あとは任せて
突如彗星の如く現れたチミーに、近くにいたユウリが笑顔を見せた。
「目が覚めたんだね...!」
「後で色々、聞かせてもらうよ。.....起きてすぐこの事情を聞いて、すっ飛んできた。」
有り余るエネルギーを放出するように、チミーの周囲には激しい電流が走っていた。
ヴァルグリーズによって負傷した皆を見渡したチミーは、気合を入れるように口元を引き結ぶ。
「...あとは任せて!」
そう言い残すと、チミーは瞬間移動でもしたかのようなスピードで消え、ヴァルグリーズの元へと駆け出した。
先程までチミーがいた場所に、軽やかな土煙が舞う。
「おぉ.....らあぁっ!!」
全身から電気を放出させながら一直線に向かっていったチミーは、足を踏み込んでジャンプする。
空中で一回転したチミーは体を真横に倒し、スラリとした脚を伸ばして蹴りの構えに入っていた。
ヴァルグリーズはすぐさま防御姿勢を取るべく半身になって腕を動かし、左腕を盾のように構えることで蹴りを受ける。
激しい閃光を飛ばしながら、ヴァルグリーズが腕を振ってチミーを払い飛ばす。
勢いよく地面にぶつかったチミーは跳ねるように飛び起き、腕を伸ばしてエネルギー弾を発射。
再び受け止めた左腕はエネルギー弾が持っていた熱量によって大きく損傷し、漏電させながらだらんと腕を垂らす。
しかしすぐさま元通りになった様子を見て、ヴァルグリーズの持つ力を察したチミーが舌打ちをする。
「あー.....めんどくさいわね。」
独り言を呟いたチミーに向かって、ヴァルグリーズが突進。
攻撃を避けようと上半身を傾けたチミーだったが、近くに桜が居ることに気が付いた。
足を止めて歯を食いしばり、ヴァルグリーズの繰り出した右ストレートに向かって両腕を大きく伸ばす。
「『防護壁』ッ!!!」
チミーを中心として、チミーと桜を包む形の透明な半球のバリアが展開される。
バリアに激突したヴァルグリーズの右ストレートから、周囲の砂を舞い上がらせる程の衝撃波が走った。
「チミーちゃん、奴は動力源を止めない限り、ずっと再生し続けるの!」
後ろにいた桜が、チミーにヴァルグリーズの仕組みを教える。
チミーは前を向いたまま、桜に問いかけた。
「動力源がどこにあるか、分かる?」
「動力源かどうかは分からないけど心臓の所に、目立つ部品があったよ。」
「...助かる。」
桜の言葉を聞き、額に汗を流しながらニィと笑みを浮かべたチミー。
左腕は伸ばしたままで、右脚と右腕を引いた。
拳を握り、目の前で留まっているヴァルグリーズの拳に狙いを定める。
「だッ!」
体を捻り、握りしめた拳を思い切り突き出した。
空気を殴り、そこから発生した衝撃波が拳の威力をそのまま乗せ、ヴァルグリーズの拳を弾き飛ばす。
ヴァルグリーズが一瞬よろめいたその隙を狙い、チミーは足を踏み込んで走り出した。
「私達も...!」
チミーの加勢をしようと前に出したユウリの体を、篭手で覆われたライカの腕が遮る。
片耳を折って不思議そうな顔を向けたユウリの気持ちを読み取り、ライカが止めた理由を説明した。
「やめておいたほうがいいと思います。両者共に、見た目よりも遥かにとんでもない威力で殴り合ってます。下手に行くと、巻き込まれますよ。それに.....」
ライカはユウリを遮っていた左手で、自身の顔を覆っていた甲冑のバイザーを持ち上げる。
綺麗な蒼の瞳は、希望に満ちた輝きでチミーを見ていた。
「勝てますから、今のチミーさんなら。」
フィギュアスケート選手のように、チミーは高速で地面を滑走しながらヴァルグリーズと殴り合う。
ヴァルグリーズの無機質な顔が、どこか焦りを帯びているように感じ始めた。
ヴァルグリーズは肩からいくつかの小さな機関銃を展開し、一斉にチミーを捕捉する。
「ッ!」
ターゲットから逃れるべく、銃口の奥が爆発したのを目視したチミーが急停止。
しかしヴァルグリーズはそれすらも読んでいたようで、既に機関銃は止まったチミーへとロックオンされていた。
