けど、もう心配する必要はないですから。
「はぁ...はぁ.....!」
浩太は走った。
カイルに助けられ、メーヤとマーヤが殺害されたのを目の当たりにしてから数日が経っていた。
あの日から、『狩人』の集まりが始まるよりも前の時間を使い、浩太はとある人物を探す毎日を繰り返している。
そんなある日の事。
「あ....!」
探し始めること数日、その人物の姿をようやく見つけた。
HMDのようなものを付けて目を隠した、黒髪でショートカットの少女。
チミーである。
「あの....!」
「はい?...あぁ、アンタか。」
振り向いたチミーは相手が浩太だと分かると少し驚いた仕草をしたが、すぐに落ち着いた様子に戻る。
チミーは凍ったムースのようなお菓子を食べながら、膝を付いて息を切る浩太を心配そうに眺めた。
「何か用?急いでるみたいだけど。」
「あなたには、言っておきたくて.....。」
浩太が急に敵対してくるような性格では無いことをチミーはよく知っていたため、警戒の色は見せなかった。
浩太はある程度息を整えると、チミーに向き合って告げる。
「僕はこの戦いを.....降りることにしました。この世界で、暮らす事に決めたんです。」
『宝珠争奪戦』からの棄権。
争いから逃れられる代わりに、創造の力という名の『夢』を諦める選択。
「唐突ね。何かあったの?」
ムースを一口すくったチミーの問いに、浩太は少し俯きながら答える。
「この前、『宝珠争奪戦』の参加者の子達と戦ったんです。」
浩太は『絶殺のナイフ』を操る双子メーヤとマーヤとの戦いを思い出していた。
「そこで僕は殺されかけた。目の前数ミリメートルをナイフが通っていった時、僕はそこに『死』を見た気がする。今まであんまり飲み込めてなかった『殺し合い』という概念を。」
突如こんな場所に放り込まれて、死ぬかもしれない戦いに巻き込まれた浩太にとって、『非日常』の中に死という『現実』が挟まっている事は、たまらなく恐怖だったのだろう。
だんだんと暗くなっていく浩太だが直後、顔を上げてはっきりとした口調で話を続けた。
「そこで僕は悟ったんだ。あんな化け物達と命のやり取りをするには、僕は──────弱すぎるってね。」
「...アンタが求めていたものは、どうすんのよ。」
「それはもう、見つかったんです。」
「.......え?」
浩太はこの世界で暮らしていくうちに、『狩人』の皆と暮らしていくうちに、気付いたのだ。
浩太が欲していたものは、心の底から信頼できる『友人』であると。
元の世界の浩太は、疑心に陥っていた。
親は嘘を吐き適当を語る事が多く、浩太はそれを何度も信じてしまい損をしてしまった。
親さえ信用できない人間が、他人である同級生を信用できるはずがない。
そうして続々と他人を疑うことしかできなくなっていった浩太だが、こっちの世界ではその認識が大きく変わった。
一人の人間を騙すために、ここまでする必要は無いはず。
最初はそんな感じで理屈を付けて信用していた浩太だったが、生活を続けていくうちに理屈さえも忘れてしまった。
浩太が求めていたものが、ここにあったのだ。
「ま、とにかく求めていたものが分かったんなら良かった。楽しんで生きなよ。」
「.....ありがとう!」
チミーに礼をし、別れる。
『狩人』達の元へ行く前に、自身を宝珠争奪戦へと誘った『彼』を呼び出し、棄権する旨を伝えた。
『彼』はわざとらしく驚いたリアクションを取った後、軽く2度頷く。
「かしこまりました。では今から貴方は『参加者』から外れ、この世界の住人と化します。」
「あと、一つだけ。」
浩太は一つだけ、『彼』にお願いをした。
それは元の世界での、自分に関する記憶の消去。
『彼』は、その申し出を快く受け入れた。
「かしこまりました。.....ですが、元の世界の人達に忘れ去られるなんて、少し寂しいですね。」
「はは、アナタにそんな感情があるなんてね。......ま、嫌いだったとはいえ、悲しませたくはないからね。」
その言葉を最後に、浩太は『参加者』から脱落した。
「遅いじゃねぇか浩太!何やってたんだぁ?」
「ごめんなさい!ちょっと用があって....」
『狩人』達の元へ着いた時間は、少し遅かった。
いつも時間通りに来る浩太にしては珍しく、ここぞとばかりに団員達は口々に言葉をかける。
「ったく...心配したんだぞ?」
「すみません...けど、もう心配する必要はないですから。」
浩太の言葉に、団長のテグが首を傾げた。
「?どういう事だ。」
「.....いえ、こっちの話です。」
テグの問いに対して誤魔化す浩太。
元の世界を手放し、新しい世界を選んだ。
その表情は、清々しい笑顔に満ちていた。
メーヤ、マーヤの2人が脱落。
そして浩太の棄権により、残るは6名。
『鉄の嵐』ジョージ・ガタストン。
『影の手』景野。
『永遠なる供給源』染口チミー。
『不死身戦士』カイル。
『上位存在羅業需』フォルゴ。
そして.....
「いいぞ、いい感じに減ってきたな。」
森の奥の、小さな丸太小屋。
眼鏡をかけた青年、6人目の参加者ムーが、口の端を持ち上げながらボードゲームを愉しんでいた。
彼の力は『盤面操作』。
その名の通り世界を支配し、動かすことができる能力。
無論、完璧ではない。
世界を動かすとは言ったものの、誰かが何かをする確率を数十パーセント引き上げる、といった能力で、ある程度の確率がなければ成功する事はなく、元々の確率が低く半ば賭けになるようなマネはムーが嫌う。
だがこの能力により、裏では幾度かの戦闘が勃発していた。
まずフォルゴとデューゴ。
デューゴがメーヤとマーヤに殺害される前、この2人が邂逅。
フォルゴは圧倒的な力によってデューゴを追い詰めるも、『切り札』として用意していた超大型の合成獣によって形成を逆転。
そこで不意を突かれ、フォルゴは左腕を喰われてしまったのだ。
左腕を失ったフォルゴは退散し、危機感を覚えたデューゴは洞穴に籠もる事を決めたのである。
次にジョージとチミー。
チミーはあまり隠れる事はなく、堂々とお菓子職人の工房を巡っているため見つかるのは早い。
6人のジョージに囲まれるチミーだが、銃弾の雨など彼女に通じるはずがない。
涼しい顔で弾の一つ一つを潰し、ジョージ達は全員エネルギーを抜き取られて気絶。
チミーの圧勝で終わった。
この2戦により、残る参加者達の実力もある程度把握する事ができた。
フォルゴが最も強いとされていたが、片腕を失い、その魔力量は明らかに減少している。
対してチミーは独自のトレーニングを続けて体力を増やし、6人のジョージによる銃弾の雨も余裕を持って止められていた。
この二人の実力は現在、拮抗していると見て良いだろう。
確信を込めた結論に頷いたその時。
ムーの背後にあった木の扉が、大きな破砕音と共に蹴破られた。
「ッ!?」
「俺だ。自己紹介はしなくていいな?今まで見ていたのだから。」
ムーが潜伏していた小屋の扉を蹴破った者。
その正体は....
『不死身戦士』カイルだった。




