『呪い』は私が貰った
衝撃波による振動が去り、部屋内は静寂に包まれる。
柳渡が、死亡した。
皆が呆然と見守る中、立ったまま息を止めた彼の胸から黒い靄のようなものが発生する。
靄は柳渡の体から抜け出して空中に漂ったかと思うと、チミーの胸に飛び込んだ。
それを見た島本が、『それ』の正体を口にする。
「ついに.....『蠱毒』が一つに。呪いは、完成したのじゃ....!」
チミーの胸の中に入っていった黒い靄が広がり、全身に染み渡るような感覚。
相手を殺害する事で吸収される『蠱毒の呪い』が、チミーの中で完成したのだ。
チミーが柳渡の息を止めたという事実に、能力が解除されたにも関わらず、凍り付いたかのように『神の目』、結、桜の3人は固まっている。
それに対してチミーは、島本の言葉を聞いた途端にほっとしたような息を吐いた。
「そう。なら、もう蘇生しても大丈夫、って事ね?」
「え.....?」
チミーは再び柳渡の胸へ手を当てると、能力を発動。
柳渡の息の根を止めた時のように、衝撃波が突き抜けた。
しかし、先ほどとは少し違う。
その衝撃波は、電気を纏っていたのだ。
「そう簡単に、死なせるわけないじゃん!何かのために犠牲になんなきゃならない人なんて、無い方が良いに決まってる.....!」
そして再び、電気を纏う衝撃波が走る。
自動体外式除細動器《AED》。
心停止を起こした心臓を、電気によるショックで再び正常な状態に戻す装置。
チミーは柳渡の心臓を意図的に細動状態へ陥らせた後、それと同様の処置を行っているのだ。
桜の『呪い』は完全な死亡ではなく、臓器の欠損による、通常では回復の見込みが無い瀕死の状態となった時点でチミーに行き渡っていた。
それを知っていたチミーは、『通常では』回復の見込みが無い、心停止状態に柳渡を追い込んだのである。
数度の電気ショックが行われると、唐突に柳渡が大きく息を吸った。
意識が、戻ったのである。
目が覚めると、柳渡は自身の体の異変に気が付く。
『呪い』が消え、『蠱毒』を巡る戦いが終わった事に。
「あれ、俺.....」
呆然と自身の手のひらを眺める柳渡は、困惑と動揺の顔を浮かべている。
そんな彼の肩に手を乗せて、チミーが状況を教えた。
「『呪い』は私が貰った。アンタはもう、誰も殺さなくたっていい。」
その言葉を聞いた柳渡は激昂するかと思いきや、少し悲しく、しかしどこかスッキリしたような表情を見せる。
「そうか。」
そう一言だけ呟くと、上げかけていた腕を静かに下ろした。
諦めがついたような穏やかな顔に変化した柳渡を確認したチミーは、その抱える感情の矛先を島本に向ける。
ゴーグル越しに島本を睨みつけ、強い足取りで彼に近付いた。
チミーの接近に気付いた島本は、静かに俯いて口を開く。
「.....分かっておる。柳渡を助けられたからといって、数年前に皆を『蠱毒の呪い』に巻き込み、犠牲にしてしまった事実は変わらない。」
チミーに襟を掴まながら彼がそう言うと、チミーはそれを否定することなく言い放った。
「そうよ。私はアンタがこの先何をしようが許す気は無い。一生かけて、償ってもらうわよ。」
けど。
一言付け加えたチミーは襟から手を離し、くるりと踵を返す。
『蠱毒』を得たチミーの様子は、以前よりどこか大人びて見えた。
「『未来の消滅』が迫ってんでしょ。それを避けれなきゃ、皆の犠牲が無駄になる。」
島本に背を向けているのは、どうしても顔を見たくないという意思表示だろうか。
チミーはそのまま、背を向けた状態で島本に言った。
「だからアンタには、命賭けて協力してもらうわよ。」
「.....それが償いになるのであれば。」
島本は俯き、静かにそう答える。
島本の返答を聞いた後、チミーは顔を横に向けて顔の右半分だけを振り返らせる。
