手伝うぜ
チミーは一気に感情が爆発し、『神の目』の胸ぐらを掴み上げる。
ゴーグルに隠れていてその目は見えないが、真っ赤な怒りに染まっているのだろう。
『神の目』はチミーの凄まじい剣幕に、恐怖さえ覚えた。
「そいつはどこにいるの。」
「けど、奴は...」
「関係ない。今すぐ教えなさい!!」
今まで見た事もない『怒り』に染まったチミーを前に、『神の目』は従わざるを得なかった。
下手に止めようものなら、殺されてしまいそうなほどの気迫。
今のチミーを止められる者は、いないだろう。
音の壁を軽々と越えて空を駆け抜ける。
チミーは何も考えていなかった。
孤児院の皆を使った『蠱毒』だって?
孤児院が燃えたのも、桜が自分を憎む幻覚を6年間も見ていた事も、全てはその仕業か。
.....ふざけやがって。
しばらくの飛行後、『神の目』が伝えた場所に辿り着く。
そこは何も無く、ただ広い畑だけがある。
しかし、チミーは迷うこと無く下へ急降下。
畑を突き抜け、地面を砕いた。
地面を砕いた先にあったのは、広い地下空間。
空けた穴から落ちていくチミーは、地面の先に2つの人間のエネルギーを感知した。
やはり、ここで間違ってなかったのだ。
チミーは表情をより一層厳しくさせ、自由落下に身を任せる。
空中で体の向きを変え、床をひび割りながら着地。
目の前に広がっていたのは、暗い地下通路だった。
先程捕捉したエネルギーの位置を確認し、通路をひたすらに進み続ける。
「見つけた。」
チミーは静かに呟くと、辿り着いた鉄の扉を蹴破って部屋に侵入。
紙くずのように吹き飛ばされた鉄の扉が、広い部屋の反対側の壁に激突する。
部屋の中にはやはり、柳渡と杖をついた老人───島本の2人が立っていた。
その姿を見た途端、チミーの周囲を包む空気が一気に張り詰め始める。
2人が侵入してきたチミーの存在に気付いた瞬間、島本は宙に浮いた。
一瞬にして詰め寄ったチミーに首を掴まれ、壁に叩き付けられたのだ。
無機質なゴーグル越しに島田を睨み付けるチミー。
その足元は彼女の感情を表すように強力な熱を放っていて、コンクリート質の床を溶岩のように溶かしていた。
「ち、チミー.....」
首を掴まれ、とてつもない威力で壁に叩き付けられた島本は苦しげな呻き声を上げる。
チミーは黙って左腕を大きく掲げ、左手の拳を固く握り締めた。
込められた最大限のエネルギーが、拳の周囲に陽炎を纏っている。
「死ね。」
無慈悲にそう一言呟いたチミーは、左拳を突き出した。
しかし、その拳は島本の目の前でピタリと急停止する。
拳を振った衝撃波だけが流れ、島本の周囲の壁がめくれ上がる。
「おいおい、俺達を育ててくれた人だぜ。優しくしてやれよ。」
横から聞こえてきた声に、チミーは止まった拳を震わせながら振り向く。
一連の様子を眺めていた柳渡が、能力を使って干渉したのだ。
柳渡は腕組みを解き、チミーに歩を進める。
「やり合うのはまだ早え。桜を殺したのがまだ『浸透』し切ってないみたいだからな。」
「は?」
攻撃的に聞き返すチミーを無視し、柳渡はチミーに手を向けて能力を発動した。
「吹き飛べ。」
「っ...!?」
柳渡がそう口にした直後、島本の首を掴んでいたチミーの身体は勢いよく後方へと吹き飛んだ。
入ってきた入口を抜け、先程通ってきた地下通路へと放り出されてしまう。
「数日経ってから来いよ。今日の所は、お引き取り願おう。」
そう言った柳渡が再び能力を発動し、チミーをさらに吹き飛ばした。
『永遠なる供給源』が効かず、チミーは文字通り柳渡に手も足も出なかったのだ。
「クソッ.....!クソッ.....!!クソッ.....!!!」
壁を何度も殴り、チミーは怒りと悔しさの混じった声を漏らす。
巨大な亀裂の入った壁に眉をひそめながら、『神の目』はチミーへ静かに声を掛けた。
「怒るのも仕方無いよ。あの非人道的な方法の、当事者だったなんて.....」
「うるさいな...!!一人にしてよ.....!!!」
『神の目』の言葉に対し、悲痛な叫びを返すチミー。
しかし『神の目』は表情を崩す事なく、話を続けた。
「僕もアイツには因縁がある。一緒に戦ってほしいんだ。」
あのやり方に怒りを覚えているのはチミーだけではない。
「神の目」の言葉を聞き、壁を殴るのをやめたチミーが振り返る。
「奴らに勝てるのは、君しかいない.....!」
そして3時間後。
『チーム』の部屋に、複数の人間が集まっていた。
『神の目』、酒城、チミー、桜、結の5人。
同じ部屋に居合わせ、ただならぬ気配を察したライカはクッキー菓子をそっと配った後、気を遣って部屋から出ていってくれた。
チミーは数時間前に比べるとかなり落ち着いた様子で、1人で突っ走っていく心配は無さそうだ。
黙っていた酒城が、不意に口を開く。
「言っておくが、恐らく敵は島本だけじゃない。」
「どういう事?」
「『前任者』は、島本だけじゃないって事だ。」
酒城曰く、『神の目』達と意見が対立して離れた者は、あと2名いるそうだ。
その2名の所在は今のところ不明だが、島本が『蠱毒の呪い』を継続している以上、彼に付いている可能性は高い。
「島本は私が何とかする。魔術師なら、私がやるべきだと思う。」
「奴は独自の術式を編み出していたらしいから、小野さんと言えど気を付けて。」
『神の目』は結に一言そう伝えると、彼女は軽く頷いた。
島本の相手が決定した事により、相対的に柳渡の相手をするのはチミー、酒城、桜のいずれかになる。
「だが.....染口さんが手も足も出なかった相手だろ?やっぱり、少し心配だな。」
酒城が呟いた。
確かにそうだと『神の目』は顎に手を置く。
島本に付いた可能性のある『前任者』の2人の事も考えると、今の人数では少ないかもしれない。
「じゃあ私、春人に来れるかどうか聞いてみますね。」
「助かります。後は...」
「俺も行こう。」
突然、5人しかいないはずの部屋に『6人目』の声が響いた。
周囲を見渡すも相変わらず5人しかいない部屋だが、聞き覚えのある声が確かにそこにある。
チミーの背後に置いてあった観葉植物の影が大きく波打った。
小さな池のように揺れ動くその影から、浮き上がるように1人の人影が現れる。
景野だった。
「島本には俺も借りがある。手伝うぜ。」
「君も『蠱毒』の...?」
景野の登場に、『神の目』が尋ねるも、景野は首を振って答えた。
「いいや、違う。以前、奴に依頼されて色々やってた事があったんだ。『宝珠』の強奪なり何なり.....今回の事を間接的に手助けしちまった事だってあったかもしれねぇ。罪滅ぼしじゃねぇが、手伝わせてくれ。」
「.....助かるよ。」
しばらく話した後、その場は解散した。
決行は明日。
人数が増えたとはいえ、柳渡はチミーを完封した超能力者。
「.....勝てるのかな、私に。」
チミーは自身の手のひらを見つめながら、不安げに言葉を漏らした。




