それが敗因だ。
浩太は部屋に置いてある大きな機械式の時計を見て、この後の用事を思い出す。
そういえば、『狩人』達で危険生物を狩るって話があった事を、すっかり忘れていた。
「ちょっと早いけど、先に行っとくか。」
素早く支度をした後、浩太は部屋を出た。
他の『狩人』達と合流し、『狩り』が始まる。
今回は、猛獣が潜伏している遺跡での任務。
浩太の仲間達は相変わらず賑やかで、好き勝手に暴れ回っては猛獣達を追い立てていき、あっという間に任務を完了させた。
「おっしゃお前ら、お疲れさん!」
『狩人』達は仕事が終わると、皆でご飯を食べに行くのが恒例である。
皆がいそいそと帰る支度を進めていく中、浩太はテグにこっそり声をかけた。
「テグさん。僕はちょっと用があるので、先に行っててくれませんか。後で合流しますので。」
「なんだ?用があるなら手伝うぜ。」
「...いえ、これは僕だけの問題なので。」
「ふぅん、そうかい。」
浩太の固い表情を見て、深くは聞かなかったテグ。
他の『狩人』達と先に帰っていくテグを見送った浩太は、誰もいない遺跡の中で一人、呟く。
「....いるんでしょう?そこに。」
空を切る音と共に、薄暗い遺跡の物陰から何者かが浩太を襲う。
浩太が素早くバリアを展開して放たれた攻撃を防ぐと、ガキンと金属のぶつかるような音が鳴り響いた。
「なんで気付いたの?」
「なんとなく。君は...君達は、何者?」
浩太を襲った人物は、ガスマスクを付けた双子の少女。
デューゴを殺害した張本人である『参加者』だ。
その異様な風貌と強烈な殺気に、獣の咆哮でも全く怯まない浩太ですら思わず一歩下がる。
「わたしはメーヤ。あなたと同じ、『宝珠争奪戦』の参加者。」
「わたしはマーヤ。メーヤと同じ、『宝珠争奪戦』の参加者。」
サイドテールをした少女メーヤと、ツインテールをした少女マーヤとがそれぞれ自己紹介をする。
「宝珠争奪戦の参加者....やっぱりそうか。」
浩太は半身になり、メーヤとマーヤからは見えない位置で魔法を編み始めた。
メーヤとマーヤは左右に展開し、再び姿を消す。
バリアを展開し、メーヤの放ったナイフを防ぐ。
その後、先に編んでいた電気魔法をバリアへ当てた。
「ッ!」
バリアの膜全体に電気が流れ、接触していたナイフを伝ってメーヤに感電。
メーヤはバリアを蹴って素早く飛び退いたが、ほんの一瞬の接触にも関わらず、ナイフを持つ手が痺れ震えている。
猛獣達と戦う時に張り巡らせていた『探知の根』が役に立った。
浩太の魔法の一つである『探知の根』。
その名の通り遺跡内に魔法の根を張り巡らせ、周囲の状況を掌握する魔法である。
コレのおかげでメーヤとマーヤの存在にも気付く事ができ、今の攻撃も防ぐ事ができた。
今度は、浩太の番だ。
「うおぉっ!!」
浩太はバリアを解除し、途端に放たれたマーヤのナイフを回避。
その横腹を狙い、爆発魔法を放つ。
「ぐうっ!」
マーヤは爆風に吹き飛ばされ、その間をカバーする形でメーヤが走った。
迎撃するために光の弾を放った浩太だが、突如側転で回避したメーヤが浩太へ襲いかかる。
「くっ!」
身体を捻ってナイフを回避するが、反対方向のマーヤへ背中を向ける形となってしまった。
大きく跳躍して接近したマーヤがナイフを突き出す。
「塵爆!!」
唱えると、地面から砂が吹き出し、マーヤの視界を妨げる。
それでも構わずナイフを突き出すが、視界が遮られた中で振るナイフの精度は数割ほど下落す
るもの。
当たれば絶対に命を落とすナイフ、『絶殺のナイフ』は、浩太の頬から数ミリメートルほど横を通って外れた。
「はぁっ!」
塵爆によって両者の視界が遮られるが、浩太には探知の根によってマーヤの動きを完璧に把握している。
再び爆発魔法を放とうと構えた浩太だったが、その視界は突然かき消された。
「これで、『視て』いたのね。」
探知の根に気付いたメーヤが、その根を切断したのである。
魔法で創り出されたものとはいえ、探知の根は生命を有する植物。
『絶殺のナイフ』を当てられれば、その生命活動は停止してしまうのだ。
「まずいっ.....!!」
塵爆による砂煙も晴れてきた。
危険を感じ、再びバリアを張ろうと構えた浩太よりも速く、マーヤが動く。
しかし、浩太へそのナイフが届く事は無かった。
マーヤの腕は『第三者』に掴まれ、後方へ投げ飛ばされる。
突如現れた『第三者』を、浩太は知っていた。
「あなたは.......!!」
浩太を助けた『第三者』。
それは同じ『宝珠争奪戦』の参加者でもあり、浩太が一番最初に戦った相手でもある───────
「久しぶりだな、少年。」
不死身の骸骨騎士、カイルだった。
「なんっ....!?」
突然のカイルの登場に、メーヤが驚きの声を漏らす。
「刺されれば絶対に死ぬナイフ.....『絶殺のナイフ』。その噂を聞いてここまで来た。」
カイルはそう告げると、メーヤとマーヤの2人に接近。
持っていた大槍を大きく振りかぶり、2人をカイルの左右に分断させた。
「チッ!」
メーヤとマーヤはお互いにアイコンタクトを取って走り出す。
メーヤが跳躍して上半身を、マーヤは滑り込んで下半身を狙う。完璧なコンビネーションだ。
