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なんで、止めないの?

部屋内に、鈍い音が響く。


チミーの頬を、柳渡の拳が何度も殴る。

柳渡が無言で殴り、身動きが取れない状態のチミーも無言で殴られているため、殴る音だけが響いているのだ。


十数発ほど殴られ、柳渡が一度手を止めた所でチミーが口を開く。


「痛ったいわね....私の顔が傷付いたら、どうすんのよ。」

「最終的に死ぬんだから、どうだっていいだろ?」

「だったら早くナイフでも用意すれば?そんなへなちょこのパンチなんて、何百発貰っても痛くないわよ。」


ゴーグル越しに柳渡を睨むチミー。

そんな彼女の煽り文句にも動じず、柳渡は再び殴る事を再開した。


最初ハナっから、これで殺せると思っちゃいねぇよ。今殴ってんのは、なんとなくだ。」


神の目(ゴッド・アイ)』、結、桜の3人も柳渡の能力によって動きを封じられ、ただチミーが殴られているのを見る事しかできない。

目の前でチミーが殴られているのに何もできない無力感に、桜は涙を流していた。


「やめて....やめてよ......。」


桜の嘆きに気付いた柳渡は顔を傾け、島本に尋ねる。


「なぁ爺さん。あいつ生きてるけど、『呪い』はちゃんと継承されてんのか?」

「うむ、一度死んだようなものじゃからの。彼女の持っていた『呪い』は、染口チミーに取り込まれておる。」

「じゃあいいや。こいつを殺すだけでいいんだな。」


島本の答えに頷いた柳渡。

そんな彼に向かって再び、チミーが口を開いた。


「一つだけ、聞かせてくれないかしら。」

「?」

「アンタはその『蠱毒』とやらの力を仮に手に入れ、『未来の消滅』を回避した場合。その後、その力を何に使うつもり?」


せっかくだし付き合ってやるかと言わんばかりに思考を開始した柳渡。

しばらく考えた後、顔を上げて答えを出した。


「ま、好き勝手に楽しませてもらうかな。あらゆる人間を従わせて、自由気ままにな。」


柳渡の回答を聞いたチミーは小さくため息を吐き、呆れたような口調で返事を返す。


「そ。だったら、なおさら渡すわけにはいかないわね。」


未だに減らず口を続けるチミーに、柳渡が拳を振り上げた。

再びチミーを殴ろうとした、その時。


ガシッ。


柳渡の拳を、チミーが掴む。

そして、柳渡の顔面にチミーの拳が叩き込まれた。


「───────────ッッッ!?」


エネルギーを引き出した拳は柳渡をいとも容易く吹き飛ばし、壁に激突させる。

その様子に、その場にいた全員が驚愕していた。


「チミーちゃん、なんで.....」


なんで、動けるんだ!?


