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何言ってるか分かんねーよ

シスニルの尋常ではない把握能力は、何も人や物だけに限った話ではない。

彼は空気中を流れる風を察知し、その動きと寸分違わない動作で移動する事ができるのだ。


『差し足』。


いわば、風と同化している状態。

死角を突かれ、櫛状板も風しか認識しない状態のヤソグラに、シスニルが負けるはず無かった。


ヤソグラの背中を取ったシスニルが、初めて風の流れに逆らって動く。

剣を構え、深く腰を落とした。


「.....『胆魂斬(ファルモメット)』!!」


そして一閃。

魂を斬る剣技『胆魂斬(ファルモメット)』を食らったヤソグラは、白目を剥いて膝から崩れ落ちる。

しかし、膝から崩れ落ちたのはシスニルも同様だった。


「!」


脇腹の装甲が削られ、赤黒い血が流れている。

シスニルが『胆魂斬(ファルモメット)』を放つ直前、一瞬だけ風の流れに逆らったその時。


ヤソグラは超高速で反応し、シスニルに一撃を加えたのだ。


「やられっぱなしは剣士のプライドが許さない、ってか.....。貴方は、強かったよ。」


騎士達に介抱されながら、シスニルは最後まで敗北を認めずに痛み分けへと持ち込んだヤソグラへ、剣を置いて敬意を評した。







一方。

『12番目の観測者』べレムスと二坂とが、天災の如き激しい戦闘を行っていた。

べレムスの周囲から噴き出した溶岩を、二坂の『消し去るもの(デリーター)』による温度の『消去』で冷やし、叩き砕く。


崩れていく岩の間を縫ってべレムスへと急接近し、近接戦(インファイト)に持ち込んだ。


「らァッ!!」


二坂の拳には『消し去るもの(デリーター)』によって『反発力』を消す力が備わっている。

例え人間離れした力を持つ『観測者』であろうとも、一撃でも喰らってしまえば重傷を負うほどの能力だ。


べレムスも二坂の拳に危険を感じたようで、受け止めずに回避を選択。

続けて放たれた回転蹴りも避け、カウンターとして顔面に蹴りを放った。


「ちっ.....!」

「お前、なかなかヤバそうな能力持ってるな。...けど、俺には勝てねぇ!」


一撃でも喰らえば重傷に陥るのはべレムスの攻撃も同じ。

先ほどの戦闘で見破られた通り、二坂は『低温』に弱いのだ。


真っ直ぐな蹴りを受けてしまった頬が凍り付き、氷は首元まで広がる。


「テメェ......!!」


頬から広がった氷で、二坂の左目が遮られる。

認識できなくなった左側から、べレムスの攻撃が容赦無く放たれていく。

次々と放たれる攻撃は、下手にガードすれば凍ってしまう。


ひたすら、避け続けるしか無いのだ。


「そぉら、避けられるか?」


べレムスは連撃を止めると、右足を大きく踏み込む。

踏み込んだ足を中心として、周囲の地面が一斉に凍り始めた。

地面からは冷気が立ち上り始め、二坂の足元をも凍らせていく。


凍った地面の上でバランスを取ることは、非常に難しい。


「やべっ....」


二坂が動くよりも前に、べレムスが仕掛けた。

べレムスが放った裏拳を避けた所に足払いを放たれ、仰向けの状態で一瞬宙に浮く。


「どらァ!!」」


その状態を待っていたかのように構えられていた脚から踵落としが振り下ろされ、二坂の体は地面に叩き付けられる。

氷と土とが混ざりつつ爆砕し、四方八方に破片が飛び散った。


「今のは効いただろ?自己評価は割と、高い方なんだけど。」


べレムスが首の音を鳴らしながら、足下で倒れている二坂の脇腹を蹴飛ばす。

2度、3度地面に打ち付けられ、数メートルの距離を転がった。

転がった際に弾き飛ばされた土や泥には、真っ赤な血がこびり付いている。


立ち上がろうと腕を地面に立てるも、氷の地面じゃ上手く立ち上がれない。

背中は氷で覆われており、上体を起こすだけでも激痛が走る。


痛みに耐え、歯を食いしばりながらなんとか身体を起こした二坂。

そんな彼にトドメを刺すべく、目の前にべレムスが接近した。


が、しかし。

べレムスの放った蹴りは、二坂に当たらない。

二坂の前へ現れた1人の影が、彼の攻撃を片手で受け止めたのだ。


「ったく......俺様を倒したくせに、そのザマとは情けねぇな?」


現れたのは『煙星四天王』が一人、『強者の鎧(ストロング・アーマー)』弓浜。

彼は『全ての影響を0にする』手甲によってべレムスの攻撃を弾き、鎧を変形させて光線を放った。


