
シャワールームには浴槽はないけど、ホームセンターからもらってきた大きな桶はある。
簡易だけど一人くらいなら半身浴ができるように…と。
そこへお湯をためておいたから…。
沸き上がったお湯を抱えてシャワールームへ行くと、半裸のユカリが小さな猫を沈まないよう支えてお湯へつけていた。
「お湯持ってきたよ」
「ありがと! 少しずつ入れて」
ユカリに言われたように熱くなりすぎないよう加減して足していく。
シャワーのお湯はあまり高温にできないのよね…。
「にー」
と可愛らしいけど、か細い声で鳴く猫をユカリは必死に励ましてる。
「大丈夫だよ。頑張れ! 寒かったよね。よく頑張ったよ! もう少し頑張ろう?」
身体もさすってあげて、体温を上げようとしてるのだろう。
「まだお湯いる?」
「お願い!」
あたしはもう一度お湯を沸かしながら、小さな命がなんとか助かってほしいとそう願った。




