表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/96

人の苦しむ顔は好きですが

そんなアリシエールの目の前にいたのは、ライカと『煙星四天王』百合ヶ丘の2人。

どちらも肩で息を切り、アリシエールに手も足も出ない状態だった。


ヴリーブァの居た場所から、2人へと視線を戻したアリシエール。


「......あぁ、すまない。うちの観測者(バカ)共が次々とヘマをしているようでね。」


肩をすくめて軽く笑うアリシエールに対して、2人は険しい表情を浮かべていた。


沈黙を破ったのはアリシエール。


その身体が僅かに動いたのを認識する頃には、百合ヶ丘の体を一陣の風が突き抜けていた。


「ッ!!」


百合ヶ丘が先程まで存在していた場所を、青白い矢が通り抜ける。

直前に能力『欠乏する空間サクリファイス・デッドゾーン』を発動し、横方向に酸素を噴射する事で回避していなければ、今頃あの矢が百合ヶ丘の腹を貫いていただろう。


「流石に、そう何回も当てられるものではないか。」


残念そうな表情を見せるアリシエールへ、ライカが脚を踏み込んで接近した。


「はあっ!」


切り上げた剣を後ろに下がって回避し、続けて振り下ろされた剣も同じように回避。

ライカの腕へアリシエールは躊躇なく蹴りを放ち、剣でガードされた事を確認するとすぐさま右手を前に伸ばした。


「っ!」


2度の発砲音。

アリシエールの指から脚に向かって放たれた『空気の弾丸』をステップで回避。

剣で刺突を放つも、手首ごと掴まれてしまう。


そしてもう一度、発砲。


「ぐうっ.....!!」


ライカが苦痛に膝を折る。

ほぼゼロ距離での発砲を受けた脇腹の装甲に穴が開き、赤い血が漏れ出ていた。


一瞬動けなくなった隙に顔を動かし、すぐさま百合ヶ丘に狙いを付けるアリシエール。

地を蹴って瞬で詰め寄り、回避の暇さえ与えずにその腹部へと手を添えた。


「『空気砲(エアー・ランチャー)』!」


添えた手のひらから気泡が出現。

破裂するかのように拡散し、百合ヶ丘を吹き飛ばした。


寸での所で能力を発動し、酸素で内臓を包む事で内臓への致命的なら損傷は免れたが、それでも負担は大きい。


「がはっ.....」


食堂部分が傷付き、咳ともに吐血。

床に飛び散った自身の血液を見て、百合ヶ丘は心底不愉快そうな表情でアリシエールを睨んだ。


「私は人の苦しむ顔は好きですが、自分が苦しいのは大嫌いなんですよ。」

「そうか。ご希望に添えなくて、すまないな。」


全く謝る気のない返事を返したアリシエール。

百合ヶ丘の前に再び急接近し、手のひらを構えた。

アリシエールの手のひらから、気泡が生み出される。


「させませんっ.....!」


再び放たれる『空気砲エアー・ランチャー』を、ライカが許さない。

側方から蹴りを放ち、アリシエールと百合ヶ丘との距離を引き離す。


自身に照準を変更され、発射された『空気砲(エアー・ランチャー)』を剣で受け止めた。

爆発するような音と、鉄が揺れ響く音とが混じり合う。


「私はまだ、倒れていませんよ!」


刀身から腕に伝った衝撃に痺れを感じながらも、大きく脚を開いて耐える。

一発受け止めるだけで精一杯だったライカへもう一度、アリシエールは『空気砲(エアー・ランチャー)』を構えた。


もう一度正面から受ければ、間違いなく崩される。

ライカは剣を片手に持ち替え、開いた左手で魔術を発動。


「自然錬成魔術...『凪凪丘(フー・ライア)』!」


放たれた『空気砲(エアー・ランチャー)』に向かって柔らかい風が吹く。

柔らかい風は『空気砲(エアー・ランチャー)』を包み込むように衝撃を吸収し、ライカへ到達する前に相殺した。


だがアリシエールの攻撃は、これだけでは終わらない。

空気砲エアー・ランチャー』を相殺しているうちに距離を詰め、上半身を翻してライカに猛攻を仕掛ける。


ライカは一歩、また一歩と足を下げながら、舞踊の如きアリシエールの脚技を防いでいく。


「ほら、防御だけじゃ身がもたんぞ。」

「くっ.....!」


息が詰まりそうな猛攻の中、僅かに生まれた余裕を見つけて魔術を編むライカ。


「おっと。」


しかしそれを、アリシエールが見逃している筈がない。

