『運命』を操るだと?
運命を──────────操る。
何者も決して逃れられないその概念を、改変することができる能力。
「バカな.....『運命』を操るだと?」
「えぇ。使うのは初めてだけど、使える事は感覚で分かる。」
『世界の設計図』が操れるものの対象範囲は.....この星の全てだ。
これ以上ない能力と言えるが、『運命』だけは操る事ができない。
当然だ。
『運命』という概念は『全て』の外に位置するものであり、それを操るのは世界の仕組みを根本から掻き乱す行為。
そんなものを操れるとなれば......
「神の所業だぞ.....!」
この世界の一番高位に位置する『神』という存在。
最早とても強い、かなり凄いといった言葉で収まるようなものではなく、そもそも『存在』として定義して良いのかどうかすら不明瞭な、果てしなく強大な概念。
人間がその正体を考えられるほど、ちっぽけな存在ではないのだ。
だがこの世界の全てに与えられている、抗うことのできない『運命』という概念を操る能力。
そんなものを得たとなれば、『神の力の果てしなく末端』に触れたと言っても過言ではないだろう。
「だが。」
相手が神の力の末端に触れた者であろうとも、『管理者』は臆さなかった。
掌に『世界の設計図』を広げ、強気な口調で吠える。
「この星を管理しているのは私だ。この星の運命は、私を中心に回るようになっている!」
「だったら...それを変えないとだね!!」
両者はそれぞれ、その手のひらに能力を発動させる。
「ただの人間が、末端とはいえ神の所業を成し遂げるとは.....心底、敬意を表する。最後に1つ、名を聞こう。」
『星の管理者』はチミーを対等な立場として認め、その名を尋ねた。
チミーは『管理者』に真っ直ぐな目を向け、自身の名を名乗る。
「私は染口チミー。アンタは?」
「我が名は『星の管理者』。名を、セターレと言う。」
「....そう。」
『星の管理者』セターレが名を明かすと、チミーは呟くように返事をした。
そして、お互いに睨み合う。
目をしっかりと合わせた、敵意と敬意とが混ざった視線だった。
「「いざ、勝負ッッ!!!」」
2人は同時に声を上げ、真正面からぶつかり合った。
セターレが『世界の設計図』を使って塗り替えた現実から起こりうる運命を、チミーは『運命を廻す者』で改変。
矛盾と矛盾とがぶつかり合った、出鱈目の戦いだ。
互いの能力は打ち消され合い、矛盾を押し通し合う。
物理学者がこの光景を見れば、ショックで倒れてしまうに違いない。
この星の運命は『管理者』であるセターレを中心に動いている、と彼は言っていた。
だったら、その中心変えなければならないな。
チミーは腕を構え、その手段を口にした。
「アンタの体の『核』に触れ、直接『運命を廻す者』を発動させる....!」
チミー自身、これで事態が変わるかどうかは分かっていない。
だが彼女の内側に秘める『運命を廻す者』がそう告げていたのだ。
下半身を浮かせた後、空を蹴って急接近。
構えた右腕を伸ばし、胸部へと手を伸ばした。
だが、そう簡単に触れさせてくれるセターレではない。
伸ばされた右腕を左手ではたき落とし、チミーの顔面に右ストレートを放つ。
紙一重でそれを避けたチミーは仰け反った体制をさらに反らして手を地面に付け、後方転回で距離を取った。
土飛沫が上がるほど強く地を蹴ったセターレが、そこに詰める。
彼の放った素早い拳の連打を完璧に回避し、チミーは右腕のアッパーを放った。
身体を横に逸らす事で回避したセターレが、隙のできたチミーを掴もうと左手を伸ばす。
すると、まるで予知していたかのようにチミーが身体を半回転させて回避し、セターレの側頭部に裏拳を放った。
「ぬぅっ.....!!」
チミーの裏拳が直撃し、セターレのこめかみに内出血のようなアザが現れる。
この一連のやり取りは、僅か1秒にも満たない超スピードで行われていた。
セターレはこめかみの傷など気にもとめず、反撃を開始する。
全身を後ろ向きに回転させ、上から足を鎌のように振り下ろして上半身を狙った。
チミーは腕を組んで足をガードするも、その姿勢のまま放たれた連続の光弾は想定できず。
顔面から肩部分にかけた数発ほどをまともに受けてしまった。
「ちいっ!」
その隙を逃さないよう、素早く地面に降り立ったセターレは膝を折り、少し低い姿勢から拳を突き出す。
腕で拳をガードしたチミーだったが、セターレはその行動を既に予測していた。
上半身を翻し、チミーに背を向けて地面に手を付ける。
そこから、突き上げるような蹴りを顔面に打ち込んだ。
見事に直撃した蹴りによってバランスを崩し、上半身を大きく仰け反らせたチミー。
セターレはさらなる追撃を狙い、姿勢を起き上がらせて腕を振り上げた。
「舐めんじゃ......ないわよ!!」
『永遠なる供給源』によって自身の肉体を強引に動かし、セターレの拳を蹴りで弾く。
その勢いで浮き上がった体をひねり、もう片方の足で側頭部を打った。
よろめいたセターレが一歩退くと、着地したチミーが巨大なエネルギー砲を放つ。
『世界の設計図』を使用して相殺したセターレだが、その影に隠れてチミーが接近している事に気付かなかった。
「なぬっ!」
チミーの視線を読み、上半身を守ろうと身構えたセターレ。
しかしチミーは、その行動を彼に誘発させたのだった。
「だぁらッ!!」
下から突き上げるアッパー......かと思わせて、突然姿勢を落としたチミーが足払いを放つ。
足首に蹴りが直撃し、地から足が離れたセターレのバランスが崩れる。
チミーはその瞬間を狙い、顔面に凄まじいスピードの拳を打ち込んだ。
50発にも100発にも見える高速の拳は、頭が地面がめり込むほどの威力をセターレに叩きつけられる。
「ごほぉっ.....!?」
「おぉ、らぁっ!!」
地面に倒れたセターレに、拳を振り上げるチミー。
セターレは寸での所で回避し、突き下ろされたチミーの拳は地面を砕いた。
その威力は、2人のいる大地が傾くほど。
拳が地面に突き刺さった好きを狙ったセターレがハイキックを放つも、左腕で受け止めたチミー。
右手を地面から引っこ抜き、手のひらを開いて『破壊光線』を放った。
横に跳躍して回避したセターレを、真っ直ぐ伸びる『破壊光線』で追いかける。
『破壊光線』を受けた地面は砕け、飛び散った破片が融解。
セターレは足を踏み込み、上方向へ跳躍した。
『世界の設計図』を起動し、人指し指を空へ掲げる。
白く強大な雷が、音を越えて大地に突き刺さった。
だがチミーは『運命を操る』能力者。
チミーに向かって撃たれた雷は僅かに逸れ、ほんの数センチメートル隣を焼いた。
セターレの元へ接近すべく、チミーが膝を曲げて跳躍。
チミーと距離を取ろうとするセターレとそれを追いかけるチミーとが音速で空を飛び、大気中の水分が 一気に凝縮。
固まった水分が、飛行機雲のように2つの尾を引いていた。




