やられっぱなしじゃ、いられねぇ
岸山と胡麻原の2人が対峙したのは『1番目の観測者』ホロアレス。
人間の倍ほどの身長にローブを羽織ったその姿はまるで、小さな山の如し。
そんなホロアレスの放った腕を、受け止めようと左手を伸ばす胡麻原。
しかしその行為が誤りだった事を、胡麻原は次の瞬間に思い知る事となる。
「なぁっ.....!?」
ホロアレスの手が触れた瞬間。
胡麻原の指先が千切れ始め、内蔵していた部品が次々に飛び散っていく。
そんな状態の手でホロアレスの手を止められるはずがなく、その手はどんどん胡麻原の腕を侵食。
ホロアレスの手が進むたび、胡麻原の腕はそれを避けるようにどんどん砕けていった。
「うおおおおっ....!!」
「くっ!」
胡麻原の腕が肩まで砕け散った所で、岸山が動いた。
能力を発動すると、胡麻原の腕を砕くホロアレスの手首から出血。
ヤスリで削られたような痛みと共に、抉れた傷が彼の手首に生成される。
胡麻原の腕から手を引き抜き、垂れ流れる手首からの出血を静かに眺めるホロアレス。
「やはり先程のは、貴様が。」
「ええ。拳大の大きさしか作れませんが、どんな強度のものでも削れます。....とはいえ、貴方にはそこまで致命的なものでは無さそうですが。」
「ほっほ。そうじゃな。」
岸山の睨みに、ホロアレスが笑う。
最初に肩へ付けた傷が、既に塞がっている事に岸山は気付いていたのだ。
ホロアレスが血の滴る腕を掲げると、傷口が逆再生でもしたかのように塞がっていく。
どくんと一つ跳ね、ホロアレスの傷はすっかり元通りに戻った。
袖を引き、手首を見せつける形で彼は言う。
「儂の特性は『修繕』と『分解』。攻守共に優れた特性じゃ。...例えば、ほれ。」
自らの特性を明かしたホロアレスは、おもむろにその手で地に触れる。
指先が触れた土は『分解』され、蟻地獄の如く崩れ始めた。
「うぉあっ!?オレの部品がっ....」
ホロアレスに分解され、砂に飲み込まれていく部品を必死で拾い集める胡麻原。
蟻地獄の中心へと引きずり込まれている事に気が付かず、待ち受けていたホロアレスの手が再び彼を襲った。
「危ないっ!」
胡麻原の服を掴み、岸山が引き止める。
しかし大柄な胡麻原の体重を支え切る事はできず、重力に従って滑り落ちた胡麻原の足先をホロアレスの手が掠めた。
直撃は免れたが、靴が繊維の1本まで分解されていく。
「やられっぱなしじゃ、いられねぇ.....!!」
胡麻原は蟻地獄に裸足を突っ込み、片手をホロアレスに向けて構える。
手のひらが開き、中から砲塔が出現した。
「おらァッ!!!」
光り、爆発。
ありったけの火薬を使って、小型のロケット弾がホロアレスへ一直線に放たれる。
ホロアレスは避けなかった。
というより、『避ける必要がなかった』のだ。
彼が突っ込んできたロケット弾に手を触れると、ロケット弾のネジが飛び、信管が作動するよりも先に炸薬と分離。
続々と部品が『分解』され、ロケット弾は爆発する事なく。
バラバラになった部品が、静かに砂へ落ちるのみとなった。
「なにぃ!?」
ロケット弾ですら『分解』するホロアレスに驚愕しつつ、腰を変形させたモーターで蟻地獄を脱出。
胡麻原の脱出を確認したホロアレスは、再び地に指を触れた。
蟻地獄は『修繕』され始め、砂は空気中の水分を吸って土へ戻っていく。
開いた蟻地獄を塞ぐ形で土が盛り上がり、蟻地獄はすっかり元へ戻った。
「厄介なのは...其方じゃのう。」
立派な髭を撫でつつ呟いたホロアレスが、岸山へ向かって一直線に走り出す。
