『思い出してしまった』よ
少しだけ開いた装甲の隙間から、チミーは無理矢理内部へと体を押し込み、コクピットへの侵入に成功した。
チミーの腕の力から解放された装甲は再生してすぐに埋まり、コクピットが少し揺れる。
コクピットの座席に座った状態のチミーは、足のすぐ下に置かれていた『橙色のもの』を見た。
「うわっ...」
『橙色のもの』が放つ強烈なエネルギー量を目の当たりにし、思わず目を逸らしてしまう。
見ないように顔を真横に向けた状態で、なんとか腕を伸ばして『橙色のもの』を掴む。
『橙色のもの』が接続されてある周囲のケーブルがピンと張るも、チミーは構わずに思い切り引っ張った。
接続されていた何本ものケーブルが、次々と千切れて電流が漏れる。
するとコクピット内の電気が不安定な状態となり、揺れ始めた。
どうやらヴァルグリーズが、内部の異常を検知して暴れていみたいだ。
「わっ.....大人しくしなさい!」
『橙色のもの』に貼り付いていた全てのケーブルを引き剥がすと、地震のように揺れ動いていたコクピット内は停電し、一切の動きを停止した。
「ふぅ。.....あれ?」
動きが停止し、一息ついたのも束の間。
ヴァルグリーズが動力を停止し、少しずつ前に倒れ始めているのを感じ取った。
「ちょっ.....!」
チミーは慌てて手を動かし、電気の付かないパネルを触る。
電気エネルギーを流し込み、強引に起動させた。
機体が爆発し、ヴァルグリーズがうつ伏せの状態で倒れる。
倒れたヴァルグリーズの中から凄まじい閃光が漏れ出た後、再び爆発。
熱風と共に襲い来る鉄の破片を防ぎながら、外の6人は心配そうな顔で恐る恐るヴァルグリーズに近付いた。
「ふぅ。」
爆発によって破壊されたヴァルグリーズの背中から、這い上がるようにチミーが現れる。
上半身だけを外に出し、手の甲で額の汗を拭ったチミー。
再生し始めたヴァルグリーズの背中を見て、慌てて機体から飛び下りた。
駆け寄る桜に歩みを進めると、チミーの体は力が抜けたように倒れ込む。
「はぁ、すっごい疲れた...。起きて早々だけど、寝そう.....。」
桜の腕に支えられた状態のチミーは、消え入りそうな弱々しい声で呟く。
そんな彼女に、桜は優しい顔を向けた。
「寝ても大丈夫だよ。チミーちゃんは、私が運ぶから。」
「それは...ありがたい。」
その言葉を聞いたチミーは安心した表情を見せ、そのまま静かに眠りについた。
直後、現場に多数のヘリが到着する。
ヘリの音、そして降りてきた多数の人間の足音でも起きないチミーは、相当疲れているのだろう。
桜はチミーを横抱きして立ち上がり、迎えのヘリコプターへと歩き始めた。
「ほー、あのロボットが負けるとは。...やるね、あの子。」
稼働を停止したヴァルグリーズを遠くから眺めるコインの女。
横抱きの状態で眠っているチミーを見た後、少し俯いて呟く。
「あの子なら、アイツの事を.....。いや、いいや。」
意味ありげな独り言を呟こうとしたコインの女だが、首を振って中止。
その後、ヘリコプターから出てきた特殊隊員達よって運び出されている『橙色のもの』の姿を見つけた。
「あ、『暴走の宝珠』。取られちゃったかぁ.....」
あちゃーと手を頭に当てて呟くが、その悲壮の表情はどこかわざとらしい。
手に持ってるコインを1発弾き、夕陽を反射して光っているコインを掴み取った彼女の元に、ある人物が現れた。
女は気が付き、振り返ってその人物に声をかける。
「やっぱり貴女だったんだ、カモミール。」
コインの女がカモミールと呼んだその人物。
それは.....ユウリだった。
知り合いのようだが、笑みを浮かべているコインの女とは異なり、ユウリの表情は曇りを見せている。
「思い出した....いや、『思い出してしまった』よ。」
ユウリの言葉を聞いて、コインの女の笑みはさらに強まった。
