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兵士になるのは、俺達だけでいい

「星を...消す.....。」


あまりにも壮大で、想像もつかないような話。

ユウリの口から出る言葉一つ一つに、一同は唖然としていた。


「ギルガンの侵略は一気に来るわけじゃない。少しずつ、確実に侵食していく。そんな苦しみを人類が何十年も味わうくらいなら、いっそここで消してしまった方がマシだろうと『管理者』は考えたんだよ。」


解決策を思い付く力は無いが、やはり納得がいかない。

そう感じていたユウリは勿論、反対した。


しかし、具体的な代案を用意できない者の言葉など相手にもされるはずがない。

そうしてユウリは『管理者』と戦い、敗北。


記憶を改変され、『一般人』として地上に落とされていたのだ。


「この間.....あの大型ロボットをけしかけた張本人が、『観測者』の一人だったんだ。彼女を見て、自分が『観測者』だった事を全て思い出してしまったんだよ。」


ユウリが耳を垂れて悲しげにそう言っていると、歩み寄ったチミーがユウリの肩を掴む。

俯いていた顔を覗き込み、優しく、しかしハッキリとした口調で言った。


「大丈夫。『蠱毒の呪い』は完成したし、私が何とかしてみせる。」

「でも......」

「『まだ足りない』。だろう?」


言いかけたユウリを遮る形で、酒城が会話に割り込んだ。


『まだ足りない』...?