指を構え、ライカの左手へ『空気の弾丸』を発砲。


装甲を掠め、バランスを僅かに崩した所を狙って回し蹴り。

さらにもう半回転して横蹴りを放ち、ライカを突き飛ばした。


「ああっ!!」


弧を描いて後方へ吹き飛ぶライカ。

それを追うように駆けたアリシエールが、空中のライカへ空気の弾丸を見舞うべく指を構えた。


その瞬間。


「.....!!!」


アリシエールは、ある事に気が付く。

振り向いた時には、もう遅かった。


一瞬にしてその目がぐるりと回転し、仰向けに倒れるアリシエール。

口から空気の塊を吐き出した後、彼女の身体は動きを止めた。


「ふーっ.....ふぅ。」


薄い呼吸を整えた後、百合ヶ丘がため息を吐く。


欠乏する空間サクリファイス・デッドゾーン』。

その能力は、『酸素を操る能力』。


百合ヶ丘はライカが交戦中、その背後に大きな酸素の『膜』を作っていた。

要は大気が外に漏れないよう囲っておく、大気圏のようなものを擬似的に作り出したのである。


そしてライカがアリシエールの攻撃を受け、追撃する形でアリシエールが走り。

その『膜』へ、足を踏み込んだ。


大気は見えず、聴こえず、匂わない。

そんなものがある事など気付くはずがないアリシエールは、まんまと百合ヶ丘の仕掛けた罠に嵌ったのだ。


『膜』の内部にある空気から、全ての酸素を取り除く。

酸素が無い空間は、たった数回の呼吸で失神・昏睡に陥ってしまう恐ろしい場所。


絶大な身体能力を誇る『観測者』にも関わらず、アリシエールは負け惜しみを言う暇も無く失神させられたのだ。


「私を怒らせたのが悪いんですよ....本当は、もう少し苦しむ顔が見たかったんですけどね。」


百合ヶ丘はそう言って不満げな表情を見せた後、力が抜けたようにその場へ座り込んだ。

『9番目の観測者』アリシエール。

酸素の欠乏により、敗北!






「はぁ、はぁ、はぁ......。」


眩しいほど輝く光の階段を、チミーは駆け上がっていく。

みんなが下で戦っている間に、何とかして『星の管理者』と決着をつけなければならない。

そんな思いを抱え、ただ一心に階段を登っていた。


凄まじい速度で駆け上がったチミーはようやく『地面』に到達する。

しかしまだ上があるようで、遠くに薄らと光の階段が見えた。


あそこへ行けばいいのか。


再び足を踏み込んだチミーへ、一人の『観測者』が立ち塞がる。

ライカを暴走させ、ヴァルグリーズを起動した『コインの女』だ。

清潔な深緑の軍服が、隙の無さを表している。


「『観測者』.....!!」


力を抜いて余裕の様子を見せる『観測者』に対し、チミーは警戒心を張り詰めて自然と構えを取っていた。


「そういや、君と私は面識なかったんだっけ。」

「アンタ、私を知ってるの?」

「そりゃあ、当然。」


『観測者』はコインを弾き、空中で掴む。


「あの未熟な騎士ちゃんとも、再生する巨大ロボットとも、戦ってたでしょ?」


『観測者』が放ったその言葉に、チミーはようやく事を理解した。

ゴーグルで目の様子は見えないが、怒っているのが十分に分かる。


「アンタが、ライカをあんな風にしたってワケね。」

「そ。あの子もロボットも、同じ『暴走の宝珠』による力を浴びたの。まぁ、前者は複製品レプリカだったけどね。」

「────ッ!!!」


のんびりと話す『観測者』へ、チミーが仕掛けた。

しかし音速で放った拳は、『観測者』の手によって柔らかく受け止められる。


「まぁまぁ、そう焦んないでよ。」


チミーの拳を受け止めた手のひらをぐるりと回転させた『観測者』。

次の瞬間、チミーはそこに莫大なエネルギーを『視た』。


─────ッ!!!


轟轟。

衝撃が走り、空気がチミーを殴り付ける。


先ほど放った拳と同等の威力を返され、チミーは後方へ吹き飛んだ。

『観測者』はチミーの拳を受け止めた姿勢のまま、フッと軽い笑みを浮かべている。


「ざーんねん。私に攻撃は、一切通じないんだ。」


『観測者』はそう言うと、手のひらにボール大の球体を出現させた。

それを見たチミーの表情が、動揺へと変化する。


それもそのはず。


彼女が手に持っていたのは『宝珠』だったのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