ヴァルグリーズの騒動が終わり、数日後。
あまり大きな事件も起きず、よく騒動に駆り出されている『チーム』のメンバーにとってはしばらく落ち着ける時期となり始めていた。
だがその中でも、ずっと落ち着きの無い人物がいる。
チミーだ。
『永遠なる供給源』の返還に、再生するロボットのヴァルグリーズ。
目の前の事件は解決したものの、チミーにはまだ追うべき謎がある。
『未来の消滅』についての事、そして桜と自分とを意図的に殺し合わせた柳渡の事だ。
同じ孤児院出身であるものの『6年前の事件』で行方不明になったとされていた。
しかしつい最近、チミーがその事を『神の目』へ相談をした事によって、事態は大きく動き始める事となる。
「辻 柳渡の居場所が分かったよ。.....って!?」
『神の目』はチミーの依頼を受けて柳渡の居場所を特定する事に成功した。
だがその瞬間、見えた景色に対して眼を大きく見開き、明らかに動揺した様子を示す。
驚きと怒りのような感情が混ざっている、少し震えた声で、『神の目』は誰に言うわけでもなく呟いた。
「...どうして、『奴』がそこにいるんだ...!?」
『神の目』の様子からただならぬものを感じたチミーは、頬に汗を浮かべながらその様子を窺う。
一旦落ち着こうと目を閉じた『神の目』だが、見えたものがあまりにも衝撃だったのか、まだ少し呆然としている。
「ごめん、昔の知り合いが一緒にいてね......それで、驚いちゃって。」
『神の目』は静かにそう説明すると、俯いて唾を飲み込む。
少し考えた後、小さな声で独り言を呟き始めた。
「そうか。そういう事、だったのか.....。」
「...?」
何かに気付いた様子の『神の目』。
状況が分からず、チミーが不思議そうな顔で小首を傾げると、『神の目』は勢いよく顔を上げ、チミーを凝視した。
急な動作に、チミーはビクッと肩を震わせる。
チミーを見る『神の目』の顔は、様々な感情が渦巻いた、何とも言えない表情をしていた。
「君は、大変な事に巻き込まれているんだね.....。」
男の名は島本 玄雄。
80を越えた老人だが、魔術師の中ではかなりの有名人らしく、衰えてなおその辺の魔術師なんかでは足元にも及ばぬ才能があるという。
そして、『神の目』と共に『未来の消滅』を防ぐため奔走していた、酒城の『前任者』だった。
ある時までは。
目を瞑った後、『神の目』は静かに口を開く。
「...『蠱毒』の話は知ってるかな。」
蠱毒。
チミーは漫画などでその話を知っていた。
『神の目』の問いかけに頷き、返事をする。
「確か、1つの壺に色んな毒虫を入れて、最後に生き残った奴が強力な毒を持つ、みたいな......まさか!!!」
自分の頭に入っていた知識を語っている内に、チミーは『神の目』が言わんとしている事に気付いてしまった。
『神の目』は固まるチミーの心境を察して深く目を伏せ、答え合わせをする。
「そう。それを人間でやろうとしていんだよ、彼は。」
超能力者を『毒虫』と置き、1つの『壺』...枠組みの中で、互いに争わせる。
そして最後に生き残った者が強力な力を得る、という呪術を、彼は『未来の消滅』に対する研究のうちに編み出したのだという。
「僕達は宝珠の力を一人の『器』に集める方法を提案していたんだけど、奴はそれを『不確定で安定しない』と否定した。でも人を殺し合わせるなんて方法は、あまりにも酷い。だから僕達は、『自分達でやる』と奴を追い出したんだ。.....なのに、まだ諦めていなかったなんて。」
片手で頭を抱え、絶望の混じったため息を吐く『神の目』。
そんな彼とは正反対に、チミーにはふつふつと『怒り』の感情が湧き起こり始めていた。
互いに憎み、争う状況を、チミーはよく知っている。
「つまり、その『毒虫』ってのは...」
孤児院という名の『壺』に押し込められた、自分達だ。




