ロマンがあるだろう?
数度にわたる胡麻原の突進を回避しつつ、隙を伺う酒城。
激しい攻撃に息切れを起こし始めた酒城だが、一瞬だけ胡麻原が見せた隙に気付いた。
腕を伸ばし、能力を発動する。
「そこだっ...!『切断波』ッ!」
伸ばした腕の直線上に位置する胡麻原の左上腕が、ピクリと動く。
一筋の線が通った後、そこは完熟したザクロのようにパクリと裂けた。
「うおっ...!」
丸太のように太い腕にも関わらず、3分の1ほどが裂けている。
あの状態でマトモに腕を動かす事は、到底難しいだろう。
突然の攻撃に焦りを示した胡麻原。
多量の血を流している左腕から回り込むように酒城が接近し、次なる攻撃を叩き込もうとしたその時だった。
「─────ッ!?」
胡麻原の左手による裏拳が、酒城の顔面に直撃した。
咄嗟に酒城は能力の1つ『粘液水泡』を間に出現させて直撃を免れるも、その絶大な衝撃に吹き飛んでしまう。
「酒城!!」
景野が伸ばした影の手が酒城を受け止め、壁への激突は免れた。
しかし体の内部にダメージが響いたようで、床へ着地した酒城がよろめく。
「はっはっは、この程度なら切られても全然動けるさ。」
そう言った胡麻原は得意気に上腕を動かし、上腕筋を見せびらかすようなジェスチャーを見せた。
先程能力によって裂けた部分をよく見てみると、腕の中に何やら銀色の物が見えている。
「...改造人間、ってワケか。」
「よく分かったな!その通りさ。」
酒城の言葉に、胡麻原が元気よく答えた。
鬱陶しいくらいポーズを変えながら、胡麻原は自身の解説を始める。
「人間、肉体を鍛えただけじゃあ限界がある。その後押しを、機械にやってもらってんだ。能力だって、あるんだぜ?」
「能力.....?」
そう言った胡麻原は手を持ち上げて開くと、指を曲げて虚空を掴むようなポーズを取る。
すると空気が胡麻原の指に引っ張られ、その手に半透明の球が生み出された。
胡麻原はニヤリと笑うと、腰を低く落とし球を持った手を構える。
「俺の能力は『絞る片栗』。『あらゆるものを凝縮させる能力』さ。」
次の瞬間、持っていた半透明の球を思い切りぶん投げた。
胡麻原の能力によって『凝縮』された空気の球は凄まじい球速で飛び、壁に激突。
壁を粉々に破壊するほどの、ロケットランチャーの如き爆発を巻き起こした。
埃の舞う中、胡麻原の笑みは続いている。
「どうだ?この『人工超能力』。ロマンがあるだろう?」
そんな彼だったが、埃を潜り抜けて酒城が突撃を仕掛けてきたのを見るや否や、笑みが消えた。
胡麻原が放った大振りのスイングを避け、酒城が背後に回り込む。
胡麻原が酒城に合わせて脚を引き、反対側の腕を上げたその時だった。
「!」
上げた腕が小刻みに震え、止まる。
胡麻原が酒城に気を取られた一瞬の隙を突き、景野が『影の手』による数本の影の手でその動きを封じたのだ。
さらに、それだけでは終わらない。
動きの止まった胡麻原に追撃をかけるべく、酒城が能力を発動。
局地的に霧を発生させ、僅かだが胡麻原の視界を遮った。
追い詰められた胡麻原の肉体から、苛立ちを表すように血管が浮かび上がる。
「ふんっっ!!!」
胡麻原は動かせる方の手を地面につけたかと思うと、部屋全体を『凝縮』させた。
間接的に引き寄せた景野の体を『凝縮』し、影の体の効力を無くしつつぶん殴る。
霧でぼんやりとした視界の中、景野が吹っ飛んでいくのを確認した胡麻原は、酒城に接近した。
地面を抉るほどの拳を避けた酒城に、胡麻原の回し蹴りが突き刺さる。
「ぐっ.....!!」
内臓が潰れるかのような不快感を覚えつつ、酒城は地面を転がった。
咳き込みながら横たわる彼を、胡麻原の大きな影が覆う。
「坊主、これが『正しさ』ってモンだ。2人がかりで俺一人を倒せねぇような奴が、『未来の消滅』を救えるはずがねぇ。俺達が何とかしておくから、安心して眠っとけ。」
そう言って指を構え、酒城の額を弾く姿勢に入った胡麻原は、ある違和感に気付いた。
酒城が、笑っているのである。
「そんなお喋りするくらいなら、気付いてないみたいだな?胡麻原。」
ゆっくりと胡麻原を見上げながら、横たわった酒城が言った。
その顔には、不敵な笑みが刻まれている。
「お前は本当に景野を吹っ飛ばしたのか?その目で、きちんと見たのか?」
酒城の言葉に、胡麻原の体が一瞬停止する。
そしてその言葉の意味に、気付いてしまった。
胡麻原の視界は、酒城の能力によって霧で遮られた状態。
つまり胡麻原が見たのは、ぼやけた景野の姿を霧越しに見ただけ。
「てことは...」
「お前が殴ったのは『偽物』って事だ。」
背後からそう声が聞こえ、胡麻原は反射的に振り返ろうとする。
しかし、身体が動かない。
金縛りにあったかのように動けない胡麻原へ、背後に立っていた景野が話を続ける。
「『影縫い』。『影の手』の能力の1つだ。お前が呑気にお喋りをしてくれたおかげで、お前の影を『縫う』事ができた。」
景野の『影縫い』は相手の影を縫いとめ、一心同体である本体の動きも止める技だ。
つまり『影縫い』が成功した今、胡麻原はもう動けない。
「やりやがったな、この野郎.....!!」
ほんの僅か、震える程度にしか動けずに悔しげな表情を浮かべる胡麻原。
立ち上がった酒城はそんな事に気にもとめず、先ほど切った胡麻原の腕に手を伸ばした。
「お前は機械と融合した事によってさらに力を得た。そう言ったよな?」
切れ込みの入った部分に指を突っ込み、そこから見える金属の部分に触れる。
「だが、それを敗因にしてやる。俺の能力の1つ、教えてやるよ。」
酒城の能力が発動する。
『影縫い』を受けた事による身体の不自由とはまた違った感覚が、胡麻原に突然襲いかかってきた。
冷や汗を流し困惑の表情を見せた胡麻原に、酒城は能力を教える。
「『電子機器のハッキング能力』だ。大規模な事はできねーが...お前を機能停止に追い込むぐらいのことはできる。」
「なにィ.....!?」
胡麻原が声を上げたとほぼ同時に、その目から光が失われた。
魂が抜けたかのように白目を剥き、前に倒れ込む胡麻原を避けた酒城。
「コイツは.....死んだのか?」
「いいや、再起動みたいなもんだ。一旦機能は止まるが、しばらくしたら復活する。死んじゃあいない。」
「そうか。」
景野はどこか安心したように息を吐くと、腕から流れる血を拭う。
酒城は先の道を見ながら、心配そうに呟いた。
「アイツらは大丈夫だろうか。」
その言葉に、景野は口の端を持ち上げる。
「俺が認めた奴がいるんだ。そう簡単にはやられねーよ。」
そう言って軽く笑うと、景野と酒城はチミー達を追いかける形で道を走った。




