俺は強え。
弓浜は自身の能力.....『強者の鎧』の兜部分を解除し、チミーの顔を見る。
「なんで君がここに?」
「なんでアンタらがここに?」
目を合わせた2人は同時に、同じ質問を問うた。
こんな辺鄙な森の中へ来たというからには、仮に偶然の出会いだとすればとんでもない確率。
明らかに、酒城によって仕組まれたものだろう。
「俺達は変なガキに奪われた百合ヶ丘の能力を、取り返しに来たんだ。」
先に答えたのは龍豪寺。
チミーと同様に、百合ヶ丘の能力.....『欠乏する空間』を酒城に奪われたのだという。
チミーも経緯を話すと、四天王は納得したように頷いた。
「なるほどねぇ。俺達と君とを連れてきて、何かをするつもりみたいだ。」
「他にも呼ばれている人が、いるかもしれませんね。」
「まぁ、兎にも角にも。」
チミーを降ろした弓浜が篭手で包まれた拳を、龍豪寺が担いでいた大剣をデンジャーソードに向ける。
「まずはコイツを、ぶっ飛ばさなきゃな!」
その言葉と同時に、弓浜と龍豪寺が同時に走り出した。
デンジャーソードの数メートル前まで接近した所で2人は左右に分かれ、両側から挟み撃ちを仕掛ける。
しかしデンジャーソードに動く気配は無く、その場で返り討ちにする所存だ。
龍豪寺が大剣を振り下ろすと同時に、デンジャーソードの手元がブレる。
耳に響く甲高い音を鳴らしながら、デンジャーソードの直剣が龍豪寺の大剣を受け止めていた。
両手で握られた龍豪寺の大剣を、片手で握った直剣で受け止めるとは。
これには龍豪寺も、苦笑せざるを得なかった。
「きっ....やるねぇ。」
「俺は強え。お前みてーな雑魚なんざ、何人も始末してきた。」
嘲笑うデンジャーソードへ、反対側から弓浜が強襲。
『強者の鎧』の力によって高速の右ストレート放つが、デンジャーソードには届かない。
弓浜の胸部に足を押し付ける事で、接近を防いだのだ。
しかし、弓浜の顔は諦めてないどころか、ニヤリと笑っている。
「教えてやるよ。この鎧は『伸びる』んだぜ?」
突き出された右手からロケットパンチのように腕が伸び、デンジャーソードの顔面に飛び込んだ。
顔を逸らす事で弓浜の拳を避けたものの、自身の髪を掠めていく拳を見たデンジャーソードは、 驚きと感心を含んだ笑みを作る。
「へぇ、そんな事もできんのか。」
片手で龍豪寺と数合打ち合った後、弓浜の胸部を押さえている足に力を込めた。
足首に装着されている人工遺物が駆動し、衝撃波と共に弓浜を吹き飛ばす。
龍豪寺の剣を打ち払った後、人工遺物の放った衝撃波を利用したハイキックをお見舞いした。
顔面に蹴りが直撃するも、龍豪寺は動かない。
なぜなら『無敵』だから。
「お前も能力者、か。」
「ああよ!俺の能力は、剣術が上手いだけじゃ勝てねぇぜ?」
そう言って振り下ろされた龍豪寺の剣を払い、続く横一文字の薙ぎ払いを屈んで回避。
着ていたパーカーのフードを揺らしながら、呟くようにデンジャーソードが言った。
「お前は後回し、アイツからやるか。」
龍豪寺の能力が厄介なものだと直ぐに判断したデンジャーソードは脚を曲げ、起き上がった弓浜に突進。
放たれる剣を弓浜は篭手や鎧によって弾いていくも、僅かな隙をも許さぬ剣が鎧の隙間に的確な斬撃を命中させていく。
腕や脚などの鎧の隙間から、次々と血が溢れ始めた。
「ぐあぁっ.....!」
「弓浜!」
背後を狙う龍豪寺を片脚だけで弄びつつ、弓浜へ的確なダメージを与えていくデンジャーソード。
たまらず飛び出した岸山が、 デンジャーソードの側方を狙った。
「お?」
飛び込んできた岸山に気付いたデンジャーソードは、弓浜への攻撃をやめて岸山の腹部へ剣を放つ。
しかし岸山の身体はホログラムのように剣をすり抜け、デンジャーソードの反対側へと移動した。
放たれた蹴りを避け、再び剣を突き出す。
だがやはり、岸山には通らない。
「なかなか厄介な相手が多いな?」
「僕も、同じこと考えてますよ。」
「おおっ!!」
横から放たれる龍豪寺の大剣を剣で受け止め、手首を僅かに返すだけでそのバランスを崩す。
ガラ空きになった腹部に蹴りを放ち、龍豪寺を少し後退させた。
「確かに物理攻撃には強そうだ。だが....」
デンジャーソードが見ていたのは、岸山の腹部。
そこに発生していた僅かなへこみを見て、彼は岸山のおおよその能力を考察していた。
剣が突き通った瞬間。
一見すり抜けたように見えた体だったが、突き通した部分の周囲だけが、僅かに内側へ歪んでいた。
完全なるすり抜けではない。
『そう見えるだけ』だと推測できる。
「だったら.....」
デンジャーソードが剣を握って大きく腕を振りかぶると、右肩に装着していた人工遺物が煙を吹く。
