情が移っちまうのは勘弁だぜ
見知らぬ民家の中で、ジョージは目を覚ました。
死んだ感覚はない。
ボロボロで、出血に出血を重ねていた身体も随分と楽になっていた。
しかし起き上がろうと腹部に力を入れると激しい痛みが伴い、再びジョージはベッドへ横になる。
「あ、目が覚めましたか?」
若い男の声。
起き上がれないジョージは顔だけを声のする方向へ向けると、10代中頃くらいの若い少年.....浩太が扉を開けてこちらを覗き込んでいた。
「あ、アンタは.....?」
「あなた...『参加者』ですよね。」
「ッ!?」
浩太の発した言葉に、ジョージは勢いよく立ち上がろうとする。しかし、激しい腹部の痛みによって再びベッドへ押し戻された。
「いてててててっ!?」
「落ち着いてください!内臓が出血してるんですよ!」
腹部を押さえてのたうち回るジョージを、浩太が慌てて支える。
「大丈夫です。僕は別に、あなたを倒す気はありませんよ。」
「...?」
ジョージは浩太から発せられた言葉に耳を疑った。
「お前も『参加者』なんだろ?なら、俺を殺すべきじゃ。」
「はぁ、まぁそうなんでしょうけど....。殺したくないんですよ、少なくとも今は。」
「どういう事だ....?」
遠慮がちな浩太の態度に、ジョージが首を傾げる。
首が痛み、再びジョージはのたうち回る事となった。
昼過ぎ。
ようやくジョージは起き上がれるようになり、ベッドに座って浩太の話を聞いていた。
今ここに『複製体』達を呼んで包囲しても良いが、仮にも助けてもらった相手。
いきなり攻撃する、なんて無粋な真似はできない。
それに、あちらに敵対の意思は無いと判断した以上こちらも敵対しない事にした。
戦う気の無い奴を殺す必要は無い。
ジョージは大人しく浩太の話を聞いた後、顎に手をやって考える。
「ふぅん。つまりお前は、ここに来た理由が分かんねぇってことか。」
「まぁー...そう、ですね」
「無意識のうちに、何かを欲していた...とか?」
「無意識のうちに、何かを欲していた.....。」
ジョージが言った事を、浩太は反芻する。
『参加者』は皆、『創造の力』を欲する者達だ。
浩太のように、何かを創造する力を求めてはいるものの、その自覚が無い奴だって時にはいるのかもしれない。
「そういえば、ジョージさんの願いは、何なんですか?」
「あぁ?俺か?」
何かここに来た理由を、思い出せる参考になるかも。
そう考えた浩太は、ジョージに願いを尋ねた。
「......はぁ。誰かに願いを打ち明けるなんざ、思いもよらなかったぜ。」
ジョージは頭を押さえてため息をつく。
しかし嫌というわけでもなさそうだ。
椅子に座り直すと、遠くを眺めるように顔を上げ、自身の事情をゆっくりと語り始めた。
「俺のいた世界じゃあ、戦争ばっかり起きていたんだ。」
ジョージは、とある国の軍隊に所属していた。
ジョージの国は科学技術の発展が凄まじく、よく資源関係で他国といざこざを起こすような国である。
そんな国で平和を手に入れるため、家族や友人を守るために志願した。
よくある理由だ。
「.....んで、うちの軍には『人体複製炉化計画』ってのがあったんだ。」
「人体複製炉化計画?」
ジョージ曰く、簡単に言えばコピー機を人体の中に埋め込み、人の体をしたコピー機を作ろうという計画だそうだ。
普通考え付かないようなバカげた内容だが、天才はいるもんだ。
完璧なまでにその理論を組み立てる事に成功し、その実験の第一号として、ジョージが選ばれる事に。
第一号として選ばれた者はジョージを含めて計6名。
しかし、手術に成功したのはたったの2名だったと言う。
「もう一人、手術に成功した奴もいたんだが.....頭がおかしくなっちまって自殺しちまったよ。」
「ということは、手術に成功できたのは実質あなただけ.....?」
「ん、まぁーそうなるな。」
ジョージは後頭部を掻きながらそう答えた。
それからジョージは激しい訓練を経て、自国の切り札として戦った。
無尽蔵に武器や人体が『複製』されていく軍に、他国が敵うはずが無い。
『鉄の嵐』とまで呼ばれ恐れられるほどの力で、ジョージの軍はどんどん勝利を重ねていったのだ。
だが、戦っているうちにジョージは気付いてしまった。
自分達の守るべきもののために、他国の守るべきものを破壊する。
こんなものを、平和と呼べるのだろうか。
誰かが幸福でいるには、誰かを不幸にしなければいけないのかと。
「そうしないといけないってのは分かっちゃいたんだが....どうも納得がいかなかったんだ。」
誰かのために、誰かが犠牲になる世界。
ジョージはそんな世界に、少しずつ疑問を抱いていたのだ。
「そうして俺は願った。今は戦いが続いてるけど、いつか誰も不幸にならずに平和でいられる世界が訪れますように、ってな。」
「それが、あなたの...?」
「あぁ。」
ジョージが願ったのは、誰もが平和でいられる世界。
それこそがジョージの『創造』したいものなのだ。
「とんだ皮肉だよな?誰もが平和でいられる世界を得るために、宝珠争奪戦で他の奴らと命のやり取りをするんだからよ。」
ジョージはそう言って空笑いをする。
恐らく彼自身も、自分が本当に正しい事をしているかどうか分かっていないのだろう。
「けどよ、人が死ぬのはこの争いで最後にしたいんだ。他の奴らがどんな願いを持ってるかは知らねぇ。己の野心のため、失ったものを取り戻すため、色々あるだろう。」
ジョージはそう言った後、浩太の目を真っ直ぐに見て言い切った。
「けど俺は、これから救える命を救いたい。」
ジョージの言葉を、浩太はただ黙って聞く。
他の参加者の願いを否定するわけじゃない。
ジョージ自身、自分勝手な願いだと自覚している。
平和が訪れても、遅かれ早かれ人は死ぬ。
悲しみは消えないだろう。
「けどよ、悲しむべきでない時に悲しむ人間を減らせるなら.....減らしたいな、って思っちまったんだ。」
そう静かに呟いた後、気持ちを切り替えるかのようにジョージは大きく息を吸った。
「なんかスッキリしたわ。話聞いてくれて、ありがとな。」
敵同士なのにここまで友好的なのは、ジョージの根底にある優しさ故だろう。
「治療もありがとな。世話になったぜ。」
「ちょっと、まだ.....」
「俺達は本来、敵同士なんだ。あんな話をしておいてなんだが、情が移っちまうのは勘弁だぜ。」
引き止める浩太に肩をすくめてそう言ったジョージは、部屋の扉を開けて去ってしまった。
ジョージが去った後、一人となった部屋で、浩太は考える。
自分は、あの時に何を求めたんだろうか?と。




