じきに分かるさ
どうやって、など考えなかった。
チミーがどうやっても倒せなかったカイルを、軽々と倒しただと?
こいつは確実に、危険だ。
チミーは景野にアイコンタクトを取る。
『協力するぞ』という意図を込めて。
2人は別方向に走り出した。
景野が影の手を展開し、チミーがエネルギーを集めて生成した破壊光線をムーに向かって放つ。
「おっと、先に言っておくが...」
伸ばした影の手と破壊光線が棒立ちのムーに直撃。
.....しなかった。
「俺には届かないよ。」
影の手も破壊光線も、ムーに触れる直前にふっと消滅してしまった。
まるで攻撃が、キャンセルされたかのように。
「何だ今の....」
「詳しい説明は無しだ。とにかく君達の攻撃は今の俺には届かない。だから......」
警戒心マックスの2人へ手のひらを向け、ムーは一言お願いした。
「もう少し、待ってくれ。」
「は?」
『今の俺には攻撃は届かない。だから待ってくれ』という訳の分からない事をムーに言われ、チミーと景野は半ば混乱状態に陥った。
しかし、ムーに攻撃の意思が見えない以上、何かがある。
どちらにせよ攻撃が通じないのであれば、事が動くまで待った方が良いのかもしれない。
景野も同意見のようだ。
2人はムーを警戒しつつ、彼から遠のくように足を一歩後ろへずらして戦わない意思を見せる。
「...それでいい。」
そんな2人の様子を見たムーは静かに頷き、自身の持っている本を開いてページをめくった。
「もうしばらくか...何か話でもしようか?」
「アンタの目的は、一体なんなの?」
「じきに分かるさ。そう焦らなくていい。」
チミーの質問を華麗にかわしたムーは、2人の顔を再び見て目を細める。
「俺は最初からこうなる事が分かっていた。というより、『こうなるように仕向けた』んだがね。」
「『仕向けた』.....?」
「あぁ。」
景野の反芻に、ムーは頷く。
「この『宝珠争奪戦』を、仕組んでたとでも言いたいの?」
「ま、流石に全部が全部仕組んだわけじゃあないがな。概ね、話の流れを崩さない程度には.....住処にカイルが乱入してきた事は想定外だったが。」
その後、彼は手に持っていた本の表紙を2人に見せた。
黒い革素材に、金色の細かな装飾が主張し過ぎない程度に施された、いかにも特別感の溢れる本だ。
「これは『真実の書』。ここに書き込まれた事項は、全て現実に起こるようになる。.....多少の確率を必要とするがね。」
「つまり、今までの戦いは全てお前が書いたシナリオだったと?」
「その通り。俺が全てを仕組み、そしてこれからの展開も作っている。」
「これからの、展開....?」
チミーがそう尋ねたその時。
『真実の書』を眺めていたムーは唐突にニヤリと笑みを浮かべ、空を見上げた。
「お出ましだ。」
直後。
チミーの目に、大気中のエネルギーが一気に収縮していく光景が映る。
エネルギーが混ざり、融け合い、集結していく。
チミーはそこに、とてつもなく嫌な予感を感じ取った。
「避けて!!!」
咄嗟に叫んだチミー。
景野はその様子からただならぬ気配を察知し、すぐさま自身の影に溶け込んだ。
チミーも素早く絶対障壁を展開し、『嫌な予感』に備える。
するとその瞬間、凄まじい衝撃波が大気中を走り、空間が一瞬真空状態となった。
周囲の建物どころか街全体が紙屑のように砕け散り、跡形もなく街を消し去った所で衝撃波が収まる。
影から浮かび上がってきた景野は、そんな周囲の状況を見て驚愕の表情を見せた。
「街が無くなってやがる......!?なんつー衝撃だ.....」
「一瞬で、こんな事が.....。」
これすらも想定内だと言いかねない落ち着いた様子のムーが、腕を組みながら口を開く。
「この街から既に人払いは済んである。被害者は0人だ、そこは安心していい。」
あまりの出来事に衝撃を受けていたが、ムーの言葉を聞いたチミーは少しだけ、ほっとした表情を見せた。
「3人共、無傷か。流石はここまで生き残ってきた者達だな。」
唸り声のような低い声が響き渡る。
その声がする方向、上空へチミーと景野は顔を向けた。
そこにいたのは、町一つを壊滅させるほどの衝撃波を軽々と放った張本人であり、『宝珠争奪戦』の参加者でもある────────
「さて.....始めようか。」
『宝珠争奪戦』最後の一人。
フォルゴだった。
「全員集合、ってわけか.....」
宙に突如として出現し、地上に降り立とうとするフォルゴを眺めながら、景野は呆然と呟いた。
今この場に、『宝珠争奪戦』最後の4人が集結したのである。
「前置きが長いのは好かぬ。全員いるのだろう?さっさと始めようではないか。」
地上に降り立ち、フォルゴが口を開く。
「最後の、戦いを。」
次の瞬間。
フォルゴの姿が消え、姿が消えた事を認識するよりも早く景野の身体が宙に投げ出された。
空中にフォルゴが出現し、宙に投げ出され無防備な状態の景野へ拳を振り上げる。
「景野ッ!!」
チミーは勢いよく飛び上がり、フォルゴに接近。
チミーの存在に気付いたフォルゴは景野への攻撃を中断し、旋回してチミーの突進を回避した。
「逃がすかっ...!!」
チミーは運動エネルギーを引き絞り、さらに加速。
凄まじいほどの力を保有しているフォルゴとはいえ、運動エネルギーの限界点に到達するスピードを誇るチミーには劣る。
みるみるうちに距離を詰められ、フォルゴはチミーに追い抜かれた。
チミーはフォルゴの前をある程度飛んだ後、急停止して振り返る。
広げた右腕を曲げ、急停止による反動を利用してフォルゴの顔面にラリアットを叩き込んだ。
「ぐうっ!......クックックック。」
フォルゴは顔を押さえながら翼を広げて停止した後、まともに打撃を受けたにも関わらず、肩を揺らして笑っていた。
「凄まじいスピードとパワーだな.....その力、借りるぞ?」
「...え?」
「『同一化』。」
フォルゴがそう呟き、再び急発進した。
その速さは先ほどの比ではなく、運動エネルギーの限界点に到達するチミーのスピードと同じスピードを『再現』していた。
「クソッ....そんなのアリ!?」
チミーもそれを追いかけて飛び出し、両者は空中で小競り合いを繰り広げる。
身体を横にずらしてチミーの拳を避けたフォルゴの蹴りを、上方向に旋回して回避するチミー。
フォルゴの真上から腕を構えて破壊光線を放つが、フォルゴは巨大な紅い魔法陣を展開し、それを打ち消す。
「『相殺』。」
「くっ.....」
破壊光線が通じない事に苛立つチミーは、地上へ向かって急降下した。
『同一化』に『相殺』。
フォルゴの能力らしきよく分からないものに、チミーは完封されている。
ここは一つ、地上の景野やムーと協力するしかない。
チミーはそう考え、地上で戦う事を選択したのだ。




