今更か?
そしてこの計画は、酒城を含むたった数人にしか知られていなかった。
あまりに大勢の人間に未来を伝えると、未来がさらに不確定なものになってしまうだろう。
『神の目』は、そう考えていたのだという。
「けど、今になってそれを話したって事は......」
「『未来の消滅』が迫っているから、だろ?」
龍豪寺の仮説に、『神の目』が頷く。
形振り構っていられないほど、余裕のない状況に陥っているみたいだ。
「それでその『器』ってやつに...アンタはなろうとしている。そういうこと?」
チミーが酒城の顔を横目で見ると、彼は静かに頷いた。
彼の能力『嗤う革命者』は触れた者の能力を『奪う』能力。
最強クラスの能力である『永遠なる供給源』を奪う事で力を得ようとしたものの、意味は無かったらしい。
「とにかく、能力は返すよ。色々と悪かったね。」
「んまぁ.....返してくれるんなら、いいんだけど。」
酒城は謝罪の後、チミーの前に歩み寄ってその肩に指を触れた。
酒城が保有してある『永遠なる供給源』を、指を通じてチミーへと返還する。
「じゃあ、俺達をここに呼んだ理由は...」
「っ.....!?」
弓浜が『神の目』に尋ねようとしたその時。
チミーの様子がおかしい事に気が付き、会話を中断して振り返る。
チミーがまず感じたのは、激しい目眩。
脳が押しつぶされるような息苦しい痛みと気持ち悪さが彼女の意識を奪い、チミーはそのまま床に倒れ込んでしまった。
能力を戻した酒城本人も、困惑の表情を向けている。
「一体、何を....!」
「能力を返還したのは初めてだから分からないが、『今まで無くしていた能力が急に戻った』事にショック症状を起こして昏睡状態になってしまったんだろう。大丈夫、時期に目を覚ます.....はず。」
意識は戻らないが、息はある。
とはいえその場にいた全員が、予期していなかった出来事だった。
「えっと.....能力を返してもらうの、また今度でいいわよ....?」
昏睡状態のチミーへ心配そうな視線を送った後、百合ヶ丘は苦笑いを浮かべて酒城にそう伝えた。
そうして3日が経った。
チミーは未だに、目を覚ましていない。
「昏睡してるだけで命に問題は無い、って言われても、3日も起きてないと心配だよ〜......。」
桜とユウリが椅子に座り、チミーの寝顔をじっと眺めていた。
超能力者の看護師さんによって清潔に保たれているチミーの頬を、桜が撫でようと指を伸ばしたその時。
「おわっ!?」
突然。ユウリのポケットから大きな着信音が鳴り響いた。
音は切ってたはずなのに〜と呟きながら携帯端末を開くと、電話をかけてきたのは景野から。
ユウリは声のトーンを少し落としながら、電話に応答する。
「おっす、ゆーせい。どうしたの?」
「『チーム』に来てくれ。ヤバい事が起こってるらしい。」
電話越しに聞こえた景野の声色は、真剣なものだった。
遡ること数時間前。
とある地下室で、金属が削れ火花の散る音が鳴り響く。
数十人程度の作業員が、ある物を作っていた。
「宇宙の、とある星で採掘されたこの金属。強固な金属の性質を持ちながら、自力で復元する特殊な性質がある。」
責任者らしき男が若い作業員に『それ』を叩きながら説明する。
目の前に聳えていた『それ』とは、20メートルは軽く越えている巨大なロボットだった。
黒をベースに黄色の線が入ったその装甲は、どこか禍々しささえ感じられる。
「それを使って作成したものがこれだ。名を『VAL-01』通称『ヴァルグリーズ』。」
再生する金属を使って装甲を作成したロボット......すなわち、死なないロボットだ。
そんな夢のようなマシンであるヴァルグリーズだが、ただ一つ問題がある。
