やっちまえ、お前ら!
薄暗い洞窟。
デューゴが普段潜んでいるこの隠れ家では、複数の合成獣が入り組んだ洞窟内を行ったり来たりしている。
デューゴは合成獣を使って、洞窟内に罠を設置しているのだ。
『宝珠争奪戦』の参加者に選ばれるほどの超人達が相手では強引にでも突破されるだろうが、侵入を知らせ、足止めをする事ぐらいは可能だろう。
今も張り巡らされた無数の罠が、この洞窟内で眠っている。
比較的体格の大きなものが多い合成獣と、この洞窟は相性が良くないように感じるが、罠によって誘導する事ができれば退路を断ちつつ一方的な戦闘が可能だろう。
「この辺りは暑いな。」
デューゴはじんわりと滲み出る汗を拭い、独り言を呟く。
洞窟の入口付近は、ひんやりとしているがどこか蒸し暑い。
ある程度罠を張り終えると、作業を終えてトンネルの奥へと入っていった。
ただでさえ入り組んだこの洞窟に張り巡らされた無数の罠。
絶対的に安全な拠点を持つというのは、戦いにおいて重要だ。
この争いでも、かなり有利に事を運ぶことができるだろう。
そして『宝珠争奪戦』に勝ち、『創造』の力を得ることができれば......
合成獣を作り続ける生活も、終わりを迎えられる。
しかし、宝珠争奪戦に勝利した後の事を想像して浮かべていたデューゴの笑みは、一瞬にして消え失せていた。
額から再び汗が滲み出て、開いた口が塞がらない。
「は......?」
角を曲がった先で、デューゴの所持していた合成獣が一体。
血を流し、倒れていたのだ。
「お...おい!」
デューゴは合成獣に駆け寄って身体を調べてみる。
息は既に無く、死亡が確定していた。
合成獣の死体をくまなく観察しつつ、デューゴが思考する。
合成獣が浸かっている血溜まりは、合成獣の2つある喉にできていた、大きな切り傷から流れていた。
殺意を持った何者かによる仕業であるのは明白だろう。
だが合成獣と自分以外の異物が侵入すれば、即座に作動する罠も作動していない。
謎が増えていく中、足が6つある合成獣が奥の方から駆け寄ってくる。
デューゴの呼びかけに応え、こちらに回ってきたのだ。
「おぉ、コリベガム。見てくれ、バケロッチャがやられた。」
デューゴはコリべガムと呼んだ合成獣の姿を見て、異常はそこまで広がっていない事が分かり、ホッとした表情を見せる。
バケロッチャと呼んだ2つ首の合成獣の死体を見せながら、これを運ぶように指示したその時だった。
ベリベリベリベリ。
皮が千切れる音を立てながら、コリべガムの胴体が裂けていく。
よく見ればコリべガムの目からは、既に生気が失われていた。
「.....ッ!?」
裂けた胴体から飛び出した『何か』を、間一髪で回避。
飛んできた『何か』の正体は、小さな刃物だった。
再びコリべガムの胴体に目を向けると、裂けた胴体から2つの影が外に出ている。
コリべガムの血を全身に纏いながら立っていたのは、ガスマスクをした2人の少女だった。
畜生、やはり『参加者』か。
張り巡らされていた罠が作動しなかった理由は、コリべガムの腹を裂き、その体内に潜伏していたからだろう。
「.....セキュリティを、見直さなきゃな!」
デューゴが指を鳴らすと、あちこちから合成獣が集結。
血に塗れた2人の少女を睨み、威嚇した。
2人の少女が背後を振り向くと、反対側からも合成獣が詰め寄っている。
「やっちまえ、お前ら!」
デューゴの合図と共に、合成獣達が雄叫びを上げて進撃した。
だがその雄叫びは、徐々に減少していく事になる。
少女2人の連携した動きで、次々と合成獣が倒されていくのだ。
それも、たった一斬りで。
合成獣は普通の生物に比べ遥かに強い耐久力と生命力がある。
たとえ首を切断されても動く合成獣すら居るにも関わらず、かすり傷程度の傷を付けられただけで倒れていくのは何故だ?
