ローリング・デスティニー
『聖なる大地』から更に先へ続く光の階段を登り切った、終着点。
直径300メートル程の小さな浮島にて、『彼』は待っていた。
「まさか、ここまで来るとは。」
最上階に鎮座していた老人.....『星の管理者』。
登ってきたチミーとその老人とが真っ直ぐに睨み合い、何者も寄せ付けぬ圧のぶつかり合いを繰り出していた。
「何故このような無意味な抗いをする。どちらにせよ、儂の命はそう長くない。ギルガンの侵攻が進むのは避けられぬ運命だと言うのに。」
「今ここでアンタを倒せば、人類は生き延びるからよ。」
「分かっておらん、分かっておらんな.....。」
チミーの返答を聞いた『管理者』は頭を押さえて首を横に振り、呆れたようにため息を吐く。
その直後、左の手のひらを広げて『能力』を発動した。
「!」
音も無く、天から雷の柱が降り注ぐ。
チミーを飲み込み地を貫く雷は、すぐに掻き消えた。
チミーが電気エネルギーを丸ごと吸い込み、その威力を消滅させたのである。
『管理者』はチミーに、怒りの言葉をぶつけた。
「『人類はギルガンに抗える』など、主らのような力に恵まれた者だから言える世迷い言!!能力のない、非力な者はどうする?ほとんどの人間がギルガンに苦しむのを見てみぬふりして、のうのうと暮らすつもりか!?」
「あのねぇ.......」
『管理者』の主張に対し、雷を吸い取ったチミーが険しい表情を見せる。
雷を吸い取った手を握り、『管理者』の元へと歩みを進めた。
電光が、彼女の周囲を跳ねる。
「それを守んのが、私達の役目でしょうがッ!!!」
腕を振りかぶり、槍投げのように雷を"投げた"。
一直線に飛んでいく雷に対し、『管理者』が手のひらを広げる。
彼の手のひらに、ホログラムのような設計図らしき絵と文字列が出現した。
「『世界の設計図』。」
『管理者』が能力を発動すると、目の前まで迫っていた雷が蒸発。
何かに気づいたチミーが空を見上げると、青い空から隕石が降り注いだ。
隕石が地面に衝突し、爆発する。
「儂の能力『世界の設計図』。その名の通り、『世界の仕組みを書き換える能力』じゃ。」
即ち、『世界』そのものを操る能力。
隕石の威力に耐え、砂埃を払ったチミー。
しかしその力には、苦い顔を見せざるを得なかった。
「要は『全て』を操る能力、ってワケね。」
「そういう事じゃ。」
チミーの言葉に頷いた『管理者』は、再び『世界の設計図』を発動。
大気を焦がすほどの雷を、今度は6発もチミーへ落とした。
大地が揺れ、地を焦がした黒煙が辺りを包み込む。
神妙な顔でその景色を見ていた『管理者』は、顔にしわを寄せて呟いた。
「何故じゃ......。」
黒煙が晴れた先で、チミーは無傷の状態で立っていた。
1歩も動いていないにも関わらず、雷は一切として命中していない。
まるで彼女を避けるように、周囲の地面のみを焼き切っていた。
「『全てを操る』にしては、精度が低くない?」
「そんな筈は.....ッ!!」
涼しい顔で『管理者』を挑発するチミー。
そんな彼女を見た彼は初めて、一瞬の焦りを感じてしまった。
『世界の設計図』に間違いなど起きるはずがない。
にも関わらず、6発の雷が全て彼女に命中しなかったのは、確実に何かがある。
考えてみれば、ありとあらゆる者に勝ち続けてきた『観測者』ディフォールを打ち倒した者が、只者であるはずがない。
「今度はこっちから行くわよ!」
一瞬の焦りにつけ込んだチミーが距離を詰め、『管理者』に向かって大振りのアッパーを放り込む。
ギリギリで回避した『管理者』は素早く腕を構え、続けて放たれたフックを受け止めた。
「どうやら、儂はお主を侮っていたようじゃ。」
大きく息を吸った後、『管理者』の全身から凄まじいパワーが放出。
今にも折れそうなほど細かった腕が、空気を入れた風船のように膨れ始める。
腕だけでなく、脚、胸、腹。
全ての部位が膨れ上がり、まるで高名な美術家が彫り上げた、彫刻のような肉体がそこにはあった。
