エンジン全開
チミーを追って、フォルゴも地上に急降下した。
「オラぁっ!!!」
地上に降り立つ直前、チミーは追いかけてきたフォルゴの方向を振り向き、奴の体内エネルギーを捉えた。
それを掴み、地面へと叩きつける。
しかし、叩きつけた時にはフォルゴの姿は無くなっていた。
「消えた....!?」
体内エネルギーを操られたフォルゴが地面に叩きつけられる直前。
突如としてフォルゴの反応が、消滅したのだ。
「『次元移動』だ...危ない....っ!!!」
何かに気付いた景野が2本の影の手を伸ばす。
それはチミーの両脇を走り、チミーの背後に出現したフォルゴの腕と脚を掴んだ。
影の手の引っ張る力に耐えつつ、フォルゴは舌打ちをする。
「気を付けろ。そいつはどんな状況でも脱出できて、どこへでも出現する。」
「なぜ『次元移動』の存在を知ってる。」
「ちょっとばかし、アンタと戦った知り合いがいたんでね。」
景野は少し前、デューゴの影に潜み監視を行っていた。
デューゴは一度フォルゴと交戦し、その際に『次元移動』を目の当たりにしている。
彼の影に隠れていた景野は、それを見逃さなかったのだ。
『次元移動』は次元の壁を裂き、その隙間に入るという規格外の能力。
影の手に掴まれていても、それを行うのは可能である。
影の手から離れるため再び『次元移動』を使用して消滅したフォルゴ。
チミーは軽く飛んで後ろに下がった後、すぐ近くに立っていたムーに気付く。
「ねぇ、アンタも戦ってよ。」
「残念だが、俺は戦う気がない。」
「はぁ?戦いなさいよ!」
ムーの首根っこを掴んで頭を揺らすチミー。
だがすぐに手を離し、振り返った。
空間に、再びエネルギーが集結し始めたのだ。
チミーは脚を曲げ、跳躍。
『次元移動』によって出現したフォルゴに合わせて蹴りの一撃を放つ。
エネルギーを最大限に込めた一撃を受けたフォルゴは、地面に叩きつけられる直前に翼を広げて風を掴み、衝突を避けた。
そのまま地面ギリギリを超低空飛行してチミーから逃れようとするが、フォルゴの真下から気配が出現。
フォルゴの影に侵入した景野が、フォルゴと同じ速さで追跡していたのだ。
影は本体と同じ速さで移動する。
どうあがいても逃れられぬ景野の放った影の手が、フォルゴの足首を掴んだ。
「小賢しい!」
空中でバランスを崩したフォルゴは再び『次元移動』を発動。
空間をこじ開け、次元の狭間へと逃げ込もうとする。
「ちょっと待ちなよ。」
開けた空間を閉じようとしたその時。
空間の裂け目を、チミーの指が掴んだ。
チミーは腕に力を込め、空間をこじ開けようとする。
空間そのものがギリギリと軋むような音を立て、裂け目が徐々に開き始めてきた。
「無駄な事を。」
空間を開け始めるチミーを追い出そうとフォルゴが動く。
チミーが放った前蹴りを避け、その顔面に拳を放った。
「ぐッ!!」
顔面に拳が突き刺さり、ゴーグルが砕ける。
だが翡翠色の眼が顕になったチミーの顔は、笑みを浮かべていた。
「けど.....捕まえたわよ!」
チミーはフォルゴの攻撃に怯むことなく、奴の手首を掴んでいたのだ。
片脚を使って裂け目を支えつつ、手首を引いてフォルゴを裂け目から引きずり出す。
すかさず片腕を引いてボディブローを一撃。
そして、上半身を捻り、フォルゴを地面へ叩き付けた。
それに連携する形で景野がフォルゴの影を操り、真下からフォルゴの身体を貫く刃へと変化させる。
「がはっ...!?」
「『影牢』!!」
怯んだフォルゴへさらに追撃を仕掛けるべく、景野は左腕をフォルゴの方へ向けた。
フォルゴの影が四方へと広がり、途中で垂直方向に上っていく。
しばらく上った後にまた屈折し、フォルゴを囲う『影の檻』が完成した。
「ほう、やるな。」
遠くで見物していたムーが感心したように呟く。
しかしその直後、彼の表情が一変した。
「くっくっく......。」
影の牢の中で、フォルゴは肩を揺らして笑っている。
チミーはそんな奴の、体内にあるエネルギーが凄まじい勢いで上昇していくのを見た。
