なかなかの鉄火肌だな
桜は自身の『座標』を操作し、ラジドの手から脱出。
4枚の円盤を、一斉に放った。
体を変形させて円盤を避けていくラジド。
そんな彼に、桜が接近する。
手に持っていた2枚の円盤を変形させて剣を作り出し、空中で回転しながら振りかぶった。
と同時に、ラジドを挟んだ反対側へ伊蛾山が現れる。
指を結び、桜に合わせる形で魔術を展開した。
「伊蛾山流...『氷吐息』!」
構えた瓢箪の口から、勢いよく冷気が吹き出す。
冷気はラジドの肉体を冷やし、その変形を阻害した。
「はあああぁっ!!」
そして、振り下ろされる桜の剣。
ラジドの肉体を真っ二つに切断した桜だったが、あまりにも手応えが無さすぎて『まだ終わっていない』事をすぐさま察してしまう。
「へへっ。真っ二つにしたところで、俺は死なないんだ。」
切断された肉体がうねり、再び結合。
その際に振り下ろされた桜の両手首を掴み、掴んだ肉体を切り離した。
「うわっ.....!?」
「大人しくしてもらおうか。」
桜の両手首を包むラジドの肉体が、鉛のように重くなる。
とてつもなく重い手錠をかけられているような感覚に、桜はその両手を封じられてしまったのだ。
「残るはアンタだ、ニンジャの兄さん。」
「.....雲乱。」
ラジドの前に、消えていた伊蛾山が煙と共に現れる。
まっすぐ、静かに立つ伊蛾山へ、構えたラジドが拳を伸ばした。
クナイを構え、伸びてきた拳を真っ二つに切断。
しかし拳からさらに肉体が派生し、桜を掴んだ時のように伊蛾山を包み込む。
伊蛾山は咄嗟に煙と共に姿を消し、ラジドの拘束から逃れる。
空を走り、二本指を立てた手を構えて術を放った。
「伊蛾山流!『抱石圧』!」
唱え、踏み込んだ前足は地面に浅い穴を穿つ。
ラジドの全身を重圧が襲い、不定形なその肉体は潰れるように平たく変化した。
「ぐぐっ.....!」
ラジドは重力に抗うべく、何本もの足を作成して自立しようとする。
しかしそこを、伊蛾山が狙った。
「はッ!」
クナイで一閃、真っ二つ。
しかしラジドはすぐさま肉体を修復し、伊蛾山の腹部へボディブローを放った。
「ぐふっ......!」
「足掻くんじゃねぇ!」
拳を腹部へ突き刺したラジドは反対側の拳を握り、さらに追撃を放とうとする。
だがその瞬間、彼は伊蛾山の策略に嵌っていた事に気付いてしまった。
「ふん、ハマったな。」
ラジドが伊蛾山の腹部に突き刺した拳は、伊蛾山の握っていた瓢箪に捕らえられていたのだ。
続けて放った拳を避け、伊蛾山が詠唱する。
「伊蛾山流!『吸爆』!!」
唱えると、瓢箪が怒涛の勢いでラジドの拳を啜り始めた。
体を変形させて逃れようとするも、その吸引力に逆らうことはできない。
「うおおおおおぉっ.......!?」
ラジドの肉体は渦潮に飲み込まれるが如く、瓢箪へと吸い込まれていく。
完全に吸い切った後、伊蛾山が急いでコルクの栓を閉めた。
瓢箪に閉じ込められたラジドが内部で暴れ、瓢箪がガタガタと揺れ動く。
ヒビの入った瓢箪を見て危険を察知した伊蛾山が、桜に視線を向けた。
「君の能力は『座標操作』だったか。悪いがこの瓢箪を『固定』する事は可能か?」
「っ.....!可能です!」
重い手錠で拘束されていても、能力は使える。
桜は『手品師の空間』を発動し、瓢箪を『固定』。
殻を『固定』されたラジドは瓢箪を1ミリも動かすことはできず、成す術を完全に奪われてしまった。
「『管理者』がどれほど強くとも、『星の消滅』を防ぐ事がどれほど無意味な事だとしても、我らは挑む。人間とは、ほんの僅かな光に手を伸ばし、無謀に片足を突っ込むような生き物だからな。」
瓢箪を掲げ、中に入っているラジドに言い聞かせるように伊蛾山が言う。