突き出した右手が空間を『分解』し、まるで空間転移のように瞬間移動。
目の前まで急接近したホロアレスの放つ右手を、岸山が避ける暇は存在しなかった。
だが、しかし。
「ぬぅ?」
ホロアレスの右手は、岸山の胴体をすり抜けていく。
お返しと言わんばかりに、その手に抉れるような傷が再び穿たれる。
岸山は眼鏡を持ち上げ、自身の能力を口にした。
「『小さき群奏』。僕の体は、貴方が手を出さなくても粒子レベルまで分解する事ができる。」
能動的に自身の体を分解できる岸山にとって、ホロアレスの『分解』など意味を成さない。
だがしかし、ホロアレスにはもう一つの特性がある。
「っ.....!?」
ホロアレスの伸ばした左手が、粒子と化した岸山の体の一部に触れる。
『修繕』が行われ、岸山の体はみるみるうちに生身の状態へと戻っていった。
分解した体を修繕された岸山に、ホロアレスの拳が突き刺さる。
「ぐあっ.....!!」
一発、二発と拳が腹を突き、岸山は後方へ吹き飛ばされてしまう。
急いで胡麻原が駆け寄り、ホロアレスの追撃から岸山を逃した。
そこで胡麻原は、ホロアレスの攻略法を思い付く。
「おい、兄ちゃん!」
「何です。」
「アンタ...『粒子を操る』能力だったよな。一丁、手伝ってくんねぇか!」
胡麻原が、その『作戦』を岸山に話した。
話を聞き、頷いた岸山の元へホロアレスの拳が襲う。
「ちぃっ!」
構えた胡麻原の腕から、火炎放射器が出現。
炎の壁を噴き出し、ホロアレスの動きを止めた。
高温の炎を真正面から受け、全身が焼け爛れるホロアレス。
しかしその『修復』能力により、すぐさま元の肉体へ戻る。
「も一度だ、食らえ!!」
胡麻原は腕を構え、再びロケット弾を発射した。
至近距離とはいえ、一度通じなかった攻撃がもう一度通じるはずがない。
放たれたロケット弾はあっさりと『分解』され、部品同士が切り離される。
「.....!」
しかし、それこそが胡麻原の狙いだった。
ホロアレスが『分解』した信管はさらに分解され、粉状の物質へと変化する。
粉々になった信管が空中でひとりでに動き出し、ホロアレスの鼻腔を伝って内部へ侵入した。
胡麻原の放ったロケット弾に取り付けられてあったのは信管ではなく、『とある物』を固めただけの物体。
『それ』が岸山の能力によって粒子に変えられ、ホロアレスの体内に入った。
その瞬間、ホロアレスがガクッと膝をつく。
自身の体に起きた『異変』に、ホロアレスは冷や汗と共に薄らと感じ始めた。
体が、動かぬ。
指先が痺れ始め、胃の中に凄まじい違和感。
息がしづらくなり、血圧の上昇を感じる。
「『毒』かッ......!!」
「ご名答。いくらアンタでも、猛毒には無力のようだな。」
苦しみ始めるホロアレスを前に笑う胡麻原。
再出現した岸山へ、胡麻原が説明した。
「鳥兜。知ってるだろ?有名な毒草だ。」
トリカブトは全身の痺れ、嘔吐、下痢から始まり、痙攣や呼吸不全を引き起こす事もある猛毒。
それを粒子状に分解したものを、岸山がホロアレスに放ったのだ。
「が.....ぐぅ.......。」
意識が一気に薄れ、ホロアレスが昏睡。
胡麻原は拾い集めた部品で腕を組み立てながら、安堵のため息を吐いた。
『6番目の観測者』クルグラは髪を掻き上げ、目を細めて2人を睨む。
対峙するのは、結と島本。
どちらもかなり実力のある魔法使いなのだが、迂闊にクルグラへ近付く事ができなかった。
足元に張り巡らされた巨大な結界が、彼女らですら理解しきれない危険な『何か』を醸し出していたから。