ビリビリと空気が震え、檻の隙間からたびたび放電が起こる。
「片腕を奪われ、ちょうど良い足枷だと思っていたが。」
空気の震えが収まり、顔を上げた景野が息を漏らした。
「少し本気を出しても、良いのかもしれんな。」
デューゴの合成獣によって奪われていたフォルゴの右腕。
それが今、元の状態に戻ったのだ。
片腕を取り戻したフォルゴのエネルギー量については言うまでもない。
その圧倒的な熱量は存在するだけで足下の地面を溶かし、フォルゴを影の檻から脱出させた。
「さて...ここからが本番だ。」
フォルゴが消える。
チミーがエネルギーを検知して捕捉するよりも速く、横方向から出現して蹴りを放つ。
「くっ!!」
周囲のエネルギーを自身に凝縮させて守ったものの、チミーは吹き飛んで地面を転がった。
フォルゴはさらなる追撃をかけるべく翼を広げるが、チミーを守るように影の手が遮る。
しかしフォルゴは気にする事なく影の手を掴んで引っ張り、その根本である景野を引き寄せた。
景野は咄嗟に、自身の影へ溶け込む事でフォルゴの放った拳を回避する。
「無駄な事を。」
そう言ったフォルゴが景野の溶け込んだ影に腕を突っ込んだ。
「『同一化』。」
影に触れる。
それは影に干渉する能力『影の手』を持つ景野にしか成し得ない事だ。
しかしフォルゴは相手の力を複写する『同一化』によって、影に溶け込む力を得ることに成功する。
影の中に潜んでいる景野を掴み、引き上げた。
抵抗すべく影の手を放つ景野だが、まるで残像のようにすり抜けていく。
景野と同様、影へ干渉することができるようになったフォルゴ。
『影は実体を持たず、すり抜ける』性質を逆手に取り、フォルゴの体をすり抜けるようにしたのだ。
今のフォルゴに、景野がなす術は無い。
フォルゴは空いている手を景野の胸に突き刺した。
『影の手』の性質を利用して表皮をすり抜け、景野の心臓を掴む。
「かッ.....!?」
軽く掴まれただけで、急激な不快感が景野を襲った。
全身の血管が収縮する感覚に思わず息が詰まりそうになる。
苦痛によって早くなる景野の心拍数を手で感じ取ったフォルゴが、その状況を楽しむように笑う。
「さて、ゆっくり殺そうか。それとも一気に殺そうか。」
そう言いつつも少しずつ握る力を強めていくフォルゴ。
目を見開き、声を発する事もできない景野の様子を見ながら、フォルゴは決断した。
「では、一気に握り潰してみようか。」
フォルゴが決めた、その直後。
心臓を掴んでいた手が景野の体から引き抜かれる。
フォルゴの肩が後ろに引かれ、振り向いた途端に顔面へ一撃の拳が突き刺さった。
「なっ......!?」
拳の威力に耐え切れず、フォルゴの体が後方に吹き飛ぶ。
数度転んだ後に顔を上げたフォルゴの目には、拳を引いたチミーの姿が映っていた。
「ちょっと、調子に乗りすぎ。」
握った拳を鳴らしながら、景野の前にチミーが立つ。
「まだ元気があるみたいだな。」
チミーの登場に感想を述べたフォルゴが再び消える。
しかしチミーには、全く動く気配がない。
そして、数秒の後。
「ッッッッ!!!!!!」
空気中に振動が走る。
背後に現れたフォルゴの胸部へ、僅かに動いたチミーが肘打ちを放ったのだ。
「ぐあッ.....!?」
凄まじいパワーによってフォルゴの体の慣性が後ろ向きに発生する。
しかしチミーはそれを逃さず、足を引いて振り向いた後に『永遠なる供給源』を発動。
吹き飛ぶフォルゴの体を止め、チミーの頭上を通って反対側に叩き付けた。
地面が揺れ、土が砕ける。
「けっこう鍛えたのよ?私。」
起き上がるフォルゴの視線の先に立つチミー。
足を開けて仁王立ちし、右手を腰に当てる。
上を向いた左手を差し出すように前に出した後、その手を握った。
「『エンジン』.....『全開』!!!」
放たれる衝撃波。
チミーの足元を中心に、地面がひびを生んだ。
空気が震え続ける事もなく、地面が揺れ続ける事も無い。
たった一瞬の、シンプルな影響である。
だがフォルゴはその時初めて、『敗北の可能性』をその身に強く感じたのだ。