「おわっ!」


べレムスが慌てて回避した光線は氷の地面にぶつかると、一瞬でその氷を蒸発させた。

凄まじい熱量である。


「へえ、お前も危なそうだな。」

「おお!察しが良くて助かる。そのまま降参してくれるとありがたいんだが...」


冗談で返しつつ、べレムスの蹴りを避けた弓浜。

続けて繰り出されたアッパーを腕でガードし、その腕を軸に身体を半回転させて裏拳を放つ。


べレムスも腕を立てて裏拳を受け止め、弓浜の兜に向かって頭突きを放った。

しかし、弓浜の兜は超硬度を持っている。

頭突きを放ったべレムスが、逆に怪我をしていた。


「なぁっ!?いってえよ〜〜〜〜っ!!」


しばらく地面をのたうち回ったべレムスだが、すぐさま起き上がると二人を睨みつける。

そしてそのまま、べレムスの姿が消滅した。


その直後、再出現する。

一瞬で背後に出現し、まともに拳を食らってしまった二坂。


そして、ほぼ同時に弓浜もよろめいていた事に気づく。


「2人を同時に攻撃した、だと。」

「ち....見えなかった、全く!」


べレムスの瞬間移動のような奇妙な術に焦る2人を、べレムスは嘲笑うように笑みを作った。

そして再び、消える。


「どこだ....どこに消えやがった!」


探すよりも早く、消えた直後に拳を受ける二坂。

気配の一つも感じなかった。


再び出現したべレムスが、タネ明かしを披露する。

左の(てのひ)を広げる。

(てのひら)の上にある空気が次々と凝結し、氷を形成し始めた。

周囲の空間がどんどん凍り、まるで透明なケースを無から作り出したかのように固まっていく。


「俺の能力は『温度』を操る能力。岩石を沸騰させ、大気を凝結させる事なんてのは、お遊びに過ぎねぇ。」

「あァ?」

「"熱"というのは分子の振動によって引き起こされるもの。温度を操るという事は、分子の動きを操るという事だ。」

「何言ってるか分かんねーよ、バカ。」


ベレムスの説明に、いまいち理解ができていない二坂。

そんな彼を鼻で笑ったべレムスは、唐突に弓浜へ手を向けた。

その瞬間、弓浜の動きが停止する。


足を止めたなどの次元では無く、眼球、拍動に至るまでの全身が完全なる"停止"をしていた。

まるで、時間を止めたかのように。


「分子ってのはこの世のあらゆる物質、物体、さまざまなものを構成しているモノだ。生物はもちろん、空気にさえ分子がある。」


そしてべレムスは、そんな分子を操り温度を変化させる能力者。


「分子を凍らせることでこの世の全ての活動を停止させる.....要は『時間停止』が可能ってワケよ!!」


『時間停止』。

単純にして、最強の能力。

一度発動してしまえばどんな強力な能力を持つ者だろうと抗う術のない、無敵の能力だ。


ベレムスは『時間停止』の説明を終え、高笑いを上げる。

その後、鋭い目つきに戻り、死の宣告をするが如く小さな言葉で能力を発動した。


「終わりだ。.....『時をも凍る零度(アプサリュート・ヌイ)』。」


地面が、大気が、音が、凍結する。

二坂の動きも止まり、ベレムスを除く周囲の時間は完全に"停止"してしまった。


『時間』は誰にも抗えない究極の概念。

それを操るベレムスこそ、最強の『観測者』なのだ。


「やっぱ、俺に勝てる奴って『管理者』様くらいしかいねーんだな。」


勝利を確信したベレムスが足を踏み込み、固まっている二坂の元へ接近。

腕を振りかぶった後、その顔面に.....


「がぁっ!?」


ベレムスの頬に、二坂の放った掌底が食い込んだ。

ベレムスは慣性に従って真横へと吹き飛び、何度も地面に打ち付けられたのちに停止する。


ようやく持ち上がったベレムスの顔は、驚愕の色で染まっていた。

時間を『停止』させたはずなのに。


そんな無様なベレムスの姿を見て、平然と"活動"している二坂が大笑いする。


「いいねぇ、その間抜けヅラ!『俺に勝てる奴って管理者サマしかいねーんだな』とかドヤ顔で言っておきながら殴られるの、滑稽なぁ?」


先ほどのべレムスを真似しつつ腹を抱えて大笑いの二坂。

立ち上がろうとしたべレムスを蹴飛ばし、その顔面を容赦無く踏みつけた。


そして、べレムスの時間停止を破った"種"を明かす。


「『消した』んだよ。『時間』をな!!」

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