『器』って何...?
薄暗い森を抜けると、森の奥に巨大な洋館が聳え立っていた。
どっしりと構えられた洋館を見上げながら、下風が口を開く。
「こんな所に、何故.....?」
「わざわざ建てたのかな.....。」
ぽつんと存在する洋館に疑問を呈する下風と結。
だがここまで孤立した建物だと、酒城が居る場所だと判別しやすい。
庭を通り、一行は洋館の敷地内へと足を踏み入れた。
入口の扉は施錠されておらず、下風が指を触れただけで軋んだ音を立てながら僅かに開く。
一行は互いに顔を見合わせ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
センサーか何かを搭載しているのだろうか。
8人が館に入った瞬間、天井に吊り下げられてたシャンデリアが力強い光を放ち、広い玄関を明るく照らす。
凝った仕掛けに天井を見回しつつ、チミーは床に敷かれてあった紅い絨毯をゆっくりと歩いていった。
部屋数は思ったより少なく、探索はサクサクと進んでいった。
しかし館内は不気味なほど静けさを放っており、本当に人は居るのかどうか不安になってくる。
「あっ.....!」
しばらく廊下を歩いていると、チミーが何かに気付く。
『副産物』としてチミーに定着している『エネルギーが見える眼』が、酒城のエネルギーを捉えたのだ。
チミーは奥の部屋を指差し、そこに向かって歩いていく。
「お、ようやく来たな。」
ギギッと軋んだ音を立ててドアを開けたチミーに、部屋の中にいた人物が声をかける。
そこにいたのはやはり、酒城だった。
「酒城......!」
一気に戦闘態勢へと入る一行を見た酒城だが、椅子に座ったまま動く様子はない。
フッと一息笑った後、軽く口を開いた。
「そうヒリつくなって。いきなり能力を奪ったのは、悪かった 。」
「だったら早く返しなさいよ。」
「それは僕の話を聞いてから、でお願いしたい。」
ずかずかと前に出て酒城の胸ぐらを掴もうとしたチミーに対して、酒城の背後から声が現れる。
その聞き覚えのある口調に、チミーを含め、後ろに控えていた下風や結が驚きの表情を見せた。
「ゴッ...『神の目』...!」
車椅子を押して現れたのは『鏡町』の時や桜を助ける際にチミー達を導いてくれた『神の目』だった。
「何故ここに?と聞きたそうな顔だけど、それもまとめて話すよ。」
そう言いながら巧みに車椅子を操作して酒城の前に出る『神の目』。
眼鏡越しにチミーを眺め、語り始めた。
「まず、僕が何故『神の目』と呼ばれているか。ここから話そうか。」
「『この世のあらゆるものを見ることができる能力』を持っているから.....じゃないんですか?」
「半分正解だけど、少しだけ違う。」
自信なさげなチミーの回答に頷きながら、『神の目』は半分の不正解を言い渡す。
下風や結もチミーと同じ解釈だったようで、次に出る答えを興味深そうな顔で待っていた。
その表情に応えるように、『神の目』は自身の名の由来を語る。
「僕はね...『この世のあらゆるもの』に加えて『過去』や『未来』も見ることができたんだ。.....数年前までは、ね。」
「過去や、未来.....!?」
つまり『見る』事に関しては本当に全能だった。
今でも相当だが、当時は文字通り『神の目』を持っていたのだろう。
だが続けて補足された『数年前までは』という言葉が引っかかった。
結がそれを、彼に尋ねる。
「今は見れないんですか...?」
「えぇ。見ていた未来が...『途切れた』んです。」
『神の目』は少し俯きつつ、結の質問に答える。
見ていた未来が途切れた。
未来が『見えなくなった』。
ということはつまり.....
「それより先の未来が存在しない......。僕はそう、解釈している。」
「未来が...存在しない.....。」
発せられた内容は、一介の人間が受け止めるにはあまりにもスケールの大きすぎるものだった。
唖然とした様子のチミー達に、『神の目』がさらなる言葉を続ける。
「未来の消滅を防げないかと、僕は色々と考えました。未来を見る能力を失った僕は公に顔を出して色んな人と触れ、解決方法を模索した。」
「そこで出会ったのが、俺の『前任者』だったんだ。」
『神の目』に続いて、酒城が言葉を挟んだ。
彼曰く、世界の消滅を防ぐための方法を考え、それを叶えるために『神の目』と共に奔走した者がおり、その役を酒城が引き継いだのだという。
「という事は、『未来の消滅』を防ぐ方法自体は判明している....と?」
「ええ。とは言ったものの、可能性の域を出ませんが。」
問いかけた下風に、自信と不安の入り交じった表情で答える『神の目』。
『未来の消滅』とはつまり、『世界の滅亡』を意味する。
人間が簡単にどうにかできるレベルのものじゃない。
『神の目』の自信が無いのも、仕方のないことだろう。
「染口さんの能力、そして百合ヶ丘さんの能力を酒城くんが『奪った』のは、それなんですよ。」
「と、言いますと?」
「彼....酒城くんの『器』としての強度を向上させられないかと試したんです。残念ながら、不可能でしたが。」
飛び出した『器』という単語。
チミーは先日、酒城に同じ単語を言われた事を思い出していた。
チミーに『器』としての資格があるかどうかを判断する、と。
「『器』って何...?」
チミーは思わずそう呟いた。
話の流れから『器』というものがとても重要なものである、ということは何となく伝わってくる。
酒城は『神の目』と目を一瞬見合わせた後、口を開いた。
「『器』ってのは、『宝珠』を操る資格。『宝珠』の力に耐えうる肉体を持った人間の事だ。」
以前チミーは博物館から景野に盗まれた『宝珠』を取り返すため、警察に協力を申し込まれた。
一般人では耐え難い強力なエネルギーを持っているから、という理由で。
だがしかし『器』というものは、さらに求めるハードルが高いのだ。
「『複数の宝珠を集中させても耐えられる1人の人間』。それが、『器』としての条件だ。」
「そんな.....無茶な!」
結が声を上げる。
「無茶なのは分かっています!けどこうでもしないと、『未来の消滅』を救える力は手に入らないでしょう。」
「あの.....」
熱くなって結に反論した『神の目』へ、申し訳なさそうな顔をした桜が一つ、尋ねた。
「『宝珠』って、一体何なんですか?」
そういえば、チミーも『宝珠』についてよく分かっていない。
あまりにも強大なエネルギー量に、『宝珠争奪戦』という人智を超えた入手手段。
明らかに、何かあるのだろう。
桜の質問に頷いた『神の目』は、『宝珠』とは何なのかを語り始めた。
まず、この星は「星の管理者」と呼ばれる超常の存在が管理している。
皆がよく「神」と口にして崇めている存在は、この星の管理者の事を指しているという。
『宝珠』はその「星の管理者」の『核』。
力の根源であり、星の管理者が死ぬと出現し、チミーが『宝珠争奪戦』で出会った『彼』のような、何者かによる管理を通じて地上に現界するのだ。
『神の目』は世界中から現在出現が確認できている『宝珠』を、酒城の前任者と共にかき集めた。
現在出現が確認されている『宝珠』はチミーの『創造の宝珠』を加えても計7つ。
そのうち4つを集めたのだが、途中で前任者と対立し、現在は2つ手元に残っていないらしい。
『宝珠』は星の管理者の核であるが故に絶大なパワーを持っている。
それらを全て集め、一つに集約する事ができれば。
「『世界の消滅』に対抗できるかもしれない。これが、現時点で人類にできうる最大限の策だ。」
それが、『神の目』の主張だった。




