見えたぜ、お前の弱点
地面を削りながら後方への慣性を止めたディーンが、困り顔で上を見上げた。
「なんだありゃあ....」
視線の先にあったのは、同じ生物か疑いたくなるほどの巨体を持った『観測者』。
『10番目の観測者』ヴリーブァは、10メートル近いその巨体を駆使して甚大な被害をもたらしていた。
歩くだけで地震を引き起こし、その腕の一薙ぎは突風と共に地面を削る。
ディーンの攻撃も、全く効いている様子は無い。
どころか、攻撃を受ければ受けるほど......
「体が、大きくなってねぇか.....?」
そう。
ヴリーブァの体は巨大化していくばかりだった。
「さあて、ボーナスタイムだ。30秒間、じっとしておいてやろう。でも、君達に私を倒すことは不可能なんだよね。」
そう言ったヴリーブァは仁王立ちの姿勢を取り、動かなくなった。
しかし無数の銃弾を浴びようとも、魔術の力を正面から受けようとも、ビクともしない。
それどころか、さらにヴリーブァの体は肥大していく。
巨大化していく影に覆われ、兵士達は恐れをなすように足を引き始めた。
ディーンの連撃も効いている様子は無く、むしろ奴の力になっているようにも見える。
巨体が揺れ動き、ヴリーブァがあくびと共に呟いた。
「さて、そろそろ反撃するかな。」
覇気のない声でそう言ったヴリーブァが、息を大きく吸いこむ。
嫌な予感の走った兵士が「伏せろ!」と叫んだが、遅かった。
ヴリーブァの全身から熱波のようなものが走る。
空を裂き、地を削って突進する熱波を受けた兵士達は為す術なく宙を舞った。
ディーンも腕を構えてガードしたものの、腕の前面が焼けて爛れてしまう。
顔を歪めて痛みに耐えるディーンは、目の前の巨人に対抗する術を考えるが、思い付かない。
物理攻撃から魔法、超能力まで全て無効化...いや、カウンターの熱波を出した際に、奴の膨らんだ肉体が少しだけ萎んだだのを見る辺り、『吸収』したのだろう。
あらゆるものを吸収し、自身の力に変換して返す。
確かに、攻略するのは一見、不可能だろうな。
だが『管理者』という上の存在がいる以上、無敵では無いはず。
攻略法は、必ずある!
ヴリーブァが動いた。
足を振り上げ、地面を蹴り砕く。
まるで道端にある石ころのように、兵士達が吹き飛んでいった。
正面に飛んできた兵士を受け止めたディーンは、続けて構えているヴリーブァの拳を止めるべく、膝を曲げて垂直に飛ぶ。
「うおおっ!!」
炎を纏い、更に加速。
ヴリーブァの目線の高さまで飛翔した彼は1回転した後、拳に炎を集めた。
「!」
気付いたヴリーブァは狙いを地面からディーンへと変更するが、関係ない。
ヴリーブァの顔面を狙って、ディーンが拳を突き出した。
「『炎熱拳』ッ!!」
突き出した拳から射出される形で、纏っていた炎がヴリーブァに向かって飛び出す。
飛び出した炎は形を変え、巨大な炎の拳と化してヴリーブァの顔面を襲った。
「ぬっ!」
ヴリーブァは咄嗟に手で目を覆い、炎を防いだ。
炎は手に吸収され、ヴリーブァの体がさらに巨大化する。
「墳ッ!!」
ヴリーブァは目を覆った手をそのままディーンに向けて払い、空中に居たディーンを弾き飛ばした。
彗星の如き勢いで地に落ちたディーンは、半分削れた頭部を再生させつつ立ち上がる。
その顔は、苦痛の中に笑みを孕んでいた。
「見えたぜ、お前の弱点......!!」
ディーンは確信を込めてそう呟いた後、再び飛翔。
先ほどヴリーブァは、ディーンの炎熱拳を手で吸収した。
.....目を庇って。
全身が吸収できる仕様なら、わざわざ目を庇う必要は無いはず。
そこが弱点だ。
ディーンの勘は、そう告げていた。
「そぉら、もう一丁ォ!!」
上昇しながら回転し、再び炎熱拳を放つ。
ディーンの拳から射出された炎熱拳はヴリーブァの手に衝突し、炎が拡散する。
拡散した炎で手元が見えなくなったヴリーブァの指の間をすり抜け、再び目の高さまで到達。
「食らえもう一発!『炎熱拳』ッ!!」
空中で振りかぶり、炎熱拳を放った。
炎熱拳はヴリーブァの目に向かって、一直線に走っていく。
が、しかし。
「お前が私の目を狙っている事など、既に分かっている!」