「パンプアップにしては、極端すぎるでしょ.....。」
まるで神話に出てくる英雄のような肉体へと変貌した『管理者』を見て、チミーは微妙な表情を浮かべる。
「ゆくぞ。」
『管理者』がそう呟いた瞬間、両者の姿が消滅。
光速にも匹敵する速さで、二人がぶつかり合いを始めたのだ。
互いに攻撃を避け、時にはガードし、反撃する。
数分にも渡る攻防を繰り返したにも関わらず、両者には傷一つとして付いていなかった。
「ぬぅん!」
『管理者』は手のひらを広げ、『世界の設計図』を発動。
着地したチミーのスニーカーが半分ほど、床に沈んだ。
足を上げようとするも、まるで地面が足にくっついているかのように重い。
「なっ.....!?」
『永遠なる供給源』を発動したにも関わらず、足の重さが変わらなかった。
足の重さに気を取られ、隙だらけだったチミーへ『管理者』の拳が襲う。
「ぐっ!」
筋骨隆々の拳が、チミーの頬に叩き込まれた。
倒れないように下半身でバランスを取ったチミーが、全身から衝撃波を放って追撃を牽制する。
「『世界の設計図』は全てに干渉する能力。お主が何を操る能力者だろうとも、これを上回る事はできない。」
「それは...ちょっと予想外。」
口内が切れて溢れ出た血を拭い、チミーが苦笑い。
果てしなく重い脚を持ち上げ、何とか前へ一歩、踏み出そうとする。
常人ならとっくに潰れてしまっているような凄まじい重力だ。
それほどの重力を受け、『永遠なる供給源』でさえ緩和する事のできない状態では、その重さに耐えるだけで精一杯。
再び接近した『管理者』の拳を、止められるほどの余裕は持ち合わせていなかった。
1発、2発。
拳を受けるも、凄まじい重力のせいで足を引くことも許されず。
ただ次の攻撃を待つしか無かった。
3発、4発。
右、左、右。
次々に放たれる『管理者』の拳をひたすら受けていたチミーだったが、5、6発ほど殴られた所で『管理者』の動きが止まった。
「ぐ....うぉ......!?」
そこには、足を踏み込んだチミーの放った右拳が、顔面にめり込む『管理者』の姿があった。
突然のカウンターを受けた『管理者』は、浮かべた驚愕の表情を拳で歪められ、時間差で後方に吹き飛ぶ。
『管理者』が強烈な一撃を食らった事で、チミーを縛っていた重力が開放された。
地面に落下し、仰向けで倒れる『管理者』へとチミーは歩み寄る。
『管理者』が上半身を持ち上げたと同時に、チミーが足を強く踏み込んで跳躍。
空中で3度回転した後、叩き付けるように脚を振りかぶった。
「くっ!」
『管理者』はかろうじてチミーの攻撃を回避。
叩き付けられた地面が砕け、勢いよく破片が飛び散る中。
体制を立て直し、再び『世界の設計図』を展開した。
「させるかっ!!」
叩き付けた脚を軸に、大きく『管理者』の元へ踏み込んだチミー。
『世界の設計図』が広がる手首を掴み、外側に捻った。
「があっ!?」
『管理者』が手首に意識を向けた所へ、その腹部に前蹴りを放って突き飛ばす。
「『世界の設計図』によって世界の理さえ操る事ができる儂と、ここまで渡り合うとは.....。一体、何を持っている?」
『星の管理者』は『世界の設計図』を操る、世界を操る存在。
単なる人間が、それに匹敵するのはあり得ぬ事。
「...私の能力は『永遠なる供給源』。あらゆるエネルギーを操る能力よ。」
『管理者』の質問を、チミーは静かに答え始める。
エネルギーとは、世界のあらゆるものを構成する動力源。
エネルギーを操るという事は、全てを操るという事に等しい。
「けど...たとえ全てのエネルギーを操れても、決して操れないものが存在する。」
世界の全てに存在するエネルギーを操る....実質的に『世界の設計図』と似た能力である『永遠なる供給源』に操れないものが、1つだけ存在する。
「それが『宝珠』を取り込み、今の状態となった私が得た能力......!!」
チミーは『管理者』に得意気な笑みを向け、自身の能力を明かした。
「『運命を廻す者』。『運命』を操る能力よ。」