こうして『観測者』は12人中、11人が脱落。
最後の一人......『4番目の観測者』は、『管理者』の玉座に迫るチミーを待ち構えていた。
静寂に包まれる中、腕を組んで静かに立つ『4番目の観測者』ディフォール。
目を瞑っていた彼は唐突に脚を引き、腰に差してあった剣の柄を握った。
直後、そこに大爆発が発生。
周囲の地面をめくれ上がらせるほどの衝撃波が、爆散した。
「いきなり攻撃とは、なかなかの鉄火肌だな。」
引き抜いた剣が、拳を受け止める。
突っ込んできたチミーが、初っ端から放った拳をだ。
拳と刀身とがぶつかり合った衝撃は、風を切り裂いて地を揺るがす。
ディフォールの体が、数メートル後退するほどの威力だ。
拳を弾いたディフォールは切り返しを放ち、チミーとの距離を離す。
純白の鎧に身を包み、大剣を地面に突き立てた騎士、ディフォール。
鎧や、顔を覆い隠す兜に派手な装飾は無いものの、それが逆に無駄の無い威圧感を生み出していた。
「あの3人をも倒したのか。」
「や、それは私の友達がやってくれてるはず。」
強い者には強い者特有の雰囲気が存在しているもの。
それを隠して実力を偽る者もいれば、これでもかと見せびらかして相手を威圧する者もいる。
だが、ディフォールはそのどちらでもなかった。
強者の持つ特有の雰囲気などどうでもいいとでも言うかのように、極限まで『自然』な状態で立っていた。
隠すわけでもなく、見せびらかすわけでもない。
ただただ本来の自分を見せている。
そんな彼を見て、チミーの直感は彼を強者だと認定した。
ディフォールは地面に突き立てていた大剣を持ち上げると、大きく前に向けて構えを取る。
剣道の構えのような、とてもシンプルで、隙の無い構えだった。
チミーは持っていた『創造の宝珠』を発動。
虚空から生成した直剣を引っ張り出した後、腰を落として構える。
チミーが創り出したその剣は、ダイヤモンドのように透き通った青色を持つ、美しい剣だった。
「良い剣を持っている。」
チミーの創り出した剣を見て、その芸術品のような美しさを素直に褒めるディフォール。
だがしかし、構えを決して崩す事なく。
ディフォールは、自身の名を名乗った。
「我が名はディフォール。『星の管理者』を守護する者。」
「わ、私は染口チミー。えっと....。.....『星の管理者』を倒す者よ!」
ディフォールの名乗りに合わせてチミーも名乗る。
チミーが名乗ると、ディフォールは静かに頷いた。
「いざ.....参る!」
見えたのは最初の1歩だけ。
次の瞬間には、チミーの目の前までディフォールが迫っていた。
「っ!?」
斜め上から放たれた剣を寸での所で弾き、続けて放たれた横薙ぎの一閃を後ろに飛んで回避する。
早い!
チミーの最高速.....光速に匹敵するスピードだった。
放たれた二撃は、どちらもまともに食らえば真っ二つになっていただろう。
「最初から、全力を出さないとダメってワケね.....!!」
チミーは左手を前に出し、握る。
「エンジン...全開ッ!!」
『永遠なる供給源』の力を最大限まで解放したと同時に、足元の地面を砕きながら瞬間移動。
ディフォールへ、接近戦を仕掛ける。
「はぁっ!」
「おおっ!」
しかし、『永遠なる供給源』の力を引き出した状態のチミーに、ディフォールは互角以上の打ち合いを繰り広げた。
光速まで急加速したチミーの剣を的確に受け止め、カウンターを放っていく。
彼の実力は、本物だ。
最後の砦となる役割を持っているだけあり、他の『観測者』とは明らかに格が違う。
『永遠なる供給源』が切れてしまうより先に決着をつけなければ、確実に負けてしまう。
しかしチミーの頭に、彼を倒せるビジョンは現れずにいた。




