俺はアンタを応援するぜ
町のとある建物の中で、ジョージは拘束されチミーに詰め寄られていた。
「ねぇ、本体はどこなの?もう面倒くさいんだけど。」
すでに十人以上のジョージを倒し、そろそろ苛立ってきたチミーは一人を捕まえ、解決策を聞き出すことにしたのだ。
「本体ってのは、最初の一人目って事か?残念だが、だいぶ前に死んじまった。」
「はぁ?だったらこの世にいるアンタのコピーを、根絶やしにしないと終わらないってワケ?」
「そうなるな。今も現在進行形で、増え続けてる。」
無限に増殖し続ける能力。
単純なものだが、こいつが増え続ける限り『宝珠争奪戦』は終わらない。
厄介なものだ、とチミーが頭を掻いたその時だった。
「おっと。」
建物に、もう一人のジョージが現れた。
ハンドガンと呼ぶには少し大きい銃を手に握り、チミーに銃口を向けている。
「こいつは『ヘラクレス』って銃だ。アンタが瞬間移動しようが高速移動しようが、こいつは一度ロックオンすれば、アンタを撃ち抜くまで止まらねぇ。」
「今になって、そんな代物を持ち込んでくるとはね。」
そう感想を述べるチミーへ銃を向けながら、一歩ずつ足を近付けるジョージ。
しかしその銃口が僅かに震えている事に、チミーは気付いた。
「世界の平和のために...死んでくれ。」
そう言って銃を強く握り、トリガーに指をかけた瞬間。
震えていたジョージの腕が、さらに大きく震え始める。
「ッ!」
ジョージは歯を食いしばり、もう片方の手を添えてそれを抑えようとするが、震えは収まらない。
しばらくした後、諦めたように目を瞑って銃を下ろした。
「...ダメだ。覚悟していたつもりだったんだがなぁ。」
ため息と共にそう呟いたジョージは、脱力したように『ヘラクレス』を地面に落とした。
「.....こんな子供を目の前で殺すなんて、俺にはできねぇ。どうすりゃいいんだ、ホント。」
葛藤と自己嫌悪の混じった大きなため息を吐いた後、ジョージはチミーに向き直る。
「...アンタ、確か助けたい友達がいるって言ったよな?少し、話聞かせてくれねぇか。」
「...そうか。」
チミーは桜を刺してしまい、死んでしまう前に『創造』の力で彼女を治そうとしている。
宝珠争奪戦に参加した理由を、端から端までジョージに語った。
ジョージはチミーが話をしている間、壁に背を預けて静かにそれを聞いていた。
チミーが話を終えると、若干俯きながら呟くように口を開く。
「まだ若いのに、辛かっただろ。そりゃあこんなイカれた戦いに参加してでも、生き返らせたくなるだろうな。」
そう言った後、決意したようにジョージは壁から背を離し、チミーの方を向いた。
「...よし、分かった。俺はこの戦いを降りる。」
「えっ...」
突然の決断にチミーが戸惑っていると、付け加えるようにジョージが言う。
「子供一人殺せないような奴が、世界の平和なんてものを背負うには荷が重すぎたんだろうよ。....ま、殺せない方が良い事ではあるんだが。」
ジョージは腰に手を当てて広い天井を見上げ、言葉を続ける。
「俺は無限に増え続ける事ができる。いきなり全て救うなんて事をするのが荷が重いってんなら、俺を増やし続け、俺の手が届く範囲からそれを実現していこうと思う。」
ジョージの『世界中を平和にする』という願いは、自身の優しさによって潰えてしまった。
しかし彼はめげる事なく、そう宣言したのだ。
『宝珠争奪戦』からの棄権を宣言したにも関わらず、ジョージの表情は晴れやかだった。
そんな彼を見たチミーは頬を軽く掻きながら、礼を述べる。
「....なんかその、ありがとう。」
「なに、気にすんな。俺の性格じゃ元からできなかった事が、明らかになっただけだ。」
そう言ってジョージは小さく笑った後、チミーの目を真っ直ぐに見た。