そして、『蠱毒』の力を手にしてからずっと思っていた疑問を口にした。
「.....ユウリ。なんで、ここにいるの?」
チミーの視線の先にあった物陰から、ユウリが現れる。
彼女に今回の事を伝えた筈は無いし、何よりエネルギーを感知できるチミーが『蠱毒』の力を得るまでその存在に気付かなかった。
普段からは想像もできない真剣な表情で、ユウリがこちらに歩み寄る。
「後を、つけてきてた。」
いつになく真面目なその様子を見るに、ただ好奇心でついてきたわけではなさそうだ。
事情を聞くよりも先に、ユウリが続けてその答えを説明し始める。
「私は.....元『観測者』だったみたい。」
「観測者?」
「うん。この星を管理する『星の管理者』に仕える、星の状態を観測する者達。」
ユウリが口にした『星の管理者』という言葉。
以前、『宝珠』の元となる力を保有している強大な存在であると『神の目』が言っていたものだ。
それを思い出したチミーが視線を移すと、『神の目』と島本が、驚愕の表情を見せていた。
「星の管理者に仕える者、か.....。『未来の消滅』は、やはり君達も把握しているのか?」
「というよりも、『未来の消滅』は.....『星の管理者』によって引き起こされるから。」
「何だとっ!?」
そう答えたユウリは、続けて語り始めた。
『未来の消滅』の、真実を。
この星は、『星の管理者』とその従者である『観測者』とで管理されている。
とはいえ滅多に干渉することは無く、基本的には自然任せ。
何か大きな問題を『観測者』が見つければ、『星の管理者』が対処する、というシステムなのだ。
『観測者』がユウリのような人間と同様の性質を持っている存在であるように、『星の管理者』にも人間と同じく、寿命が存在する。
人間よりも長い寿命ではあるものの、一定の寿命に達すれば、新たな適性を持った者に世代交代をする。
そうやって、『星の管理』を存続し続けているのだ。
そうやって何千、何万と続けてきた『星の管理』。
そこで一つ、問題が発生したのだ。
「次の『管理者』が.....いないんだよ。」
ユウリがぽつりと口にする。
次の『星の管理者』がいない。
つまり今の『星の管理者』が死んでしまうと、この星を守る者は誰一人としていなくなってしまうという事だ。
「守るって...何から?」
「ギルガンだよ。存在自体は、知ってるでしょう?」
チミーの問いに、ユウリが答える。
人類の敵とも言われている異形の存在、ギルガン。
隕石と共に現れたという話の通り、ギルガンはこの星の『外』から、この星を攻撃しに訪れた生物と彼女は語る。
「地球外生命体の攻撃は過去に何度も存在していた。しかし『星の管理者』や私達『観測者』がそれを、度々退けていた。けどその中で、最悪な事が起きちゃったんだ。」
『最悪な事』とは。
それは『次の』管理者候補だった者が、戦いの中で死亡してしまったのだ。
「『星の管理者』の次の候補者は、元々いたんだよ。けど、ギルガンの大型個体と相打ちになって死んじゃったんだ。」
殆どの地球外生命体は排除することに成功した。
しかし次の『管理者』候補の者が死んでしまった事で防衛力に隙が生まれ、気付かぬうちに『隕石』を地表に落とす事を許してしまったのだ。
『隕石』に潜んでいたギルガン達は繁殖し、少しずつ人類を蝕み始めたのである。
これは今から、10年前の話。
管理者候補は星を管理する程の力を得るべく数十年の時をかけて育て上げる。
そんな彼が亡くなってしまったとなると、また数十年かけて新たな人物を擁立しなければならない。
だがそんな時間は、今の『管理者』にはもう無いのだ。
年老いた『管理者』は年々その力を弱めていき、反対にギルガンの勢いは増していく。
そこで『管理者』は、一つの決断をしたのだ。
「星を消滅させよう」と。




