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俺、『無敵』だから。

消し去るもの(デリーター)』。二坂 吾郎の持つ、『あらゆるものを消すことができる能力』。

超能力そのものや肉体など例外を除いてあらゆるものを文字通り『消す』事ができる。


「"時間"を...『消した』だと.....」

「テメーが『停止』させた間の"時間"をな。つまり、()()()()()()って事さ。」


絶句するべレムスを前に、二坂が口の端を持ち上げて笑う。


「勝ちを確信して油断したな?もう少し慎重になっていればチャンスはあったかもしれねぇが、もう遅い。」

「......てめぇ!」


飛び出したべレムスの顔面に、瞬間移動の如く速い二坂の拳がめり込んだ。

頬骨が砕け、べレムスがその場で崩れ落ちる。


白目を剥いて気絶したべレムスを見下ろしながら、二坂が静かに口を開いた。


「悪いが俺は一度しか、負けた事がねぇんだ。」






下風は、ビィーリによってかなりの消耗を強いられていた。


「どりゃあッ!!!」


ビィーリの振り回すかめを回避し、その顔面に蹴りを放つ。

しかし顔面に触れた箇所から脚が凍りはじめ、振り上げた瓶によって右脚の膝から下が砕け散った。


「くっ.....!」


足元を流れる水に膝を浸し、水を吸って脚を再生する下風。

同じ『水使い』とはいえ、ここまで相性差が生まれるとは。

追撃を仕掛けるビィーリの猛攻に、下風はただ避け続けるしか無かった。


こいつは『観測者』。

過剰損耗(オーバーヒート)』を狙えるような奴じゃない。

そして『水』というものは汎用性に優れ、弱点が少ない代物。

そんな事、水を操る能力者である下風が一番よく分かっていた。


「!」


考えている間に、ビィーリが瓶から津波を放っていた事に気付かなかった。

気付いた頃には、津波が目の前まで迫り来ている。


避ける暇もなく、津波が直撃。


しかし次の瞬間。

津波が縦に割れた。


「お困りみてぇだな、手助けが必要か?」


津波を2つに割いたのは、太く巨大な大剣。

それを握っていたのはリーゼント頭が特徴的な『煙星四天王』の一人.....龍業寺だった。


龍業寺の登場に、ビィーリが少し感心したような顔を見せる。


「ほう。俺の2メートル級津波を切り裂くとは。ヤソグラほどじゃあないが、相当の剣士と見受ける。」

「そりゃとんだ見当違いだな。アンタの目の前にいんのは、最強の剣士だ。」


切っ先に滴る水を払って剣を肩に担いだ龍業寺が、ビィーリを挑発。

水瓶から水を撒き、波に乗ったビィーリは一気に距離を詰めた。


「速えっ!」


ビィーリの振り下ろした水瓶を剣で受け止め、切り返しの一撃を放つ。

素早い動きで回避したビィーリが、足下を流れる水に手を添えると、一気に足下が氷漬けと化した。


「なにっ!?動けねぇ!」


足を氷に取られた龍業寺へ、ビィーリはさらなる追撃を行う。

指を拳銃のように構え、龍業寺へ能力を放った。


「『水鉄砲』!」


ビィーリの指から弾丸のように放たれる水の塊。

龍業寺はそれを剣で弾いたが、弾丸の性質は水だ。

剣によって弾けた水は、刀身を伝って龍業寺の手を濡らす。


龍業寺が察した時には、ビィーリは能力を発動していた。


「凍れ!」


瞬間、龍業寺の手に纏わりついていた水が一斉に凍る。

凍って動かなくなった龍業寺の手から、剣が滑り落ちてしまった。


「何っ!?」

「終わりだッ!!」


足と手を氷で封じられた龍業寺に、波で加速したビィーリの水瓶が襲いかかる。

しかし、水瓶が龍業寺の頭へと放たれるその直前。


龍業寺が、微かに笑った。


「なーんて、な。」


龍業寺の放った右ストレートが、水瓶を砕きつつビィーリの顔面に叩き込まれる。


勢いよく加速して向かってきていたビィーリの顔面に、反対方向へ拳を放ったのだ。

要は投げられた野球ボールをバットで打ち返すのと同じく、そこには巨大なエネルギーが発生する。


「なッ...何故、だ.....。」


顎に強烈な一撃を受け、気絶寸前のビィーリ。

足も手も封じたはず。

なのになぜ、構えて、拳を放つ事ができたのか。


答えは至って単純だ。

龍業寺は倒れているビィーリの顔面を覗き込み、親指で自身を指しながら満面の笑みを作る。


「俺、『無敵』だから。」


龍業寺の能力『向かうところ敵なし(クレイジー・ガイ)』。

その能力はシンプルにして最強の、『無敵化』である。


こうしてヴァズ、ヤソグラ、べレムス、ビィーリの計4名の『観測者』が戦闘不能になった。

『観測者』は合計12人。

残りは、8名だ。






