終末の登山
翌朝、軽キャンからすぐに必要じゃない荷物とかをトレーラーハウスの方へと積みなおし、もう一度山へ向かうための準備。
「ある程度の食料や水は必要よね?」
「うん、何日かは滞在しなきゃいけない可能性もあるからね!」
そんな何日も山にこもるつもりなの?ユカリは…。
非常食だったり水のペットボトル、後は山が寒いといけないから上着とか布団も残しておく。
「トレーラーハウスの方は鍵かけてきた!」
ユカリはジャラっといくつかの鍵がついたキーホルダーを見せてくる。
「自分の車じゃないんだから…」
「私達の拠点がわりだし、荷物も入れたんだから当然でしょ」
「わかったよ、無くさないようにね」
ユカリは自宅の鍵とかと一緒にまとめてる。あのキーホルダーも一緒に旅行した先で買ったんだっけ。
なんていうか、中学生男子が喜びそうな武器型のキーホルダー。お揃いにしようとか言われて全力で断った記憶がある。
ユカリって時々何処かずれてるんだよなぁ。
…まぁそうじゃなかったらあたしみたいな女を彼女にしたい…なんて言い出さないか。
「充電は大丈夫?」
「うん。ここもスタンドのとかと同じで充電スペースに停めておくだけでいいから楽よね」
「私さ、未だにスマホのもそうだけど無接点充電って意味わかんない。なんで置いとくだけで充電できてんの?」
「あたしに聞かれても…電磁誘導っていう磁力を利用してるんだろうなぁってことくらいしか知らないよ」
そういえばスタンドとかでも当たり前に充電出来てたけど、オンラインで料金の引き落としってされてるんだろうか…?
……いいや。気にしても仕方ない。もうこの際充電出来てるんだから良しとしておこう。
今日はユカリを説得して、運転席へと乗り込んだ。
運転するのも好きだから、させてもらえないのは辛いもの。
交換条件でなにか大切なものを差し出した気がしないでもないけど、もう今更だと思うことにする。
あたしが個人的にあげられるものは全てあげてるのだし。
山へ向かってユカリのナビに従い車を走らせ、山の上にあるキャンプ場に登る道へとたどり着いたのはもう薄暗くなってからだった。
「どうする?今からキャンプ場のあった所まで行っちゃう?」
「ううん。 明るい時に見たいからこの辺で夜を明かそう」
てことは路駐か…。
「あ、カオリ。 気休めかもだけど街灯の真下とかに止めて」
「わかった」
そうよね、こんな街灯すら疎らな山道、真っ暗なところに止めてたら怖すぎる。
実際、初日にこの道の途中で初遭遇したのだから。
少し移動して、明るい街灯の真下へと停車。
「今のところ徘徊してるのは居ないね」
「だね…」
窓から見える範囲にはいないし、なんなら見下ろす町並みは普通に明かりが灯った夜景。
「カオリ、お腹空いた!」
「非常食くらいしか持ってきてないから適当に食べて」
「ええ!? カオリの手料理…」
「今回は本当に大したもの持ってきてないから…」
カロリースナックとか果物の缶詰くらいだもの。
「明るくなったらスーパーに買い出し行こう!」
「え…。ユカリ、山は!?」
「……じゃあ確認したらスーパー行く…」
「はいはい…」
山に泊まりこむとか言ってたのは何だったのか。
ただ、缶詰とスナックをしょんぼりしながら食べてるユカリを見たら、買い出し行かなきゃなって思ったあたしも大概よね。
食後に窓から外を眺めてるユカリ。
「なにか見えるの?」
「ううん、こんな所まで歩いてくるのがもし居たらやだなーと思って」
「初日に一人見かけたからないとも言い切れないんじゃ…」
「そうだけど…。 あっ…」
「え!?」
「音立てないでねカオリ」
真剣な表情でそう言うユカリに頷き返し、あたしもそっと外を見てみた。
「…!!」
ユカリが咄嗟に口を塞いでくれなかったら叫んでたかも…。だって…
「落ち着いて。ここは大丈夫。ね?」
口を塞がれたまま頷いたのに手を離してくれない。
「声出さないように。話すなら小声でね?」
頷き返す。
ようやく手を離してくれたユカリ。信用ないなぁあたし…。
まぁでも、この光景は叫びたくもなるよね?
ゾンビみたいな人達が山道を列をなして登ってきてるのだから…。
「あっちって私達が来た方だよね」
「うん。なんなら初日に自宅へ帰ろうと向かってすごい数に出会った方向だね」
ついでに言うなら今日もあちら側から走って山へ来た。その時には見かけてないのに、どこに居たの?
「あとをつけられてた…とか?」
「それはどうだろう…だって今も車は避けて進んでるし」
「ここが明るいからとか?」
「街灯の下に停めて正解だったね」
「本当にね。ユカリの判断のおかげ」
絶え間なくぞろぞろと歩いてくるのが恐ろしくて、二人で肩を寄せ合って夜を明かした。
とても寝れるような状況でもないし、外を見てないのもそれはそれで不安で…。
空が白みかけてもまだ列は絶えず…。
でも、朝陽が登り、山の道が陽に照らされた瞬間にそれは起こった。
「うそ…」
「っ………」
陽が当たり、苦しむようにもがいてたゾンビたちは、砂のようになって消えていった。
何人かは木の影とかでやり過ごしてるけど、山の斜面を登ったりはできないようで…。それも更に高くなった太陽に照らされて消えていった…。
「カオリ…」
「あたしちょっと太陽信仰とかしてた人の気持ちがわかったかも」
「呑気か! あれ、どう思う!?」
どう思うと言われても…。みたままよね。
何にせよゾンビの群れに囲まれて動けないっていう状況からは開放されて、ホッと胸をなでおろす。
「移動する?」
「まって。ちょっと確認したい事があるから、カオリは車で待ってて」
「もう待つのは嫌って言ったよね?」
「…わかった。じゃあ一緒に行こう。そばを離れないでね」
「ん、わかってるよ」
武装したユカリと車を降りる。
「今日はそっちなの?」
「山だからね。枝とか払わなきゃかもだし」
危ないなぁ…。いつもの棒とは違うから本当に気をつけてほしい。
ゾンビの歩いてきてた路面を確認。
サラサラとした、まるで砂浜のように砂が堆積してる…。これがあのゾンビみたいな人たちだったんだなんて想像もできない…。
「服とかもなくなるんだね」
「そういえば…」
ボロボロでも衣服は着てたけどそれすらない。
「少し登山口へ行ってみるけどいい?」
「うん。ちゃんとついていくよ」
一応周囲は警戒しつつ山へ入る道へと踏み込む。
「道とも言えないくらい荒れてるね、せいぜい獣道?」
「だね、一応車で走れる程度の道幅はあるけどね。このタイヤの跡は多分あたし達の走った跡でしょ」
「だろうね、他に走ってる車なんて一切見てないし」
ユカリはそのまま山を登ろうとするから止める。
「登るなら車にしようよ、左右は暗いから潜んでるかもしれないし」
「大丈夫だって! それに徒歩でゆっくり行かないと何か見落とすかもしれないでしょ?」
「それは……っ!? ユカリ!!」
こちらを向いて話していたユカリの背後に見えた影。咄嗟に突き飛ばすように押し倒したんだけど、左胸から肩にかけて鋭い痛みが走る。
「カオリ!? てめー私のカオリに何しやがった!!」
起き上がって激高するユカリの叫び声とゴシャっという嫌な音が聞こえたのを最後に痛みに耐えられなくて気を失った。