チミーは柳渡の能力によって、『止まる』事を命令されていたはず。

全員が一斉に思った事を察したチミーは、何十発も殴られて赤くなった頬をさすりながら説明した。


「『命令』を聞いて、それの通りに実行する。つまり、柳渡の能力を食らった脳が誤った信号を体に流してるって事でしょ?」


体が動くのは、脳が指示を出しているから。

『命令』がトリガーであるならば、それは脳を介して体を動かしているという事になる。


「だったら、脳から送られてきた電気信号を妨害すればいい。」


そう言ったチミーの体は、電気を纏っていた。


チミーは自身の体に強烈な電気エネルギーを流し、脳からの電気信号を強引に妨害。

そして、エネルギーを操り自身の体を動かす事で柳渡を殴ったのだ。


「なんと....滅茶苦茶な。」

「正直、できるかどうか微妙だったけど。意外と何とかなったわね?」


ほっと息を吐いて柳渡に歩を進めるチミー。

しかし、島本の方をちらりと見た途端、立ち止まった。


「なんで、止めないの?」


チミーが柳渡に接近しているにも関わらず、島本は微動だにしていないのである。

柳渡と島本は協力関係にあり、チミーを止めに来るだろうと思っていた。

が、島本はそうは思っていなかったようだ。


「ホッホッホッホッホ.....わしからすれば、君ら2人が衝突する事こそが目的。どちらが勝とうとも『蠱毒』が完成する以上、その勝敗はどうでもよい。」


島本の冷酷な答えに、チミーはため息を吐く。


「とことん、救いようのない奴ね。」

「儂より、柳渡を見た方が良いと思うぞ?」

「え?」


笑みを浮かべた島本がそう言った直後、チミーの右側から強烈なエネルギーを検知。


「うおっ!」


巨大な鉄板が、チミーの顔面すぐ近くを通過。


飛んできた方向を睨むと、瓦礫を押しのけて柳渡が立ち上がっていた。

柳渡がこちらに向けて手を構えると、周囲の瓦礫が浮かび上がる。


「俺が『命令』できんのは、人間だけじゃねぇ。」


柳渡の周囲を漂い始めた瓦礫は一斉に、チミーへ向かって突撃した。

チミーは襲い来る瓦礫を屈んで避け、突き上げるような蹴りで破壊し、また避ける。


「『物』にだって『命令』する事ができる。実質、『全てを操る事ができる能力』ってワケね.....。」

「そういう事だ。」


竜巻のように周囲の空気ごと回転することで瓦礫を細切れにしたチミー。

足を止め、浮かび上がった疑問を問うた。


「アンタの能力はただの『テレパシー』だったはず。それが何故こんな能力に?」

「『昇華』させたんだよ。『宝珠』の力によってな。」

「ほ、宝珠.....!?」


柳渡の言葉に、チミーは声を上げる。

チミーの持つ『創造の宝珠』と同様のものを、こいつらは持っていたということか。


話を聞いていた『神の目(ゴッド・アイ)』が、苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。

そして一言、納得のいったように呟く。


「そうか。それで『昇華の宝珠』を.....」

「...知ってるの?」


振り返ったチミーに、『神の目(ゴッド・アイ)』が話を続けた。


「僕達は宝珠を一人の者に集めるため、世界中にある宝珠を収集した。」


しかし、一つの場所に宝珠を集めておくのはリスクが伴う。

だから『神の目(ゴッド・アイ)』達は然るべき時が来るまで、宝珠を色んな場所に置いていたのだ。


「その中の一つ『昇華の宝珠』は、とある博物館に預けていたんだ。」

「博物館って.....まさか!」


そう。景野が奪い、チミーが取り返すべく駆り出された事件。

景野が奪ったものが、『昇華の宝珠』だったのだ。


「『昇華の宝珠』を使い、柳渡の能力を『昇華』させ、万物を従える能力を発現させた。」

「そして用済みとなった『宝珠』を、適当な犯罪組織に流したってわけか。」

「あっ、『煙星』.....」


チミーはそこでようやく、話の繋がりに気付いた。

超能力者による犯罪組織『煙星』から押収した『宝珠』。

それが『昇華の宝珠』であり、島本が流したものだという事だ。


「この前に染口さんが倒れた後、彼らに色々と出処を聞いたんだが分からなかった。まさかその正体が、お前だったとはな.....島本。」

「お喋りタイムは終わりにしようぜ?」


神の目(ゴッド・アイ)』の言葉を遮るように、柳渡がそう『命令』した。

神の目(ゴッド・アイ)』の口は縫い付けられたように閉ざされ、開く事を許されない。


再び瓦礫を持ち上げた柳渡が、チミーを指さした。


「『命令』だ。染口チミーを、殺せ。」


途端にコンクリートの破片達が意志を持ったかの如く動き出す。

チミーの姿を捕捉したかと思えば、ミサイルのように次々と突撃を始めた。


どれだけ回避しようともしつこく追いかけてくるコンクリートの破片。

細切れにしようとも砂嵐のように襲ってくるその姿に、チミーは苛立ちを覚えた。


「あ〜〜〜、鬱陶しいなぁ!」


『命令』は一度適用されれば、遂行されるまで永遠に稼働し続ける。

物が意思を持って動いているだけなので柳渡自身の消耗も少なく、『過剰損耗(オーバーヒート)』を狙う事も難しい。


どれだけ妨害しようとも、『チミーを殺害する』意思を植え込まれたコンクリートは止まらない。


「こいつらは、お前が死ぬまで追いかけ続ける。お前が死んで、俺が最強の力を手に入れるまでな。」

「そうか。.....だったら。」


柳渡の言葉に俯いたチミーが衝撃波を放ち、砂と化したコンクリートを遠くへ吹き飛ばす。

腕を伸ばし、『永遠なる供給源(エターナル・エンジン)』を発動した。


「なっ.....」


柳渡の体内エネルギーが操作され、チミーの手元まで引き寄せられる。

引き寄せられた柳渡の胸部を、チミーの手のひらが押さえている状態となった。

チミーは静かに、だがはっきりと呟く。


「この『蠱毒』の戦いが、どちらかが死ぬまで行われるってんなら。」


チミーの手のひらに、エネルギーが集中。

顔を上げたチミーが、柳渡の顔を睨んで静かに伝えた。


「私がアンタを、殺してやる。」


次の瞬間。

チミーの手のひらから柳渡の体内を介し、背中から衝撃波が抜けていった。

大気を震わせるほどの衝撃波をゼロ距離で受けた柳渡は白目を剥き、呼吸が止まった状態と化す。


彼はチミーの手によってその息を止め、死亡したのだ。

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