表情一つ動かさずにユウリの話を聞いていたチミーが、何か聞きたげな様子で酒城の方を振り向く。


「だが、大丈夫だ。その『管理者』とやらは、俺が何とかする。」


突然割り込んだ酒城の存在にユウリが首を傾げる。

初対面だ、無理もない。


酒城は自身の自己紹介と共に、先程の言葉の意味を語った。


「俺は酒城 扇輝。『未来の消滅』とやらを防ぐためのもう1つの計画に加担している者だ。」

「もう1つの計画...?」


酒城が口に出した言葉に、ユウリが反応を示す。

可能性は、あればあるほど良い。


ユウリの興味に応えるべく、酒城がもう一つの計画.....『宝珠を一人の人間に集めること』について彼女に説明した。


酒城が以前チミーに言っていた、『器』の話だ。

『蠱毒の呪い』で解決しようとしていた島本に対し、『神の目(ゴッド・アイ)』達が考えていた、『未来の消滅』を防ぐ計画。

その話を聞いたユウリは、感心したように何度も頷いた。


「なるほど、『宝珠』を一人の人間に......考えもしなかったけど、君にそれができるの?」

「まだ分からない。だが、やるしかないだろう。」


できなければ、『消滅』が訪れるだけ。

酒城は真剣な表情を向け、ユウリの問いに堂々とそう言葉を返した。


「それに、俺の能力は普通と少し違うんだ。」


続けて自身の『器』としての才能を裏付ける根拠を、酒城は語る。


「俺の能力『嗤う革命者(カオス・クーデター)は『相手の能力を奪う』能力。奪った能力は返さない限りストックでき、それによって奪った能力は現在、11個ある。」


嗤う革命者(カオス・クーデター)』そのものと合わせると、酒城は12の能力を保有しているというわけだ。

その言葉に、納得いった様子のユウリが手を叩く。


「それだけの能力を扱える容量があれば、『宝珠』も複数持てる可能性が高い!って事だね?」

「そういう事だ。巻き込まれただけの染口さんが、大役を一人で背負い込む必要は無い。」


酒城の言葉に頷いていたユウリは、ハッと思い出したように口を開いた。

一番大事なことを、言い忘れていたのである。


「そうだ。『消滅』は『星の管理者』と7人の『観測者』、あと数名の部下達と、その兵隊達によって行われるの。猶予は.....あと、7日。」


残りたった一週間で、このままでは世界が滅亡してしまうかもしれない。

時間が無いのは分かっていたが、そんなにすぐだったとは。

突然の事に、一同は言葉を失っていた。


ユウリはさらに詳しい情報を付け加える。


「6日目に空から『星の管理者』達が地上に限界して、その翌日に『消滅』が実行される。」

「てことは、6日目に現れた時に仕留める必要がある、って事ね。」


チミーの言葉に、ユウリが頷く。


たった6日。

あまりにも壮大で、想像もできない審判の日。

そんな日が、もう目の前にまで迫っているという。


「すぐに各所に連絡して、戦力を集めよう。できるだけ多く。」


静寂を破るように、下風が言った。

その言葉に、ようやく今の状況を飲み込む事ができた皆が顔を上げる。

一刻も早く、戦力になる人を探さなければと。


「4日後に一度、集合しよう。人類最後の作戦を立てる...!」


神の目(ゴッド・アイ)』が、そう宣言した。








廊下を蹴るスニーカーの音。

教室の前で集まって談笑する声。

柳渡と戦った翌日、チミーは学校へと登校していた。


その足取りは、少し重い。


あと6日で、世界が『消滅』してしまう。

そんな事など知るはずもない生徒達の平和そうな団欒の間をくぐり抜け、小さなため息と共に教室の扉を開ける。


「あ、おはよー!」


黒板の近くに立っていた星羽が、教室へ入ってきたチミーの姿を見つけて声をかけた。

あまり元気のない笑顔で反応したチミーを見て、星羽が心配そうにチミーへと駆け寄る。


「.....元気ないね?」

「おはよう、私は...大丈夫だよ。」


チミーの様子を瞬時に察した星羽の言葉に、一瞬ぎくりとしながらも言葉を返す。

ゴーグルで目線は見えないはずなのに、相変わらずよく様子を見ているな。


「そう?何か手伝える事があったら、教えてね。」


星羽はチミーの返事を聞いて何かを察したのか、あまり深入りするつもりは無いみたいだ。

気を利かせた星羽の言葉に感謝しつつ、チミーは残り少ない学校生活を楽しむ事にした。





放課後。

チミーはすぐさま鞄を背負って席を立ち、教室を出る。

すれ違う知り合いに挨拶を交わしながら、廊下を歩いていった。


やっぱり、皆は巻き込めない。


下風は「できる限り戦力が必要」と言っていたし、能力者が集められている以上、この学校には戦闘能力の高い生徒が多い事も分かっている。


だが、たとえ世界の命運を左右する戦いであろうと、チミーには皆を戦いの渦に巻き込む判断は出来なかった。

桜や柳渡、そして宝珠争奪戦の参加者達などの『死』を間近で見てきたからこそ、皆が同じようになってしまう事を恐れているのである。


同じく学校に通っている酒城も、先ほど少し会話したところ同様の意見だった様子。


「世界の命運がかかってるっていうのにそんな事を考えるのは、勝手な判断だとは分かっているんだけど.....」

「兵士になるのは、俺達だけでいい。」


チミーの自信なさげな意見を、酒城はきっちりした言葉で肯定した。

彼との会話を思い出しつつ、チミーは校舎の壁に沿って校舎の裏側へと回る。


酒城との会話を行った際に、彼からある『お使い』を頼まれていたのだ。


「えっと...」


チミーは携帯端末を取り出し、メモを起動する。

酒城から言われた情報を記したメモを頼りに、チミーは芝生の生えた校舎の裏を散策し始めた。


「右から2番目の窓.....」


校舎裏側を曲がってすぐの、右から2番目の窓。

そこから真っ直ぐ歩いて8歩進み、30度左に曲がって12歩。


辿り着いた芝生にチミーは屈み込み、芝に軽く触れた。


「あっ、これか。」


一見すると何も無いように見えるその芝生。

しかし、よく見るとそこだけは芝生と異なる物で構成されていた。

周囲に誰もいない事を確認し、チミーは再び地面に手をかざす。


永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を発動し、ソナーのように周囲のエネルギーを探知。

そこでほとんど地面に埋もれている、小さな取っ手がある事に気付いた。


穴でも掘らない限り持つことができないほど深く埋まってしまっている取っ手。

手が汚れそうで嫌なので、チミーは能力を駆使して遠隔で開けた。


金属が軋む音と、重い物が引きずられる音。

そんな厳かな音と共に開いた場所を覗き込むと、開いた小さなスペースにアナログタイプのキーボードがはめ込まれていた。


チミーはスリープ状態になっていた携帯端末を再び起動し、メモに記されていた24桁のパスワードを入力する。


0〜9の数字と、アルファベット大文字小文字の組み合わせだ。


たった10桁のパスワードでも、クラッキングによるパスワード解析は半年以上もかかると言われている。

これを24桁にしているのだから、相当厳重な保管方法だ。


「こんなものを保管してあるなら、そりゃこのぐらい厳しくないとね。」


頼まれていた代物の正体とは、『宝珠』である。

博物館に『昇華の宝珠』を、そしてこの学校の地下に、もう一つの『宝珠』を保管してあったのだ。

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