そして拳を突き出し、激励の言葉をかける。
「いいか、絶対に勝てよ。勝って『創造の宝珠』を手に入れて、桜って子を助けて、そんな事を引き起こした黒幕をぶっ飛ばしてやれ。」
真っ直ぐな目でそう伝えた後、少し冗談ぽく言葉を続けた。
「.....途中で負けんじゃねーぞ?アンタのために棄権した俺の面子が、無くなっちまうからな。」
そう言って軽く笑ったジョージは、チミーに背を向けて右手を軽く上に上げる。
「じゃあな。俺はアンタを応援するぜ。」
ジョージは建物から出ていった。
気付けばもう一人のジョージも拘束から逃れており、チミーに軽く手を向けたあと建物から消えた。
『鉄の嵐』ジョージ・ガタストン。
棄権により、『宝珠争奪戦』から脱落。
10人いた参加者達は、残すところ4名となった。
「よう」
「あぁ、アンタね」
チミーが広場の隅にあるベンチへ腰掛けていると、真横から景野が現れて声を掛けてきた。
何度も驚かされると流石に慣れる。
視線だけをこちらに向けてきたチミーへ、景野が話を始めた。
「あと4人。俺とアンタと、他に2人しかいなくなっちまった。」
「......私達が戦う日も近いかもね。」
「あぁ。諦める気は、無いんだろ?」
「アンタと一緒でね。」
チミーはどことなく落ち着いた雰囲気でそう返した後、お互いに言葉を止めてしまった。
二人の間に気まずい空気が流れるが、景野はそれを振り払おうと話をチミーに振る。
「アンタのやり方は、うまくいってるか?」
チミーのやり方。
それは決して殺しを行わずに、圧倒的な強さを見せつけて棄権を選んでもらう。
だが棄権を選んだのは、浩太とジョージの2人だけ。
どちらもチミーが関わったとはいえ、最終的には自分の意思で棄権を選んだ2人だ。
「例えエネルギーを操れても、人の意識は操れない。私は.....無力だよ。」
俯き、拳を握りしめてそう語るチミー。
そんな彼女に対し、景野は遠くを眺めながら言った。
「だけど、アンタに関わった事でものの見方が変わったのかもしれないぜ?何も影響を与えなかったと言うのは、少し違うと思うぜ。」
僅かばかりの励ましをかけた後、景野は外套を頭から被り、チミーに告げる。
「いつか戦わなきゃいけないのは分かってるが、ギリギリまでアンタには残っていてほしい。.....死ぬなよ。」
「アンタもね。」
チミーの返しを聞いた景野は口の端を持ち上げてふっと笑い、ベンチから立ち上がって歩き出す。
「じゃあな。また今度...」
そう言って景野が影に溶け込もうとしたその時だった。
「ちょっと待ってくれないか。」
朝の光の中、一つの声が響く。
見ると、近くの建物の壁に1人の男がもたれかかっていた。
眼鏡を掛け、その手に大きな書物を抱えている男、ムーである。
「アンタは『参加者』だね?」
「ま、こんな状況だと流石に気付くか。.....そうだ。俺は『宝珠争奪戦』の参加者、ムー。」
ムーが淡々と自己紹介したのを聞いて、チミーはふと頭に浮かんだ事を呟いた。
「あと1人は...誰なんだろう。」
「さあな。『彼』の情報も途切れ途切れで、誰が生き残ってんのかも分かんねぇ。」
チミーは自身の記憶を辿っていき、最後に生き残っていそうな者を予想する。
「あの顔が骨になってる奴か、悪魔みたいな見た目した奴くらいかな。あの2人は、どっちも強かった。」
不死身の戦士カイルと、上位存在羅業需を名乗るフォルゴ。
その2つの選択肢を出したチミーの言葉に、ムーは目を瞑ってフッと軽く笑った。
「顔が骨になってる奴......か。奴は死んだ。俺の手で、直々にな。」
「なっ.....!?」
ムーがあっさりと答えた事に思わず大きな声を出したチミー。
チミーでさえあれほど手こずった手練れ、それも『死なない』存在であるカイル。
そんな奴を、この男は殺害したと言うのだ。