しかし、カイルは2人のナイフを避けようともせず、頸部をメーヤのナイフ、大腿部をマーヤのナイフが駆ける。
しかし、カイルに動揺の色は無かった。
出血もせず、傷は元通り。
平然とした様子で斬られた場所を眺めていたカイルは、意外な反応に戸惑う2人へ問い掛けた。
「『絶殺のナイフ』は、いつ使うつもりだ?よもや....『既に使っている』とは言わんだろうな。」
「ッ!化け物め!!」
カイルの身体を斬ったのは『絶殺のナイフ』だ。
刺されば必ず命を落とす。
.....はずなのに。
カイルは、死なない。
「.....既に使っていたか。」
メーヤとマーヤの反応を見たカイルはどこか悲しげな表情を浮かべ、大槍を構えた。
だが、メーヤとマーヤも『参加者』である。
『絶殺のナイフ』が効かないだけで心が折れるような子達では無かった。
「『絶死のナイフ』が効かないのは何故か知らないけど...」
「細切れにしちゃえば、死ぬよねっ!!!」
マーヤの言葉を合図に2人は飛び上がる。
カイルは槍を持っていない左腕で先に飛び込んできたマーヤを払いのけ、マーヤの影に隠れるように突っ込んできたメーヤのナイフを額で受ける。
「今っ!!」
額にナイフが刺さっても死なない事など、今更気にしない。
メーヤが声を出すと、腰にぶら下げていたポーチから妙な装置を取り出したマーヤが滑り込む。
きらりと光を反射したそれは、鋭いワイヤー。
メーヤと連携した動きによって、カイルの首を切断。
その後、胴体から胸にかけての部分も切断した。
「.....無駄だ。」
しかし、カイルは死なない。
たとえ身体を切断されようとも、その直後に肉体が元に戻る。
肩上でワイヤーを動かしていたメーヤの首を掴んで持ち上げた。
「かっ...はっ.....!」
「メーヤ!!」
マーヤはメーヤを助けるため、カイルの腕に飛び込み壮絶なスピードで切り傷を与えていく。
しかし、カイルは動かない。
与えた傷もすぐに消え、全くの無意味であるという事を改めて認識させられた。
「もう用はない。」
無慈悲な声色でそう告げたカイルは腰から短剣を抜き、首を掴んでいるメーヤの腹部へ突き立てる。
そのまま躊躇無く腹部を突き刺し、引き抜いた。
「がはっ....!?はっ...はっ....」
赤黒い血飛沫がガスマスク内を染め、メーヤの腹部からどくどくと血が溢れる。
その様子を呆然と見ていたマーヤに対し、カイルは瀕死のメーヤを捨ててマーヤを睨んだ。
「おっ....お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!」
怒り狂ったマーヤはナイフを構え直し、突進した。
カイルに攻撃が効くかどうかなんて、もはや関係ない。
足元を滑り込み、地を蹴って壁を蹴る。
カイルの首元に飛び付いたマーヤは、怒りに任せてカイルの首元を何度も突き刺した。
後ろに手を回して掴もうとするカイルの腕を避け、懐から小さな缶のようなものを取り出す。
「死ねっ.......!!!」
カイルの首元から離脱しつつ、缶を投げつけた。
缶からは紫色の煙が勢いよく噴出し、カイルの周辺を包み込む。
猛毒のガスだ。
しかし、やはりカイルは死なない。
毒の煙をかき分けてマーヤに接近し、大槍で足元を一閃。
マーヤは飛び上がる事でそれを回避するが、その動きを予測していたカイルに左手で首を掴まれてしまった。
メーヤと同じ状況である。
「クソっ!!クソっ!!クソっ!!クソっ!!」
メーヤは足をバタつかせながら、カイルの腕に何度もナイフを突き刺した。
血飛沫が何度も飛び散るが、その度にカイルの腕は再生する。
カイルからは、逃げられない。
「終わりだ、娘。」
そう告げたカイルは、左手にほんの僅かな力を込める。
何かがへし折れるような音の後、動かしていたメーヤの足が止まった。
「ごっ...!?ぐっ...っ....」
首の骨が折れ、一気に呼吸が漏れるメーヤ。
地面に倒れているマーヤの近くへ無慈悲に投げ捨て、カイルは口を開いた。
「『絶殺のナイフ』という代物を持っていて、何故か2名での参加。それにナイフの術も、身体能力も達人のものだった。普通ならかなり優位に戦いを進め、『創造の宝珠』を得る事も夢では無かっただろう。だが.....」
髑髏と化した顔を2人に向け、冷たく言う。
「『俺は死なない』。それが敗因だ。」
そう言ってカイルは足を引き、瀕死の2人を残して静かに去る。
一部始終を呆然としていた浩太は、カイルの接近に身構えた。
しかしカイルは、まるで浩太が見えていないかのように脇を素通りする。
「え.....。」
「貴様と戦う気は無い。貴様に、俺は殺せないのだから。」
困惑する浩太へそう告げたカイルは、そのままどこかへ去ってしまった。
冷たい風が吹く遺跡の内部で、瀕死のメーヤはマーヤに声をかける。
「勝てな...かった....。」
「残念だね...。」
「だ..けど...」
マーヤは血を吐き、身体を小刻みに痙攣させながらも手を伸ばし、メーヤの手を握った。
「最後まで、2人で居られて良かった....。」
「そう...だね......。」
その後、2人が動くことは無かった。