デューゴの頭には疑問が増えるが、化け物揃いの『参加者』の一員である以上、合成獣達があっさりやられてしまう事はある程度想定していた。
その場を合成獣達に任せ、既に彼は奥へと後退。
少し開けた場所で、追いかけてきた2人の少女を迎え撃つ形となった。
「あははっ!」
少女の片割れがツインテールを揺らしながら天井を蹴り、左脚を軸に回転しながら突進。
上方からトルネードのように襲いかかってきたその刃を手刀で弾き、横方向から接近するもう片方を横蹴りで突き飛ばす。
「ぎっ...!」
「よし、いけ!」
2人の少女の片割れ、短いサイドテールをした方を突き放したデューゴがすぐさま合図を放つと、2人の少女の間に壁のような合成獣が出現した。
何重にも重なった肉の鱗がうねる、強靭な合成獣だ。
デューゴはこれによって、2人の少女を分断させる事に成功する。
ツインテールの少女とデューゴとの、激しい接近戦が始まった。
容赦なく顔面を狙うナイフを避け、蛇と蝙蝠の合成獣を召喚。
突進した蛇の合成獣の首を少女が切断した隙を狙い、左手首を掴む。
すかさず右手で握ったナイフを繰り出そうとした少女だったが、その肩に蝙蝠の合成獣が掴みかかった。
「ぐぅっ!」
合成獣の鋭い爪が肩に食い込み、少女は初めて悲鳴を漏らす。
デューゴはそのまま少女の両手首を掴み、地面に押し付けた。
「はぁ、はぁ......」
心拍数が上がっている事を実感しつつ、ようやく少女を無力化させる事に成功する。
だがそう思っていたのもつかの間、背後から大きな物音が鳴った。
2人の少女の片割れ.....サイドテールの方と戦わせていた壁型の合成獣が倒れたのだ。
大剣を数十回刺されても倒れず、何度も再生を繰り返すあの合成獣を、たった数分でどうやって。
一度この少女を離し、体制を立て直すか。
それとも合成獣にあの片割れを任せ、今この少女を殺してしまうか。
デューゴの一瞬の迷いに、掴まれているツインテールの少女は気付いていた。
腰を捻って下半身を持ち上げ、脚を絡ませる形でデューゴの腕を固める。
全身を使ってデューゴの手首を捻り、拘束から逃れることに成功した。
「なっ....!?」
もう片方の少女を相手していた蝙蝠型の合成獣も、一瞬で倒されてしまっていた。
コイツらは、ヤバい。
死の意識が背中を駆ける。
合成獣による時間稼ぎができなかった以上、取るべき道は一つしかなかったようだ。
後退し、体制を整えること。
幸い洞窟の奥には、緊急脱出用のルートをいくつか用意してある。
今この場を支配しているのはこの2人だ。
ここは一度脱出し、作戦を練り直すのが得策。
そう考えたデューゴは2人の攻撃を凌ぎながら、奥へと足を踏み出した。
ツインテールの攻撃を腕に装着していた亀型合成獣の甲羅で受け流しつつ、洞窟の縦穴から飛び降りる。
口笛を吹くと現れた、翼が6つある合成獣に掴まって縦穴から着陸。
続いて落下してきたサイドテールを巨大な手をした合成獣で弾き返した後、更に奥へ走る。
「ッ!」
巨大な手の合成獣を瞬殺したツインテールが接近していた。
しかしここは機敏な動きがしづらい細い道。
繰り出されたナイフを腕に受けながらも、タックルで突き飛ばした。
腕から血が垂れるが、軽傷だ。
デューゴはこの細い道へ、今呼べる分の合成獣全匹を集結させ全力で足止めをした。
デューゴの本職は生物学者、元々体力には自信は無い。
吐きそうなくらい息を切らしながら、道を全力で駆け抜けた。
あと少し...!あと少し.......!!
あと少.......
脱出用の出口が見えてきた頃。
急激に意識が遠のき、全身から力の抜けたデューゴは横に倒れてしまう。
「なん...で.....」
デューゴは疑問の言葉と共に、口から血反吐をこぼす。
ちょうど追い付いていた、2人のガスマスク少女が彼に説明した。
「これは『絶殺のナイフ』。どれだけ軽傷であろうとも、これで切られた生き物は全て...死ぬ。」
例えそれが、ほんの僅かな切り傷でも。
「そんなの、アリかよ......。」
デューゴは絶望と倦怠に塗れる引き攣った笑みを見せ、目を閉じた。