その後、先ほどと同様に突きを放った。
先ほどと違うのは、そのキレが格段に向上しているという部分。
だがいくら威力が上がろうとも、岸山の能力『崩れる除算』による『粒子化』によって、その剣はすり抜ける。
「ッ......!?」
油断していた岸山は、その攻撃の真の意味に気付いた。
岸山の腹部にはぽっかりと、大きな穴が空いている。
剣による突きの風圧で、岸山の粒子化した肉体が吹き飛ばされたのだ。
「くっ.....!!」
自身の粒子が離れ離れになってしまう事を危惧した岸山が粒子を引き寄せると、デンジャーソードは先ほどとは逆に剣を手元へ引く。
凄まじい力で剣を引いた事により圧力が発生し、今度は逆に岸山の粒子が中心へ吸い込まれた。
「なにっ.....」
「もらったァ!!」
岸山が引き寄せたところを、さらに圧力で収縮させることで実体に近い状態となってしまった岸山。
そこを狙ったデンジャーソードの剣が、袈裟斬りを放った。
血飛沫が、飛ぶ。
「うわああぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
余裕の表れなのか、デンジャーソードは表面を撫でる程度しか剣を通さなかった。
だがそれだけで岸山の皮が裂け、血が溢れるには十分すぎる威力。
凄まじい出血を起こす岸山に、デンジャーソードが嘲笑う。
「おいおい、加減したのに死にかけじゃねぇか?トドメ刺してやるよ。」
傷口を押さえてうずくまる岸山に、剣をゆらゆらと揺らしながら接近する。
しかしその直後、デンジャーソードは歩みを止めて背後を素早く振り返った。
甲高い金属音が鳴り、火花が散る。
「まだ...終わりじゃねぇ.....!」
「そういや、お前のこと忘れてたな。」
背後からデンジャーソードを襲いかかったのは龍豪寺だった。
目の前で剣を止めたデンジャーソードは、競り合う剣の下から不敵な笑みを覗かせる。
『無敵の男』は早めに使ってしまった事もあり、既に限界を迎え始めていた。
非能力者とほぼ変わらない状態になりつつあってもなお、龍豪寺はデンジャーソードに立ち向かっている。
それは仲間のためか、剣士としてか。
いずれにせよ、諦める事はプライドが許さないのだろう。
「おおぉっ!!!」
雄叫びを上げて龍豪寺が剣を切り返し、横薙ぎの一閃。
上体を逸らして回避したデンジャーソードが体を翻し、鋭い突きを放つ。
龍豪寺は大剣を戻して的確に剣を受け止め、再び睨み合った。
ここに来て、龍豪寺は少しだけデンジャーソードの剣を読む事ができるようになったようだ。
「いいね。だが...」
ピピピピッ!
デンジャーソードの腕に付けてあったリストバンド型の機械が電子音を立てる。
突然の音に驚いた龍豪寺に対し、その剣を弾いたデンジャーソードが告げた。
「時間切れ、だ。」
「時間切れ.....?」
何かを知らせるアラームのような電子音と共に攻撃をやめたデンジャーソード。
チミー、結、そして四天王全員が困惑している中、デンジャーソードは直剣を肩に担いで龍豪寺に背を向ける。
「俺が依頼された内容は一定時間、そこのゴーグルの女と戦えって内容だった。ま、実際ほとんど他人とだったけどな。」
つまり、デンジャーソードは始めからチミー達を殺害する気は無く、本気でやり合ってなかったのだ。
「それより、そこのメガネの心配した方がいいんじゃねぇか?傷は浅いが、よく血が出るように斬ったからな。」
「!」
デンジャーソードの指摘を受け、結は横たわる岸山へと駆け寄る。
酷い出血を魔法で塞ぐと、苦しそうな表情だった岸山の顔は少しだけ楽になっていた。
「テメェ一体.....」
怒りを顕にした表情の弓浜が、デンジャーソードの方を振り向く。
しかしデンジャーソードは既に消えていた。
風が撫でる木々のざわめきだけが、その場に残っている。
「と、とにかく全員無事で良かった。下風くんや桜ちゃんの事も心配だし、先に進もう。」
立てるくらいに回復した岸山を支えながら、四天王を加えたチミーと結は森を進み始めた。
あれほどの実力者を仕向けてくる酒城扇輝...一体何が目的なのだろうか。
チミーが色々考えているうちに、少し開けた場所へと辿り着いた。
そこには既に下風と桜とが立っており、一行の姿を見つけるとホッとした表情を浮かべる。
「良かった。無事だったんだね」
「そっちは大丈夫?」
「あぁ。何かよく分からない奴に襲われたけど、なんとかなった。そこの人達....は、あとで事情を聞こうか。」
四天王の姿を見て困惑の表情を浮かべた下風だが、今は先へ進む事を優先しようと判断。
合流した一行は、森の一本道を進んでいく。




