私は、もっと強くなる!!
朝。
チミーは宿のベッドで目を覚ました。
『過剰損耗』による反動がまだ回復しきっていないのか、右肩がズキズキと痛む。
意識が朦朧としていてよく覚えていないが、景野に助けられ、ここまで連れてきてくれた事は知っている。
真意はともかく、また会ったらお礼を言わないとね。
そう自身に言い聞かせた後、チミーは昨日の戦闘を思い出した。
『永遠なる供給源』を全力で使ってようやく張り合えるほど強力な、フォルゴの実力。
『エネルギーを操る』という強力すぎる能力によってほとんど負けなしだったチミーにとって、フォルゴの存在はあまりにも印象的だった。
「もっと.....強くならないと。」
『永遠なる供給源』は強い。
だが使用者であるチミーは、その能力を温存しながら戦わねばすぐに『過剰損耗』に陥るほど『永遠なる供給源』の力について行けていない。
最初から全力で戦う事ができれば。
何時間、何日と連続で戦う事ができれば。
チミーの脳裏に、自身が貫いてしまった桜が映った。
守れなかったものも、守れるようになる。
チミーは深呼吸をしたのち、小さく呟いた。
「私は、もっと強くなる!!」
その日から、チミーがほとんど行ってこなかった鍛錬の日々が始まった。
街中で派手に動けばすぐに『参加者』に目を付けられてしまう。
幸いこの世界は自然が豊富な、未開拓な部分の多い世界。
チミーは自身の肉体を鍛えるため、日中は近くにある森にて過ごす事に決めた。
とは言ったものの、鍛錬とは無縁の生活を送ってきていたため、何から始めれば良いのか分からない。
とりあえず、ジョギングでもするか?
体力を大幅に消耗するトレーニングといえばランニングだろう。
チミーはその場で5、6度ほど足踏みをした後、新幹線の如き速度で走り出した。
鬱蒼と生え盛る巨木を薙ぎ倒しながら、ペースを落とさずに走っていく。
その様子はもはや走るというより、長い幅跳びを繰り返しているかのようだ。
チミーにとって、このくらいの速度で走る事自体はそこまで負担になっていないのだが、道中を邪魔する巨木を薙ぎ倒しながら走る事が効果を示している。
なんかいい感じに疲れてきたかも。
ランニングを始めて30分。
夢中で走っていると、時間が経つのが早く感じる。
気が付けば、全く知らない町にやって来ていた。
もうちょっと走ろうかと考えていたチミーの思考は、店から漂う燻された魚の匂いに持っていかれる。
匂いにつられ、ふらふらと店まで歩みを進めていた。
「ま...まぁ強い体を作るためにはしっかり食べる事も大事だし?これ食べてからまた運動すればいいよね.....?」
誰に言い訳しているのか、チミーは独り言を呟きながら店に入る。
こうして、チミーの鍛錬の日々が始まった。
片手で逆立ちをして腕立てをしてみたり、巨木を引っこ抜いてダンベル代わりにしてみたり、岩石が砂になるまで粉々にしてみたり。
トレーニングの基礎なんて全く知らないチミーは、とりあえずトレーニングになりそうな事ならなんでもやってみた。
動いて、食べて、動いて、食べる。
そんな日々を、およそ4日ほど行った頃。
「おおっ!?ちょっと筋肉、付いたんじゃない?気のせい?」
チミーは森の中で、自身の二の腕や腹部にほんのりと乗り始めた筋肉を見て喜びの声を上げていた。
チミーの行ったトレーニングは、お世辞にも効率が良いとは言えないものばかりである。
しかし常人を遥かに越えた規格外のスケールで行ったトレーニングだったため、効果はすぐに現れ始めたのだ。
筋肉が発達するために、全身からズキズキと痛みが現れる。
しかしそんな痛みさえも気持ち良く感じてしまう。
チミーはすっかり、筋トレにハマってしまったのだ。