停止したチミーの元に、集中砲火が浴びせられる。
しかし、その弾丸はチミーには届かなかった。
まるで弾丸の持つ時間を止められたかのように、放たれた弾丸は空中で静止している。
構えたチミーが『永遠なる供給源』を使用し、弾丸の持つ運動エネルギーを奪ったのだ。
空中で静止している弾丸のうちの一つを手に取ったチミーは、弾丸をヴァルグリーズに向けて指を添える。
「返すよ!」
指を弾き、弾丸を射出。
ヴァルグリーズの機関銃が持つ弾丸は大型の50口径弾。
機関銃から放たれるそれは15000ジュール前後のエネルギーを持つとされており、これは野球選手が放つ豪速球の100倍以上とも言われている。
何発も放たれたそのエネルギーを一気に奪い、一つの弾丸に集約させて返したのだ。
弾丸は音を抜き去って空を突き破り、ヴァルグリーズの肩に大穴を開ける。
「っつ〜.....上手く当てるのってムズいわね。」
硝煙溢れる指を払いながらチミーが呟く。
命中した部分はキレイな大穴が空いたものの、すぐに再生されてしまった。
やはり桜の言う、身体の中心にある動力源を叩かねば。
肩を撃ち抜かれてダランと垂らしていたヴァルグリーズの腕が起き上がる。
金属同士が重くぶつかり合う音を立て、両手首に仕込み銃のようなものが出現した。
接近するチミーを睨みつけ、ヴァルグリーズは腰を落として銃を構える。
「ッ!!」
激しい閃光と共に、ヴァルグリーズの両手首から極太のレーザーカッターが放出された。
大地を難無く削り取るレーザーカッターを飛んで避け、滑りながら上半身を倒して避け、時には手にエネルギーを込めてレーザーカッターを弾いたり。
巧みに回避しながら、チミーは徐々にヴァルグリーズの元へと距離を詰めていく。
チミーは地を蹴り、宙に浮かんだ。
レーザーカッターが当たるギリギリの位置に密着しながら、手首から腕に沿って駆け上がっていく。
ヴァルグリーズは先ほど桜を攻撃した爆竹のような爆発を放つが、チミーはエネルギーの膜を纏うことで爆風を無効化。
着実にヴァルグリーズの胸部に接近していた。
ただでさえ体力が少ない上に、今は意識を取り戻して間もない。
以前までの自分なら、既に力尽きていただろう。
しかし『宝珠争奪戦』を経る事で、並大抵の負荷をものともしない体力を得た。
そんな状態のチミーは、無敵に等しい。
ついにヴァルグリーズの胸部へと到達したチミーは、振りかぶった右手を大きく開く。
ヴァルグリーズの胸にある装甲の繋ぎ目に、エネルギーを込めた右手を思い切り突っ込んだ。
激しい電気を撒き散らしながらも、装甲を引き剥がそうと力を込める。
「熱っ...!!」
ヴァルグリーズの装甲を歪め、脚を使って穴を広げていく。
電線をかき分けて暗い内部を覗き込むと、中はコクピットのようになっていた。
人は乗っておらず、代わりに『あるもの』が座席の部分に置いてある。
「...あれか?」
座席の下に、小さな橙色の球が置かれていた。
暗いコクピット内で一際輝きを放っていたそれは多数のケーブルに繋がれており、これが桜の言っていたものだろうと推測する。
チミーは僅かに開いた隙間に腕を突っ込み、その球に向けて手を伸ばした。
しかし、その手は届かなかった。
チミーの身体は突然急激な速度で後方に移動し、コクピットから放り出されてしまう。
ヴァルグリーズがチミーを掴み、崖に叩きつけたのだ。
「痛ぁ〜....!あとちょっとだったのに!」
背中から叩きつけられ、巨大な落石がぶつかった頭を撫でるチミー。
だが、まだ全然戦える。
チミーはヴァルグリーズを睨んで膝を曲げ、衝撃波と共に再び飛び出した。
砲弾のような速さで突撃したチミーをヴァルグリーズは左手で受け止める。
しかし、さらに加速したチミーによって彼女の纏う空気がドリルのように高速回転し、ヴァルグリーズの左手が千切れ飛んだ。
ヴァルグリーズが大きく仰け反った隙に急接近し、再び装甲に密着することに成功する。
先程と同じように隙間へ手を突っ込み、再び装甲をこじ開ける事に成功した。




