この『運命』は、決まっていたのかもしれんな。
空高く飛行するセターレに追い付いたチミーは、機関銃の如き無数のエネルギー弾を放った。
身体を回転させて全ての弾を避けきったセターレがら後ろを振り返って手を縦に振るう。
振られた手刀から真空の刃が発生し、真っ直ぐにチミーへと襲いかかった。
「うわっ!」
突然放たれた真空の刃に回避が間に合わず、チミーは腕を構えて真空の刃を防御。
チミーの白い腕に綺麗な切れ込みが走り、腕から鮮血が溢れた。
「痛ったぁ〜っ!!」
新品の紙で指を切ったような嫌な痛みに顔をしかめながら、傷口を手で押さえる。
再び放たれた真空刃を今度こそ避け、反撃するようにエネルギー弾を放ち始めた。
エネルギー弾を真空刃が切り裂き、真空刃をエネルギー弾が弾いていく。
遠目で見れば、超高速で空のあちこちが爆発しているように見えるだろう。
「くそっ、埒が明かない.....だったら!」
なかなか状況の傾かぬ弾幕戦に嫌気が差したチミーは追いかける事をやめ、横方向へ大きく進路変更した。
自分を追いかける事をやめて距離を離したチミーを、セターレは不思議そうな顔で眺める。
「これなら、どうよ!」
距離を離した後、セターレに向かって銃を構えるようなポーズを取るチミー。
するとどこからともなく青白い部品のようなものが次々と出現し、チミーの腕元でひとりでに組み立てられ始めた。
部品同士が意思を持ったかのように結合し合い、完成したのはライフル銃のような巨大な武器。
チミーはそれを掴み、照準をセターレに向ける。
銃口と目が合ったセターレは、その銃が危険なものである事を直感で理解した。
スコープを覗きながら、チミーがトリガーに指をかける。
「これでも.....喰らえっ!!」
そう言ったチミーがトリガーを引くと、大気が揺れた。
空気が潰れるかのような激しい衝撃波が周囲を襲い、ライフルから1発の銃弾が射出される。
銃口から放たれる弾丸など、その軌道が容易に読めるもの。
どれだけの威力を持とうと、どれだけの速さを有していようと。
避けるのは、容易い。
「─────ッ!?」
そう思っていたセターレは、自身が銃弾を避けられない事に狼狽えた。
動かぬセターレの脇腹に、一直線に走る弾丸が突き刺さる。
脇腹から溢れた血を見るセターレの顔を見て、チミーは得意気な顔でタネ明かしをした。
「その弾丸は『アンタに着弾する』という『運命』を付与したもの。一度放たれれば、誰にも止められないわ。」
「...であれば、撃たれる前に決着をつけねばならんのう。」
一瞬で傷口を治したセターレに、再び銃口を向けるチミー。
照準を合わせるよりも早く、セターレが能力を発動した。
「『世界の設計図』ァっ!!」
セターレが『世界の設計図』を発動すると、チミーの周囲に違和感が発生。
空間がまるで質量を持っているような....前後の空間が、縮んでいるような。
「ッ.....!?」
直前で気付いたチミーは前後に手足を伸ばし、迫り来る空気の壁を受け止めた。
察知していなければ今頃、チミーは空気の壁に潰され、空間の隙間へと消え去ってしまうだろう。
「くっ...ぐぐ.....こんなこともできるなんて。」
「その状態では、銃も使えまい!」
空気の壁を全力で押さえるチミーに、セターレが接近した。
チミーは後ろ向きに飛ぶ事で空気の壁とセターレの拳から逃れ、空を蹴って反転しセターレに迫る。
空中で1回転した後、回し蹴りを仕掛けた。
「ふん。」
屈んで回避し、セターレが拳を突き上げる。
拳を腕で防いだチミーは至近距離でエネルギー砲を放つも、まるで瞬間移動のように消えたセターレに回避された。
チミーの背後に回り込み、その上半身に蹴りを放つ。
蹴りを受けて横向きに吹き飛んだチミーは姿勢を立て直し、続けて放たれた真空の刃を腕で弾いた。
刃に追随して接近したセターレの拳を避け、その横面に右ストレートをお見舞する。
しかしセターレはその拳に耐え、続けて放たれたチミーの蹴りを避けた。
「『世界の設計図』ッ!!」
能力を発動し、手のひらから雷を放つ。
「ぐっ...!」
雷はチミーの肩を掠め、電熱が傷口を焼いた。
血は溢れないものの、焼かれた神経が痛みを直接送り込んでくる。
セターレは続けて『世界の設計図』を発動しようと手のひらを開いた。
だがチミーがそれを許さない。
セターレの手首を掴み、全力の頭突きを放つ。
頭蓋が砕けるかの如き勢いで放たれたそれは、セターレの脳を揺らすには十分だった。
よろめいたセターレに、チミーが拳を振りかぶった。
彼の右手に『世界の設計図』が現れていた事に気付かずに。
「油断したな.....!喰らえぃ!!」
チミーの拳が目の前まで来た所で『世界の設計図』を起動させる。
セターレの右手に、渦巻くブラックホールが生まれた。
それを掴み、チミーに向かって思い切り投げ付ける。
「ッ!?」
流石のチミーでも、あらゆるものを吸い込む空間に触れてしまえば跡形もなく消え去ってしまう。
それも拳がぶつかる直前の至近距離。
『運命』を変える能力といえど、覆る可能性が0%の出来事は変えられない。
セターレは勝利を確信し、その顔に笑みを浮かべた。
バシュッ。
次の瞬間。
セターレの胸部.....心臓のある部分に、大きな穴が空いていた。
空いた胸部の穴からは、ドロドロと赤黒い血が溢れ出している。
「なん...と......」
チミーの目の前まで接近していたブラックホールも、セターレの力の消失により跡形もなく消え去った。
その光景を見たチミーは、目を見開いて困惑の顔を見せる。
それはセターレも、チミーですら予想していなかった出来事。
セターレの背中を貫いたのは、チミーが先ほど放った銃弾だったのだ。
弾丸は一度セターレの脇腹を貫いたものの、そこで留まることはなく。
大きく旋回したのち、再び帰ってきたのだ。
セターレを『仕留める』という運命を背負って。
「馬鹿.....な....。」
お互いが困惑の表情を浮かべていた。
しかしセターレが心臓を貫かれ、チミーが立っているのが事実。
口を閉ざしていたチミーが、自分なりに考えを述べた。
「これも、『運命を操る力』の1つ...だったのかも。」
「はは、そうかもしれんな....。」
チミーの言葉を聞いたセターレが、小さく笑う。
「となれば、お主がその能力を得た時点で....この『運命』は、決まっていたのかもしれんな。」
瀕死の状態にも関わらず、セターレは吹っ切れたような清々しい顔でそう結論づけた。