既に用意されていた反対側の手で、ヴリーブァは炎熱拳を防いだ。
巨大な手で目を覆い、炎熱拳を吸収する。
しかし、それこそがディーンの狙いだった。
「どりゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
何度も何度も、炎熱拳を覆った手にぶつけていく。
ヴリーブァは手でディーンを払おうとするが、もう片方の手で目を守っているためディーンがどこにいるのか認識する事ができない。
闇雲に振り回すヴリーブァの手を必死で避けつつ、ひたすらに炎熱拳を放ち続ける。
「血迷ったか!攻撃を当て続ければ、いずれ手を離すとでも?それでは、私の体を大きくさせていくばかりだぞ!」
「いいや、それが目的さ。」
ヴリーブァの言葉に、ディーンが笑みを浮かべてそう返した。
10メートルほどの高さだったヴリーブァの体は次第に雲を突き抜け、なおも巨大化を続けていく。
雲海が膝下に来るぐらいの高さまで膨れ上がったヴリーブァが、ようやくその真意に気付いた。
「はぁ、はぁ.......!!」
息が、しづらい。
高積雲を突き抜けた、さらにその先。
数千メートルなど軽く越えているその高さでは、非常に空気が薄いのだ。
加えてヴリーブァはその巨体ゆえに、必要な酸素量も多い。
さらに付け加えると、ディーンの放つ炎熱拳が大気中の僅かに残る酸素さえ燃やしているのだ。
ここまで巨大化した肉体で戦うのは、いくらヴリーブァとはいえ危険すぎる。
「舐めるなよ.....人間がッ!!」
ヴリーブァは目が燃やされる事を覚悟して覆っていた手を除け、大きく構えた。
その全身から、蒸気が噴き出している。
軽く息を吸った後、ヴリーブァは『技』を発動した。
「覇ッ!!」
瞬間、ヴリーブァの全身から爆発するように熱波が発生。
雲を超えるほど吸い込んだエネルギーを熱に変換し、一気に放出したのだ。
その熱量は凄まじく、音を越えた熱波が空間さえも焼き切る。
熱波が直撃したディーンは、一瞬にして消し炭と化した。
それほどのエネルギーを放出したヴリーブァの肉体は、ガスの抜けた風船のように一気に縮みはじめる。
雲を通り、5メートルほどの大きさまで収縮した。
その時、ヴリーブァは自身の体に起きた『違和感』に気が付いてしまう。
「まさか.....」
ヴリーブァは自身の体を見て、青ざめた表情を見せる。
そして次の瞬間。
何かが弾け飛ぶ音と共に、ヴリーブァの腹部が破裂した。
巨大な穴が開き、とめどなく流れる血液に混じって、ヴリーブァの体内からディーンが現れる。
ディーンは、ヴリーブァの体内に潜伏していたのだ。
遥か上空まで巨大化したヴリーブァの鼻腔へ、ディーンは自身の頭部を切断して体内へ投入。
空気が薄くなり、呼吸が荒くなったヴリーブァがディーンの頭部を吸い込むのは一瞬だった。
そうしてヴリーブァが熱波を放ち、溜まっていたエネルギーを放出。
体が小さくなった所で、体内に入っていた頭部だけのディーンは体を再生させたのだ。
「か....はっ.......。」
腹部に大きな穴が開いたヴリーブァは白目を剥き、更に体が萎んでいく。
腹部に穴が開くほどの重傷を治療するために莫大なエネルギーが投入され、ヴリーブァの体は野ねずみ程の大きさにまで萎んでしまった。
一応息はあるようだが、この大きさでは何もできるはずがない。
ふぅと一息ついて汗を拭ったディーンは、ヴリーブァを瓶に詰めて蓋をした。
「だせ!コノヤロー!」
大地を削るほどの力を持っていたヴリーブァは今や、小さなガラスの瓶を割る事さえできなくなってしまった。
「ヴリーブァ.....」
少し離れた場所。
バラボンドと共に地上に降り立っていた『9番目の観測者』、青いポニーテールにつり目が特徴のアリシエールは、空高くまで巨大化していたヴリーブァが一気に小さくなったのを見て彼の敗北を察する。
「これで、6人目。12人の『観測者』のうち、半分が敗北するとは。」
指を折ることで敗れた『観測者』の数を確認したアリシエールは、ため息を吐く。
その直後、舌打ちと共に苛立ちの込もった独り言を呟いた。
「.....使えない奴らめ。」