少しずつ『観測者』が戦闘不能になっていく中で、『2番目の観測者』バラボンドは人類側に甚大な被害をもたらし、猛威を振るっていた。


兵士達は地面にひれ伏したまま動くことを許されず、次第に全身から痛みが発生する。

そんな状況の中で、自在に動ける者が一人だけ存在していた。


影の手(シャドウ・ハンズ)』景野である。


兵士達の影を伝って移動し、バラボンドに接近。

生成した影の手で、地面が砕けるほどの連撃を放つ。


ステップで回避したバラボンドに追撃すべく、影の手を足のように動かして駆けた。


「これならどうだっ.....!」


直前で足を踏み込んで跳躍し、影の手を合体。

一つの巨大な影の手で、バラボンドを狙った。


「馬鹿だねぇ、君は。」


バラボンドが手を景野に向け、能力を発動する。

放たれたバラボンドの拳が、景野の顔面に突き刺さった。


「なっ.....!?」


思い切りカウンターを受けてしまった景野は、慣性に従って後方へ吹き飛んでしまう。

景野の肉体は実態のない『影』そのもの。

通常の拳では、効かないはず。


「『ブラックホール』ってのは、光さえ逃げられないほどの重力で引っ張るから黒いんだ。光のない所に、影は生まれない。」


バラボンドは拳に小さな『ブラックホール』を作り出す事で、僅かな時間だけ光を消した。

バラボンドの言った通り、光無き場所に影は作れない。


よって景野の放った影の拳は消滅し、影の肉体は実体へ戻ってしまったのだ。

土煙を払いながら、景野は苦笑を浮かべつつバラボンドを睨む。


「重力が効かないって点で見れば有利だと思ったが.....実際は真逆だった、ってワケだ。」

「理解してる割には、必死そうに見えないね。」

「戦いにおいて、ビビった方が負けるのは定石だろ?」


そう言って景野は再び影に潜り込んだ。

影を伝って接近し、浮上。

影の手を何本も生成し、様々な角度からバラボンドを狙った。


「ははは、だから無駄だってぇ。」


バラボンドは大きく振りかぶった後、右手を前に突き出す。

手のひらに黒い渦が生成され、それは目の前にある全てを吸い込み始めた。

勿論、『光』も例外なくだ。


「『ブラックホール』が拳大の大きさしか作れないと思ったか?どれだけの量で攻めて来ようとも、吸い込めるだけのものだって作れるんだよん。」


バラボンドのブラックホールによって光が吸い込まれ、一本、また一本と影の手が消滅していく。

そして重力は当然、物だって吸い込める。


能力が解除され、このブラックホールに吸い寄せられた景野を仕留めて終わらせる。

影ではない『何か』が暗闇の中で見えたバラボンドは、重力を込めた拳を突き出した。


圧倒的な『重さ』に潰れる音。


しかしその反応は、景野のものではなかった。

凄まじい重力によって潰れたそれは、ただの鉄の兜だった。


「もう一度言ってみろよ?『無駄だ』って。」

「.....!?」


背後から景野の声が聞こえ、バラボンドが振り返るべく首を捻る。

しかし、振り返る事ができなかった。


どころか、全身が動かない。

突き出した拳も、捻った首も。


バラボンドと背中合わせになる形で立っていた景野が、僅かな笑みと共にタネ明かしをした。


「...『影縫い』!お前の影を『固定』させてもらった。光をも吸い込む重力使いとはいえ、全ての範囲は吸い込めなかったみたいだな。」


全ての光を吸い込んでしまえば、バラボンド自体も視覚を認識できなくなる。

だから僅かに、見えるだけの光を残す必要がある。


そのほんの僅かな隙間へ、景野は滑り込んだのだ。

無理な姿勢のまま『固定』されたバラボンドは苦痛に顔を歪めながら、残っている疑問を問いかける。


「お前は...正面にいたはず......じゃ。」


光を吸い込む直前まで、バラボンドは景野が正面から向かってきていたことを確認していた。

それが景野の仕掛けた簡単な『罠』だとは気付かずに。


「あぁ、そりゃあ影で作り出した俺の分身だ。本物そっくりだったろ?練習したんだぜ。」

「きっ、貴様ァ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

「大人しく、寝てやがれェッ!!」


痛みと屈辱に歪んだバラボンドの顔面に、何本にも生成した影の拳による連撃を放ち、バラボンドが気絶する。


「俺を倒した奴は『星の管理者』に迫る人物なんでね。『観測者』ごときに負けてらんねぇんだ。」


戦闘不能に陥ったバラボンドにそう言い残し、景野は自身の影へ沈んだ。

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