「内蔵してある機械は正常なんだが、どうも動かなくてな。相当な適正のある人間しか、コイツは認めてくれないみたいだ。」
「へぇ、面白いもの作ってるね?」
「っ!?」
同じ作業員ではない。
そして、彼らが知っている人物でもない。
突然の侵入者に驚き、周囲の作業員達は作業を辞めて一斉に警戒態勢を整える。
そんな様子を見た侵入者は、軽く笑いながら手を振り、敵意が無い事をアピールした。
「やだなぁ、そんなに警戒しなくてもいいよ?私はただ、『お手伝い』をしに来ただけ。」
清々しいほどの笑顔で対応する侵入者。
黒いロングヘアーを靡かせ、シワ1つない深緑の軍服姿をした『彼女』。
その正体は、以前『鏡町』にてライカを暴走させた女のものだった。
手に持つ黄金のコインを弾き、巨大ロボット...ヴァルグリーズに歩を進めていく。
その圧倒的な存在感に、作業員達は足を動かすことができなかった。
ヴァルグリーズを値踏みするように、じっくりと眺めたコインの女。
「ふぅん」と一言呟いた後、責任者らしき男の顔を覗き込んで提案した。
「こいつ、動かせるようにしようか?」
「.....できるのか。」
男の問い返しに答える代わりに、コインの女はどこからともなく『珠』を取り出した。
ガラスのように透き通った表面と、その奥底から溢れる橙色の光。
あまりの美しさに一瞬目を奪われた作業員達へ、コインの女は得意気な顔をして『珠』の正体を語った。
「こいつは『宝珠』。凄まじいパワーを秘めた、お宝だよ。」
これが、今回の事件の発端である。
ユウリと桜が『チーム』の部屋に現れたのを確認した山瀬が、二人に説明を始める。
まず見せられたのは、『現場』の映像。
人々の悲鳴と、吹き飛ぶ瓦礫。
土埃の中心に立っていたのは、巨大な人.....いや。
「ロボット.....!?」
そう、黒い装甲に黄色い線が入った、巨大なロボットがそこに立っていた。
「俺達も詳しい事は分かってないし、正直信じがたい。が、『これ』が被害を出しているのは事実として残っている。君達の力で、何とか止めに行って欲しいんだ。」
「そんな簡単に言うけどよぉ....」
山瀬の頼みに、二坂が呆れたようなため息を吐く。
これまで町のチンピラからギルガンみたいな化け物まで相手してきた二坂も、巨大なロボットと戦えと言われるのは初めてだ。
「現場からの報告によると、『破壊したはずの部分が元に戻っている』らしい。まるで超能力を得たロボットのようだ、と言っている。」
「嫌な予感が.....けど、行くしかねぇんだろ?」
二坂が眉を曲げながら問うと、山瀬は重々しく頷いた。
確かに、こんな得体の知れないものを野放しにしておけば、何が起こるか分からない。
「我々はできる限りのサポートをする。.....頼めるか?」
山瀬の問いに、真っ先に答えたのは桜。
「私は、行きます!チミーちゃんが眠ってる今、私がチミーちゃんの代わりに戦います!あの子は、私を助けてくれたから.....」
「私も行きます!」
「私も!」
桜の言葉にライカとユウリが追従。
「俺も行こう。」
「しゃーねぇ、だったら俺も......っていうか。」
景野に続いてロボットの対応を決めた二坂だが、一つ引っかかる事があるようだ。
それは、いつの間にか『チーム』にディーンが混じっている事。
「なんでコイツが『チーム』に溶け込んでんだよ!?」
「え、今更か?」
あまりにも自然すぎて見逃してしまっていた二坂は、余裕の表情でシェイクを飲んでいたディーンに苛立ちの視線を向ける。
「まぁ目的を達成した以上、暇だしな。せっかくだから社会貢献してやろう、そう思っただけだぜ。」
「こいつ.....」
軽いいざこざはあったものの、『チーム』の6人が、ロボット退治にその身を乗り出した。