だが自分の僅かな成長にワクワクしていたのもつかの間、チミーの頭に強烈な殺気が流れ込む。
「ッ!」
後方から飛んできたものに反応し、チミーはエネルギーの壁を生成。
エネルギーの壁にぶつかって落下した『それ』の正体を、チミーが呟いた。
「矢.....?」
そう呟いたと同時に2発目、3発目の矢が空を切ってチミーを襲う。
矢を回避した後、矢の飛んできた方向から感じるエネルギー反応に手を向けた。
「『永遠なる供給源』ッ!!」
前方に見えるエネルギーを掴み、チミーの背後に立っている木へ思い切り叩き付ける。
叩きつけられた『射手』はがしゃんという重い音を立て、地面に倒れ込んだ。
しかし、何事も無かったかのようにすぐ立ち上がる。
全身に禍々しい黒の鎧を纏い、頭部は白骨化した骸。
以前デューゴと戦っていた、髑髏の顔をした戦士である。
「貴様、参加者だろう。」
骸骨戦士はいきなりチミーに距離を詰め、脚に装備していたサバイバルナイフを抜いた。
ナイフの突きを避け、続けて放たれた拳を掴んで止める。
拳を振り払った骸骨戦士はジャンプで下がりつつ矢を放つが、全て見切ったチミーは片っ端から矢を破壊していく。
「なかなかやるな。」
「アンタね、いきなり戦わなくたって.....」
「俺に交渉は不要だ。死にたくなければ、俺を殺してみろ。」
骸骨戦士はチミーの言葉に冷たくそう返すと、容赦無くナイフで首元を狙う。
ナイフを紙一重で回避したチミーはすかさずエネルギー刀を生成し、逆袈裟斬りを放った。
が、しかし。
「やるな。」
骸骨戦士の反応は、それだけだった。
チミーの逆袈裟は、確かに骸骨騎士へ当たっている。
ただ、エネルギー刀で斬られた場所は煙を発しながら『修復』されたのだ。
「面倒ね.....『再生』か!」
「いいや、少し違うな。」
チミーの舌打ちに骸骨戦士が反論する。
少し後ろに飛び退きつつナイフをしまい、骸骨戦士は背中に背負っていた黒い大槍を取り出した。
風を押し出す重い音を立てながら槍を回し、どしりと構える。
「名乗っておこう。俺の名はカイル、『不死者』だ。」
「ふ、不死....!?」
カイルと名乗った骸骨戦士は驚くチミーを無視し、凄まじい速さで大槍の薙ぎ払いを放った。
しかし、チミーはそれよりも速い。
まるで棒高跳びの選手のように、ふわりと大槍を飛び越えるチミー。
腕を構え、『永遠なる供給源』によるエネルギー砲を放った。
放たれたエネルギー砲はカイルの腹部に大穴を穿つが、やはり煙を立てて『修復』されていく。
『不死者』カイル。
フォルゴばかり意識していたが、チミーやフォルゴと同じ『参加者』である彼も、かなりの強敵だ。
振り下ろされた大槍をエネルギー刀で受け止めるが、凄まじい負荷によって、支えている足が地面にめり込むほど重い。
チミーは運動エネルギーを増幅させてカイルの槍を押し返し、距離を取った。
「はぁ、はぁ.....。」
頬を伝う汗を拭い、上半身を落とすチミー。
トレーニングした直後での戦闘なため、負荷を与えていた脚がかなり消耗している事に気付く。
とっととケリをつけないと。
そう決心したチミーはエネルギー刀を構えたが、カイルは逆に槍を背中に片付けていた。
カイルから、戦意が感じ取れない。
「貴様も、俺を殺す事は不可能なようだ。」
カイルはどこか悲しげにそう呟いた後、チミーに背を向けてその場から立ち去ろうとする。
「ちょっと.....!」
戦う気に満ちていたチミーをよそに、カイルは木に飛び乗り、軽々と木を伝って森の奥へと消えていった。
構えていたエネルギー刀を下ろし、チミーはため息をつく。
「...死なないとか、ズルくない?」




